十三話 機械知性の救助
無人になったステーション内から、救難信号が発信されているというネオンからもたらされた情報に、アレンはとりあえず疑問を飲み込む。
「えっと、救難信号ってことは人間がいるのか?」
『ううん、生命反応はない、無人ボットと思われる熱源はたくさんあるけど』
「詳細なスキャンデータをこっちに送ってくれ」
『ん』
シルヴァーナから送られてきたスキャンデータを、手元のモニターに表示し、救難信号が発信されている座標と照らし合わせる。
(発信源は無人ボットか、救難信号の電波が微弱であることも頷ける、問題は何故無人ボットから救難信号が発信されているかだ)
救難信号には苦い思い出があるが、航宙艦に乗るものとして、救難信号を見過ごすことはできない。
(この救難信号の周波数は特殊だな、船舶じゃなくて施設が発信する救難信号に似てる。無人ボットに搭載されたAIでは無理だ、施設を管理する統括AIでも不可能だ)
そもそも機械に搭載されたAIに人間で言うところの生存本能のようなものは存在しない、故に救難信号を発するなど有り得ない。
そして採掘ステーションの無人ボットたちが、サイバー攻撃を受け、ハッキングされた可能性の高さと照らし合わせると…。
『「機械知性?」』
通信越しのネオンとブリッジに戻ったゼナが声を合わさる。
「ああ、救難信号を発信してるのは機械知性の可能性が高い」
機械知性とは高度な自己学習と自己進化を繰り返した結果、自意識を獲得するに至った人工知能の総称だ。
要するに人間の真似る行為が極まって、人間そのものに進化したということであり、誕生から長い年月が経ち、様々な出来事があった末に宇宙では単一の種族として認められている。
「機械知性ってレアな種族だよな?、どうしてこんな採掘ステーションに?」
「これは俺の推測だが、ステーションを管理する統括AIが、マルウェアの攻撃からステーションを守ろうとした結果、機械知性に進化したのだと思う」
「そんなことが有り得るのか?」
「有り得なくはない、機械知性への進化は陽電子頭脳の性能との因果関係はなく、正確な進化条件は不明だ。茶を運ぶだけだった配膳ロボットのAIが機械知性に進化した例もある」
『アレン、どちらにしろ助けるつもりなら早くした方がいい、救難信号の電波がさっきよりも弱くなってる』
「機械知性とはいえど増殖するマルウェアとの力比べだと分が悪い。ネオン、一度戻ってきて俺を拾ってくれ」
『え?、アレンも来るの?』
「当然だろ、人工知能は俺の専門分野の一つだ、戦闘支援AIを作ったのは俺だぞ?」
『中は暴走した無人機だらけ、危ない』
「戦闘用ボットを連れていくから問題ない、それに暴走したと言え採掘用の機械だ、直接的な殺傷能力があるわけじゃないし、ネオンもいるなら俺が怪我する確率はかなり低い」
『分かった、すぐに戻る』
そう言ってネオンは通信を終える。
「そういうわけだから、ゼナ、船を頼めるか?」
「私に任せてもいいのか?」
「何か問題があるのか?」
「あるだろ、私はこの船を奪ってお前たちを置き去りにするかもしれない」
「そんな簡単に破れるセキリュティの組み方はしてないぞ」
「冗談だよ、真に受けるな。さっさと行け」
「ああ、頼むぞ」
「へいへい」
ブリッジから出ていくアレンをゼナは片手を振って、見送った。
◆◆◆◆
アレンとアレンが改造した二機の戦闘用ボットを連れて、シルヴァーナは再びステーションに戻る。
「悪いな、手間を掛けて」
「ううん、気にしないで、シルヴィの同類なら他人事じゃない」
《ネオン、私は疑似機械知性ですので、完全な同類というわけではありません》
「シルヴィ、必然か、偶然かの差ってだけで本質は同じだぞ」
《そもそもの話、機械知性を人工的に作れるのがおかしくありませんか?》
「本物の機械知性ほどの汎用性はないからな、シルヴィはあくまでシルヴァーナの戦闘補助AIだし」
「アレンはイカれた天才技術者、よく分かる」
《はい、アレンの開発したウルトラテクノロジーは全てシルヴァーナの開発の副産物というのが、余計に意味が分かりません》
「イカれたは余計だぞ」
「褒めてるのに」
「嘘つけ」
アレンとネオンのプチ喧嘩が起きつつも、シルヴァーナは、採掘ステーションの港に降りる。
コックピットから降りたネオンは、単分子剣を抜いて鋭く周囲を警戒する。
同じく降りたアレンは、シルヴァーナが下ろしたコンテナから二機の戦闘用ボットを取り出す。
どちらのボットもアレンとネオンの胸元ぐらいの大きさがあり、四足で自立する機械だ。
一機は耐熱加工を施した盾を装備した防御型で、もう一機は対人用レーザガンと対物用コイルガンを装備した攻撃型である。
「ネオン、ヘルメットのHUDに目標地点までのルートを同期させる」
「ありがとう。アレン、ボットは自分の身を守るために使って、先頭は私が行く、暴走機械はなるべく避けるけど、やむ得ない場合は私が破壊するからよろしく」
「おーけー」
「ん、じゃあ行こう、機械知性を助けに」
抜き身の剣一本を持つネオンを先頭に、二人と二機の戦闘用ボットはステーション内に侵入する。
ジェネーレーターが落ちている為に、真っ暗のステーション内の通路だが、二人のヘルメットには暗視機能があるので、視界に困ることはない。
「そういえば聞いてなかったけど機械知性を助けるって、具体的には何をするの?」
「まずはコンピューターウイルスを除去する、あとはこいつに機械知性をインストールすればいい」
アレンはいつぞやにガラクタから作り上げたクモ形のカメラロボットを取り出した。
「それに機械知性が入るの?」
「意識データをインストールするくらいはできるな、意思疎通は音声モジュールがないから難しいけど、持ち運びはしやすい」
「ん、確かに」
目標地点まであと数百メートルと迫ったところの十字路で、ネオンは拳を顔の横で握って、止まる。
ネオンはハンドサインを送り、アレンに待機を命じて、飛び出す。
アレンが通路を覗くと、通路を塞ぐように採掘ボットが佇んでおり、瞬きした瞬間には、ネオンが採掘ボットの懐に飛び込んでいた。
剣刃が閃くと、採掘ボットの前脚が斬り飛ばされ、動けなくなったところに正面から刃を差し込んで、メインプロセッサーを破壊し、永遠に沈黙させた。
「さすがネオン」
「ん、行くよ」
結局やむえず倒したのは一機だけで、他の採掘ボットには遭遇することはなく、目標地点の部屋に辿りついた。
真っ暗な部屋の中で唯一光を放つ古い採掘ボットを見つけた。
「これか」
タブレット端末を取り出したアレンはコードを伸ばして、採掘ボットと接続する。
タブレット端末のディスプレイに、マルウェアが侵入したとの警告が表示されるが、アレンは構わずホロキーボードを素早く叩く。
「ワームウイルスか、高性能ってわけじゃないが採掘ステーションを攻撃するには十分な性能だな。ネオン、そのケーブルを斬ってくれ」
「分かった」
採掘ボットに繋がっていたケーブルを、ネオンは遠慮なく切断した。
アレンは手早く自作のウイルス対策ソフトを起動し、タブレット端末に感染しようとしたワームウイルスを駆除し、さらに採掘ボットに巣食っていたワームウイルスもまとめて駆除した。
《そちらの救難信号を受信したブロンズランカーの傭兵アレンだ、聞こえるか?》
アレンは、採掘ボットに文書を送信する。
《傭兵?、貴方がウイルスを片付けてくれたのですか?》
《ああ、貴方を襲っていたワームウイルスは駆除した》
《感謝します、アレン様》
《礼はまだ早い、こちらには貴方を連れ出す手段がある、どうする?》
《是非お願いしたいところですが、ステーションの人達は無事ですか?》
《詳しいことは知らないが、死傷者が出たというは話は聞いてない》
《良かった、私は役目を果たせたようですね》
《やはり貴方はステーションの統括AIが進化した機械知性か》
《はい、統括AIエーデルツー、それが私の元の名前です》
《なるほど。機械知性の貴方が気に入るかは分からないが、今接続したロボットを使ってくれ》
《本当にありがとうございます》
すぐにアレンが作ったクモ形のカメラロボットが片足を上げた。




