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十一話 勧誘

「剣…?」


賞金首を倒した数日後、懸賞金を受け取るために傭兵管理機構マセナリーの建物を訪れたアレンとネオンは緑髪の女傭兵と目が合った。


「なんか用?」

「その声は、あの時のARMS乗りか!」


緑髪の女傭兵はネオンの方を見て、声を上げる。


「ネオン、知り合いか?」

「んん、知らない顔」


「つい数日前に賞金首を倒した時に共闘したゼナだ」

「ああ、あの時の」


ネオンは思い出す、二機のARMSのうち、一機を近づけさせずに倒したARMS、それに乗っていたパイロットは確かにゼナと名乗っていた。


ゼナの戦闘シーンは、アレンが撮影していたので、映像で改めて見てみたが、正確無比な狙撃が印象に残っている。


「アレン、狙撃ARMSに乗ってた人」

「あの時の。傭兵のアレン・リードだ、あの時の活躍は見てたよ」

「あ、ありがとう、同じく傭兵のゼナ・ハーヴェイだ」


ゼナは、全く傭兵に見えないアレンに、困惑したが名乗られたので、名乗り返した。


「ゼナ、私はネオン・ヴァイク」

「ネオンか、あの時はお互いに運が悪かったな」


「あんたのところの傭兵団は大丈夫なのか?」


確かゼナの乗っていた艦はミサイルをまともに食らっていた。


「さてな、私はもう傭兵団を抜けた身だから、知りようがない」

「抜けた?」


「抜けたよ、アレン、私は私のやり方にケチをつけるやつが大嫌いなんだよ」

「な、なるほど」


ゼナにはゼナなりの考え方があって、傭兵団を抜けたらしい。


「そういうお前らは今日は懸賞金を受け取りに来たのか?」

「ん、お金は大事」


「激しく同意するよ、私も欲しかったな」


ゼナはどこか遠くを見つめながら、呟く。


「懸賞金を受け取らなかったの?」

「受け取らなかったわけじゃない、簡単に言えばマルドックと取り分で揉めた。あのクソ野郎、ARMSを綺麗に仕留められば元が取れたとかふざけたこと言いやがって」


ゼナはかなり直情的な性格であることを、アレンは話しぶりから感じた。


しかし命が掛かっている状況で、相手の鹵獲を前提に戦えば良かったなどと言われれば、ゼナが怒るのは当然だと、アレンは思った。


「それで抜けたからお金が入らなかったの?」

「そうだよ、後悔はしてないけど惜しいものは惜しい」


「ARMSだけでどうやって傭兵として活動するの?」

「無理だから、傭兵団に加入するんだよ」


ゼナ曰く、ARMSは機動力と殲滅力が売りだが、整備に手間と時間が掛かるし、長期の依頼に向いていないので、傭兵として活動するには大きな団に所属するのが普通だという。


(確かにARMSは戦闘航宙艦と比べると整備するには専門的な知識が必要だからか)


傭兵の知識が少ないアレンだが、ARMSのことなら熟知しているので、簡単に想像がついた。


ARMS専門の整備士が民間にはほとんどいないということだろう。


「てか、そんなに質問してくるなら、こっちの質問にも答えろ、お前らの傭兵団に空きはあるか?」

「空き?」


「私を雇う余地はあるかって聞いてるんだよ」


アレンは最初ゼナが何を言ってるのか、理解出来なかったが、前後の話からゼナがアレンたちを大所帯の傭兵団だと勘違いしていることに気付いた。


「ゼナさん、何か勘違いしてるみたいだけど俺たちは二人しかいない傭兵団なんだよ」

「は?」

「だから、大所帯の傭兵団ってわけじゃないんだ」


「ま、待て、ARMSの整備は誰が?」

「それは俺が」

「あんた一人で?」


「いや、整備ボットと一緒に」

「それはほぼ一人みたいなもんだろうが」


信じられないといったふうにゼナは、ツッコミを入れる。


「お前らはどうも只者の傭兵じゃないようだな」

「自分たちが異質であることは理解しているよ」


何せこちとら共和国軍の脱走兵だ、長年軍にいたせいで、いわゆる一般常識とやらに疎い自覚はある。


「?」


ネオンに自覚があるかは、別としてアレンは持っている。


「別にお前らの事情に興味はない。傭兵になるようなやつはどうしようもないろくでなしか、訳ありの連中って相場が決まってる」

「それはお互い様」


ネオンの見透かしたような言葉に、ゼナは目を一瞬細めるが、特に何も言わない。


「ゼナさん、先程の話、少し待ってくれないか?」

「え?、先程の話って?」

「傭兵団に空きがあるかという話だ」


アレンは、ネオンに目配せを送り、ゼナに聞かれない距離まで離れる。


「ゼナは簡易の身体強化を施してるから、何か話すなら口元を隠した方がいい」

「分かった」


アレンは、ネオンの言葉に従って、口元に手を置く。


動体視力が強化された人間は唇の動きから、何を話してるか読み取ることができる、というかネオンはできるそうだ。


「で?」

「ゼナさんのことを雇ってみたい」

「…何で?」


ネオンの声のトーンが一段階下がる。


アレンはその反応に一瞬疑問を覚えるが、すぐに理由を話す。


「ジーベックを護衛できる戦力が欲しい、まだジーベックの武装を整えるのにはお金が足りないし、前のように不意打ちを受けたり、敵戦力がこちらの想定を上回り、シルヴァーナ単騎ではジーベックを守れない状況も有り得る」


「私とシルヴァーナなら敵がどれだけいようとノープロブレム」

「ダメだ、ネオンとシルヴァーナばかりに戦力を依存してはいられない、これから傭兵として等級を上げる為により難しい依頼を達成するには、シルヴァーナ以外の戦力も用意するべきだ」


アレンの言葉は理路整然として、反論の隙がなく、ネオンは思わず言葉に詰まる。


「ネオンは仲間を増やすのは反対か?」

「そんなことはない、でもゼナは私についていけない」

「あくまで母艦の護衛だから、シルヴァーナと連携する必要はない」


「ジーベックの武装を整えたらどうするの?」

「引き続けて護衛を続けてもらう、それと…」


「それと?」

「いや、今はいいか。ネオンが嫌なら俺は諦めるけど?」

「アレンはずるい」


「え?」

「私がアレンに口頭弁論で勝てるわけがない」


「俺はネオンが嫌なら諦めるって言ったけど」

「ダメ!、アレンは私の弱みに付け込んでる」

「それは勧誘はダメってことか?」


「ううん、おけー。でもアレンは私の言うことを一つ聞かないとダメ」

「分かった」

「安請け合いしない!」

「してないよ」


何故かネオンの頬が赤くなってしまったが、とりあえず同意は得られたので、ゼナのところに戻り、傭兵団の仲間として、雇う用意があることを告げる。


詳しい話を聞きたいと言ったゼナに、連れられて、防諜設備が整ったマセナリーの応接室の中に入る。


この部屋はマセナリー内の建物にいくつかあり、使用時間は決められているものの、他人に聞かれたくない話をする際に、傭兵たちに重宝されている。


「つまりお前たちが私に求めるのは母艦の護衛か」

「ああ、ゼナさんも見ての通りシルヴァーナは強力な戦力だが、対する母艦のジーベックは正直に言って頼りない。熟練の傭兵であるゼナさんを雇えるならこちらとしては嬉しい」


「給料は?」

「依頼に出る日には日当が発生して、1日あたり三万レボル、さらに依頼の報酬金を分配する形でどうだ?」


「日当が三万か、悪くないな。私のARMSの整備はアレンがするのか?」

「そうなる、そっちにとってもその方が好都合じゃないか?」

「確かにそれはそうだな、ただいきなり契約っていうのは良くない、お試し期間を設けるべきだ」


「同感だ、一緒に依頼を達成するのはどうだ?」

「それが一番いいな、お前たちも私を試すし、私もお前たちを試そう、依頼はどうする?」


「私が探してくる、三日後に145番ドッグに来て、これ、私の通信コード」


「よし、それじゃあ三日後、また会おう」


アレンとネオン、そしてゼナは握手を交わして、応接室を後にした。

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