十二話 防衛設備破壊
ネオンが見繕った依頼について、ゼナは了承し、ジーベックにゼナの機体が運び込まれた。
「ヴォーズ社の第七世代量産型ARMS"エルカノ"か」
「見ただけで分かるのか?」
「ARMSにはそれなりに詳しいんだ」
機体の収容に立ち会ったゼナに、アレンは言葉を返す。
「長距離射撃用レールガンを装備して、メインカメラも改造してるな、完全に長距離戦用にカスタマイズされてる、これの改造はゼナさんが?」
「いや、ジャンク屋のじいさんが改造した」
「ジャンク屋か、なるほど」
「整備できるのか?」
「それについては問題ない」
整備ボットたちを連れたアレンは、早速作業に取り掛かる。
「ジーベックへようこそ」
「お前、どこに乗ってるんだよ」
整備ステーションをエルカノに貸したので、格納庫内で片膝をついた状態のシルヴァーナの肩に乗っていたネオンに、ゼナは思わずツッコミを入れる。
「よっと、船内を案内する」
「お前の相棒がどれ程の凄腕か、見てからにするよ」
ゼナはアレンの能力に興味があった、ほぼ赤の他人であるアレンに自分の機体を任せるのが、不安という気持ちもある。
「好きにすればいい、私もシルヴァーナをアレン以外に見られるのは嫌だから」
「お前のそれとは少し違うけどな」
「何故お前は傭兵に?」
「惑星の着陸ポート付きの家に住みたい」
「それはまた傭兵らしい理由だな」
「ゼナは?」
「銃の腕前とパイロットとしての技量を活かせるのは、傭兵稼業ぐらいなもんだ」
「目標みたいなものはないの?」
「あるにはあるが、どうだろうな、それはとても目標と呼べるものとは思わないな」
ゼナの瞳が一瞬暗くなったが、すぐに元の明るさを取り戻す。
余計なことを言ったと思ったゼナはすぐに話題を逸らす。
「お前の相棒は、どうしてARMSに詳しい?」
「アレンがシルヴァーナを作ったって言ったら信じる?」
挑発的な視線を向けてくるネオンに、ゼナは銀色のARMSに目を向ける。
「普段ならそんな馬鹿なって笑い飛ばすところだが、お前の相棒は只者には見えないな」
エルカノを整備するアレンの姿は、あまりにも堂に入っている。
マルチスキャンによって手に入れた機体データを、解析、分析し、作業ボットに的確に命令を出し、修理と分解、そしてパーツ交換をスムーズにこなしていく。
一人で整備すると言ったアレンの言葉が、ハッタリではなかったことを、ゼナはまざまざと見せつけられた。
ゼナは驚きながらも、初対面の時に感じた違和感に納得していた。
(あの時傭兵らしくないと思ったのは、生粋の技術屋だったからか)
「船を案内してくれ」
「もう見なくていいの?」
「必要ない」
「それなら案内する」
もう監視する必要はないとゼナは考えた。
◆◆◆◆
今回ネオンが選んだ依頼の内容は、暴走した自動機械に占領された資源採掘ステーションの自動防衛設備の破壊だ。
以前はただの資源を採掘するだけのステーションだったが、無人採掘機械が突如暴走し、僅かにいた作業員は退避した結果、完全な無人となっている。
そしてネオンたちの役目は、ステーションの解放ではなく、ステーションを守る自動防衛設備の破壊である。
「ステーションの解放は別の傭兵がやるってことか?」
「別の傭兵というか、この採掘ステーションを管理する企業の私兵がやるんだろ」
「企業の私兵か」
星系を跨ぐほどの巨大企業であれば、傭兵を子飼いにし、私設の軍隊を構えることは珍しいことではない。
「それなら自動防衛設備の破壊も私兵にやらせればいいんじゃないか?」
「それが出来ないから、マセナリーに依頼してる」
採掘ステーションを守る自動防衛設備というのは、ステーションの周囲に浮かぶリング上に設置された十二門のレーザー砲だ。
レーザー砲はビーム砲と違い、避けることがかなり難しい、文字通り光速で攻撃が来る上に、通常の高速戦闘艦であれば、射程に入っただけで、穴を開けられてしまう。
ビーム砲と違いレーザー砲の威力は一撃で沈むほどではないものの、集中砲火をもらえば簡単に爆散する。
では、何故ネオンはこの依頼を選んだのか、それはゼナの狙撃能力と、シルヴァーナの機動力を信頼した故である。
「ゼナさんの遠距離攻撃は主力として、シルヴァーナは自動照準システムを置き去りにできるほど速い、つまりシルヴァーナは囮だ」
強力なレーザー砲でも、撃たせなければどうということはない。
「もし避け損なっても大丈夫なのか?」
「それはないと思う」
「なんでそんなに自信満々なんだよ」
「ネオンとシルヴァーナのことは、この世で一番知ってるつもりだからな」
平然と告げるアレンと、嬉しそうに頷くネオンを見たゼナは、隠し切れない不安がこもったため息を吐いた。
「そんな心配しないで、それにこれはゼナの能力を試すため」
「分かってるよ、せいぜい私に撃たれるような無様な飛行はしないでくれよ?」
「誰に物を言ってるの?、私とシルヴァーナは最強だから」
◆◆◆◆
ジーベックの光学カメラで、採掘ステーションの様子を捉えると、ネオンとゼナは出撃の準備を始める。
『ゼナさん、機体の調子はどうだ?』
『呼び捨てでいい、機体が十年若返った気分だ、どんな魔法を使ったんだ?』
『大したことはしてない、古い部品を取り替えて、フレームの歪みを修理して、汚れた箇所を掃除しただけだ』
古い部品の交換はもちろんだが、汚れた箇所を掃除すると意外と動くのが機械というものだ。
『感謝する、整備費は私の給料から天引きしといてくれ』
通信越しでもテンションが上がっているのが、分かったアレンは了承して、通信を切る。
『アレン。シルヴァーナ、出る』
『了解、シルヴァーナ、テイクオフ』
『ネオン・ヴァイク、シルヴァーナ、出る!』
蒼い残光を纏ったシルヴァーナが、ブリッジの横を通過する。
『アレン。エルカノ、いつでも出られるぞ』
『了解、エルカノ、発進よろし』
『ゼナ・ハーヴェイ、エルカノ、出る!』
格納庫から飛び立ったエルカノは、ジーベックを追い越すと、ジーベックの前方甲板に降りる。
片膝をついたエルカノは長距離狙撃用レールガンを構える。
ちょうどシルヴァーナが、対宙レーザー砲の射程圏内に入るのが、見えた。
その瞬間、十二門のレーザー砲が、シルヴァーナを撃ち落とすべく、動き始める。
「すぅ」
メインカメラと同期した長距離射撃用スコープが座席の後ろからせり出し、それを覗き込んだゼナは引き金を引く。
レーザー砲の集中砲火を受け、ロックオン警報が鳴り響くコックピット内で、一門のレーザー砲が破壊されるのが、ネオンに見えた。
「やる」
ジーベックとステーション間は約一万メートルほど離れている、その上リングの上を移動しているレーザー砲を正確に撃ち抜くことができる狙撃手が、どれだけいるのだろうか。
次々と破壊されていくレーザー砲を観測しながら、レーザーを避けるために機体を旋回させ、ステーションの周囲を縦横無尽に飛び回る。
ネオンの操縦技術も大概なのだが、唯一ツッコミを入れることができるゼナは射撃に集中していた。
十二門のレーザー砲の掃討に掛かった時間は、僅か七分、驚異的な命中精度だった。
「目標クリア」
『ゼナ、お疲れ様』
「ああ、どうも」
一息ついたゼナは、スコープを畳んで、座席の後方に戻す。
『アレン』
『どうした?、何か問題か、ネオン?』
『問題と言えば問題、ステーション内から微弱な救難信号が発信されてる』
ネオンの報告に対してアレンは、怪訝な顔になった。




