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第3話 可愛い指輪の呪い

 澄奈たち、子コブリンが出撃する場所は、フェアメルの町である。


 ボスゴブリンが、この町を指定した。どうやら、魔王の目により、勇者たちはこの街にいるという情報が入ったらしい。


 フェアメルの町は、のどかで清らかな町である。


 色とりどりの鮮やかな花が咲き誇り、風車もあって、比較的発展している場である。


 武器や防具も揃っているため、勇者たちは、道具を揃えたりしてたり、村人に、魔王についての情報などを聞いている段階かもしれない。


 ボスからの命令で、単体で攻撃するのではなく、集団で突撃しろということだった。


 だが、澄奈は、そんな命令には絶対に守らない。むしろ、最初から守る気がなかった。


 彼女は、地上に出た途端、すぐさま走り出した。


「お、おおおい!!! お前!!! どこへ行くんじゃ!! 勇者がいる場所は、ここから遠いんじゃぞ!!」

「うるさいっきゅよー!!殺されるっきゅよ!!また、来世で会おうっきゅ〜!!」


 集団行動から思いっきり外れた彼女を、ボスゴブリンは、眉を細めて心配していたが、澄奈は当然のごとく無視。


 彼女はゴブリンたちに手を振りながら、フェアメルの町へと向かった。





 走りながら、全員に与えられた地図を取り出す。



 地図といっても、直接持ってきたわけではない。道具として、システム上に追加されたのだ。



 この世界の生物には、腕の血管に、特殊なチップが埋め込まれている。このため、子コブリンになった彼女の腕を自分で軽く押すと、基本情報が見れるのだ。




 指紋のセンサーで反応し、目の前に大画面が出てきた。


 戸惑った彼女だったが、すぐさま文字を読んだ。



 〈個体名:スミ・ゴブリン(♀)/年齢:2歳/レベル:2〉



 異世界独特の文字だったが、この世界に来たからなのか、なぜか完璧読めてしまった。これがご都合主義というものである。



「レベル2!?!? 弱いっきゅ!?!?!?」



 澄奈は、走りながら大声を出した。


 相変わらず気持ち悪い語尾である。


 想像以上にやばいステータスだ。子コブリンという時点で、大分予想はつくが。


 いくら雑魚敵になりたかっとはいえ、さすがにこれだと、トウマにやられる前に、そこら辺の酔っぱらったおじさんにやられてしまうかもしれない。


 それだけはごめんだ。トウマ以外に殺されても、意味がない。


 とりあえず逃げるスキルを身につけるしかない。


 ステータスをみても、呪文も全く覚えてなかった。


 特技は、『盗み』だけ。


 盗みで、何ができるというのか。


 先の計画を全く考えずに、澄奈は地図が指す方向のままに駆け抜けた。


 レベル2なのか、走るのもだいぶ遅い。


 余計に子供のため、身長も低いし、足も短い。


 小股でチマチマ走らないといけないのが、ストレスだった。


 柔らかい草原。素足でも、全く痛くないのである。

 緑が生い茂っている。空気も暖かくて、どこか柔らかい。




 なにかが始まる匂いがした。





 澄奈は、これから始まる未来に期待を膨らませながら、軽くスキップをした。




 フェアメルの町についた。


 どうやら、他のゴブリンたちはまだついていないようだ。


 集団行動だから、ちんたら動いているのだろうか。


 この町は、噂で聞いた通り、のどかで過ごしやすそうな場所のようだった。


 遠くから甘い匂い。目の前には、光り輝いたブレスレット。つきあたりには、重そうな片手剣や両手剣。


 人もたくさんおり、比較的な賑やかな街のようだった。


 澄奈は、ちまちまと、その短足でゆっくり歩く。


 全てが新しいのことの連続で、開いた口が塞がらないのである。





「きゃーーーー!!!! ゴブリン、ゴブリンよぉぉぉお!!!」





 澄奈と目が合った買い物中の主婦は、この世の終わりのような顔つきになり、腰を抜かした。


 そうだ。今の姿は、子ゴブリンだった。


 澄奈は、自分を見て怖がるのを察して、鋭い牙をキラリとわざとらしく見せた。



 主婦の悲鳴に、周りの街人も何事かと澄奈のほうに視線が集まる。




「だれか、だれか、倒してくれえええ!!!お願いだぁ〜〜〜〜!!!!!」



 商人の男性も、彼女にならって焦ったような表情。


 澄奈の姿を見て、みんなが悲鳴を上げて、汚物を見るような顔つき。


 これが典型的な『悪役』の扱いである。


 澄奈は、この扱いが気持ちよくて、気持ちよくてしょうがなかった。


 右手に持つ小さなチクチクとした棍棒を、威嚇するように、体ごとくるくると回転させる。


「きゅーっっっきゅっきゅっきゅっ!!! いたずらしちゃうきゅ〜〜〜!!!」


 かといって、彼女もまた人を痛めたり、街をぐちゃぐちゃしたいという欲はないのである。


 ただ、ちょっと脅かして、人々を驚かせたいだけなのだ。


 なので、街人が歩いてくる前に至近距離で現れ、目を合わせる。人というのは、不思議なもので、自分とは違う生物を見るだけで腰を抜かしてしまうのだ。


 それが面白くて面白くてしょうがなかった。




「きゃーーーーーー!!!!」




 村人は次々に高い悲鳴を上げ、腰を抜かしたり、絶望した顔をし、素早く逃げていくものもいた。



 さて、そろそろ本番といこうか。




 私が最期を捧げたい相手―――『トウマ』に会いに行かなければ。




 彼らを含むパーティーは、きっとこの村のどこかにいる。


 知らん人にやられる前に、さっさと見つけなくては。


 救いようのないくらいに小さいゴブリンなので、人の股の間を素早く駆け抜けていく。


 あれだけガチ推ししていた相手だ。たとえ、こんなに小さくても、センサーが発動するはず。





 すると、近くに、宝石屋のようなものを見つけた。器用に下からのぞくと、カラフルに光り輝いている宝石が並んでいる。


 ゴブリンになっても、澄奈は女である。可愛いものには目がないのだ。


 宝石と同じくらい目を輝かせながら、どれにしようか迷う。


 真ん中に置いてある、エメラルドグリーン色のハートの指輪が一番いい。これだけ、尋常ではないくらい光り輝いている。


 一つ一つのパーツが高価そうに見え、澄奈はよだれが出るくらい欲しくなった。


 そうだ。唯一の特技のあれを使おう…。


 彼女は大きく息を吸い、魂をあの宝石を集中させ、特技を言葉を唱えた。




「きゅっきゅっきゅ〜、《トリックハンド》___発動っきゅ!!!」




 そして、素早くその指輪を奪い取り、急いで宝石屋を後にした。






 すごい…すごすぎる…。


 まさか本当に、手に入ってしまうなんて。


 たぶん早すぎて、商人も気づいてないだろう。自分でも驚くくらい、瞬時に手が出たからだ。



 試しに、指輪をつけてみよう。

 せっかくだし…左手の薬指に……。







 《《《ボンッッッッッ!!!!》》》








 すると、何が起きたのか、澄奈の目の前が一気に煙たくなった。



 !?!?



 思わず、激しく咳き込む。


 尻もちをついてしまった。おしりが痛い。




 そして、指輪をつけた直後、突然の爆発音と共に、澄奈の目線が急に高くなった。


 服のサイズが、ぶかぶかになっている……?


 手を見て、言葉を失う。ゴブリンの、あの青緑の皮膚が、ない。


 

 必死に、小さな手で、煙をどかそうとすると、目の前に、大きな手が少しずつはっきり見えてくる。






「……痛そう……。 君、大丈夫??」






 鼓動が高鳴る。

 恋の高鳴りとは違った、不思議な気持ち。





 いよいよこの時がきた_____。





 間違えない。トウマの声だ。

 顔を見なくてもすぐわかる。



 少年のような成人なような、儚い声。低く、落ち着きのあるクールな声色。



 彼が来たことにより、空気が更に澄んで、息を吸うのが気持ちいい。





 ありがとう…。トウマ。





 さあ、今こそその時よ。 私を綺麗に殺して……。


 澄奈は、静かにそっと瞳を閉じた。






 しかし、剣の構える音も空気が変わる音もしない。むしろ、柔らかくて落ち着くようなそんな感じ。




 一体、目の前で何が起きてるのだろうか。

 煙たくて、まだ前が見えない。







「……怪我をしているのかな。」






 殺す気配が一向にない。

 なぜ、このゴブリンの彼女を殺さないのだろうか。



 風がふわりと靡く。


 心臓がふわふわしていく感じ。


 肩になにか違和感があって、膝を持ち上げれている感じ。



 景色がはっきりした時、視線の先を見つめる。






 なんと、目線の先には、綺麗な紫色の瞳を持つ、ポニーテールの男性がいた。


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