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冒険者

「ユナに...オオギリ?聞きなれない名だけれど...貴方達、アタシと組む気はない?」

少女とは思えない凛とした佇まいでデナイアが優也とユナに問いかける。あまりにも突然の勧誘、自然と反応も遅れる。

デナイアはじっとこちらの回答を待っている。きっと承認するか断るかしないと帰らせてはくれないだろう。

優也は出会ったばかりのデナイアのことを信用しきれていない。が、異世界転移などという常識外れな状況の中、この世界についてある程度の知識のある人間と共に行動できるというのは大きなアドバンテージだ。

「......乗ろう。改めてよろしく、デナイア。後、俺のことはオオギリじゃなくユウヤって呼んでくれると助かる」

理由は呼ばれ慣れてないからである。

「わかったわ、ユウヤ。で、貴方はどうする?」

ユナは心を決めきれていないようで、隠されていてもその表情からは動揺が読み取れる。ブレイズも不安そうだ。

「あ、えっと、その」

「何、どうしたいの?突っぱねてもいいけど?」

ユナは息を吸い込んだ後、

「...ぼくも、一緒に行かせてください、お願いします!」

迷いはありつつも確かに決断を口にした。

「ありがと、ユナ。アタシが貴方達と組もうって言った理由は二つ。一つは、冒険者はグループで行動すると効率が上がるから。もう一つは...今は教えられない。アタシの目的のために貴方達を利用するから、貴方達もアタシを利用してかまわない。これは、そういう契約」

デナイアは手帳に何かを記し、斎刃亭へと足を進める。それに優也とユナもついていく。

「あのぅ...ユウヤさん」

「どうした?」

「ユウヤとユナって、なんか似てますよね。えへへ...親近感が湧きます」

ふにゃりとはにかんでユナが言う。自然と優也の顔もほころんだ。



デナイアはこちらを見ることなく、黙々と歩き続けた。斎刃亭の受付ではカーリィが「待ってた!」と言わんばかりに笑みを浮かべている。

「カーリィさん、初心者冒険者でも受けられる依頼はありますか?できれば、マーサの森付近の」

「うーん、マーサの森付近には無いですが、水鏡の沼のバンシー討伐ならありますよ!」

「なら、それを受けます。アタシと、ユウヤと、ユナの三人で」

カーリィが依頼の手続きをしているのか、書類から目を離さない。ユナは貸与されたマジククォーツをお守りのように握りしめている。

ーーーマジククォーツ。

手に持ち言葉を発するだけで魔法なるものが使えてしまうという道具。

すごい技術だと思うと同時に、恐怖も沸き上がる。魔法というのは、そんなに簡単に使えてしまって良いものなのか。簡単に炎の渦がそこらじゅうで上がる世界で、平和が維持できるのか。優也は人よりも慎重である、深謀遠慮を常に頭に置いている...と本人は認識している。ゆえに、魔法とやらに疑念を抱かずにはいられない。

「終わりました!」

どうやら手続きが終わったようだ。

「水鏡の沼でのバンシー討伐、頑張ってくださいねー!」

カーリィは耳をピョコピョコさせる。常にハイテンションだなこの受付。

「さあ、行くわよ」



水鏡の沼。

そこかしこに生じている沼は、不自然な程にこちらを映している。どんなに綺麗な水でも、新品の鏡のようなものにはならないだろう。しかしこの沼は、まるでーーー

「本物の、鏡みたいね」

「わぁ、見てください、ぼくとブレイズが映ってます!とてもきれいですねぇ」

ユナの気の抜けた声が響く。沼は静寂に包まれており、どんな声も簡単に聞き取れてしまう。...そう、人ならざる者の声も。

「キィ.........キィ.........」

不快な高音。振り返るとそこには『目標』がいた。青い肌、浮く体。白く濁った瞳には何も映らない。

バンシー。

泣き声で人を死に誘う魔物。

「ひぁっ!き、きました、バンシーです!」

「先手必勝...!【氷結(フリーズ)】!!」

デナイアの周囲に浮く氷のつぶて。瞬く間にバンシーへ飛来したそれは彼女を守る水のバリアにより勢いを殺されてしまった。デナイアの舌打ちがこれまたよく響いている。

「あの水の膜をどうにか......」

優也は思案する。魔法なんてどんなものがあるかわからない。だから彼は策を練る。その策を『使ってもらう』。

(蒸発させるのは不可能だろう。毒が含まれているかもしれないから気体にするのは得策ではないな。...個体にできれば割れるか...?)

「デナイア!あの膜自体を凍らせることはできるか!?」

「......やってみるわ!【吹雪(ブリーズ)】!」

直後、急激な寒さを優也は感じた。吹雪は収束し、バンシーのバリアへ向かう。思惑通り、水の膜は彼女を守るバリアから自由を奪う檻と化した。

(魔法は補助、物理で......!)

優也が剣に手を掛けた、


その瞬間。


バンシーが、()()()

散らばる血のようなナニカ。べっとりとしたそれは彼女の泣き声と同じで不快だった。

後ろには、なにやら慌てている様子のユナと、エッヘンとでも(口があったら)言いそうなブレイズ。

「...あなたなの?ブレイズ」

ブレイズはさらに胸を張った...ようなポーズをとる。

「ご、ごめんなさい!バンシー、あんなになっちゃって...き、気持ち悪かったですよね、ブレイズ、謝って...」

「その必要はないわ。目的は果たした。ありがとうね、ブレイズ。アタシが報告に行くから、貴方達は休んでなさい」

デナイアは血を払って踵を返した。対する優也は放心状態である。目の前の光景に理解が追い付かない。グロい物は得意な方だと自負していたがいざ目にすると思うようにいかないものである。べっとりとした感触が、いつまでも残る。

「ユ、ユウヤさん、帰りましょう、ね?」

「...!あ、ああ...」

チラリとブレイズを見やる。嬉しそうだ。優也は一瞬、


その瞳に、底無しの闇を見た。

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