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序曲

異世界なんて信じてない。

【異世界へ行けるエレベーター】やら、【異世界と交信できるペンダント】やら.........。

一体、何が面白くてそんなものが生まれたのか。

今年で23になる青年、大桐優也(おおぎり ゆうや)は妹の買った雑誌を見て思案した。彼の妹は大のオカルトファンで、酷い時は図書館のオカルト本コーナーに閉館時までいたこともあった。そんな彼女の現在のマイブームは『異世界』、らしい。


「剣に魔法にファンタジー、ねぇ」


たまに趣味でやるようなRPGでしか聞いたことがないような言葉の羅列。魔法を放つ為には呪文が必要、と書いてあるが、優也のような一般人からしたら剣や魔法という言葉自体が呪文に見える。

「志織はこれ見てて楽しいのかァ...」

妹、大桐志織の趣味にとやかく言うつもりはないが、それにしたって非現実すぎないか.........?いや、そういうものか、と心の中で折り合いをつける。

「げっ......もうバイトの時間か......店長に怒られる前に行かねぇと」

バイト先のコンビニは幸いにも自宅から自転車で10分。徒歩でも苦ではない距離だ。必要なものをまとめ、先程まで読んでいた雑誌を妹の勉強机の上に置く。



大人気アイドル【Day-Light】の屋外広告がショッピングモールのビルに映し出される。都心と離れているとはいえ、まばらに人の姿が視界に入る。

ヘッドフォンをしてスムージーを飲む男性。

高価そうなハイヒールを鳴らす女性。

ひ弱そうな男性と、彼の手を強引に掴む同い年くらいに見える女性。

その全ては、昨日優也が見ていた世界とは異なる。

(異世界なんて行かなくても、この世界は昨日とはまるで違う)

自転車を駐輪場に置き、制服に着替え、レジへと向かう。このコンビニは利用客がそれなりに多い。理由は、近くの大企業だろう。補充したおにぎりは、30分後にはただの空間となっていた。

1日の業務を終え、家に帰る。妹は部活で遅くなるだろう。夕飯、作り置きしておけばよかったか.........。


そう考えた矢先の、予想なんてできやしない出来事。


帰り道には桟橋がある。

それなりに高く、下から聴こえる流水の音が心地いい。遠くから、子供達の喧騒がかすかに耳に入る。

優也はこの桟橋が好きだった。かつて、まだ幼い志織を背中に背負った母と手を繋ぎ、夕飯の献立やテストの結果など、他愛もない話をする。母亡き今でも、優也の中では極彩色の思い出となって残る。そんな桟橋が、彼はとても大好きだった。

ふと、目線を川に移す。気のせいだろうか、緑色に輝く何かが、川を下っていった。子供の落としたものだろうか......?気になって覗き込んだ、その行動が間違いであった。


「ーーーーーーーーーーあ、」


身体の重心が大きく前に出る。何者かに突き落とされたと察するのに、そう時間はかからなかった。この桟橋にはそれなりの高さがある。助かる確率は低いだろう。

(ーーー日常って、簡単に終わるんだな)

頭に浮かんだ妹は、これからどう生きていけばいいのか。そんなことも考えられぬ間に、川が、近づいてーーーーー


結論から言うと、先程の優也の考えは正解だ。

なぜなら、これより彼を待つのは、日常ではなく、彼が想像もしなかったような『非日常』であるからだ。




.........。

(あれ、俺、川に落ちたんじゃ...?生きてる、痛く、ない......??)

重い瞼を上げる。まず彼の目に入ったのは、とても日本とは思えないようなレンガで造られた建物の数々。中世ヨーロッパを思い起こさせる服装の人々。そして、心配そうにこちらを覗き込む長髪の人物と、不安げな表情を浮かべる少女。服装は妹の愛読書でチラっと見た【シスター】に近い。

「......え?あ、あの、あなたたち、一体ーー」

「起きましたあぁぁ!起きましたよミシェルさぁぁん!死んでなかったんですね!よかったぁ......」

いきなり耳元に少女の甲高い泣き声が入ってくる。見ると、彼女の足元には救急箱が蓋の開いた状態で置いてある。手当てをしてくれたのだろうか。

「リステル、ひとまずその方から離れましょう、動きづらそうにしていますよ」

「にゃぴっ!しゅ、すみません!!私まだ新米のシスターで......」

リステルと呼ばれた少女が優也から離れる。それよりも今、シスター、と言ったか?



「あの......ここは、一体何処でしょうか?」

「ここはクオリア王国のセントラルシティですが......あなたは、クオリア王国の外で倒れていましたよ?」

「わ、私がミシェルさんとの散歩中に、た、倒れていらしたので、フェアリス大教会まで......」

状況が飲み込めない。クオリア王国?フェアリス大教会?そんな名前、地理の授業でも世界史の講義でも一言も聞かなかった。それに、この二人の名前はどう考えても日本語ではない。なのに、流暢に日本語を話している。何一つとして理解の及ばない状況に優也は困惑した。

「えっと......俺は大桐優也、です」

「オオギリユウヤさん...変わった名前ですね、やはり外ツ国の方でしょうか......自己紹介が遅れました、私はミシェル•アルマーニ。フェアリス大教会の牧師をしております」

そう微笑んだ青年は、男性にしては長い髪と特徴的な泣きぼくろを持っていた。牧師......聞いたことはあるが、実際に会ったことはないな、と場違いな考えが脳裏に浮かぶ。

「わ、私はリステル•テラコラルです!フェアリス大教会のシスターをやってます!まだ新任ですが......」

深々と頭を下げた少女はまだ中学生くらいの背丈で、それに見合わない大きなハンマー...鉄槌とでも呼ぶべきだろうか?そんな物騒なものを持っていた。しかも片手で。もう片方には救急箱を持っているのがまた......。

「よ、呼びにくいならユウヤで大丈夫です、それで、えっと、日本に帰るにはどうすればいいでしょうか」

「「.........?」」

二人の頭上にハテナが浮かんでいる...気がする。

「し、失礼ですが、ニホン、とは何処でしょうか?」

「世界地図にも載っておりませんね...聞いたこともありません」

......おいおい、嘘だろ?まさ、か



「この【ゼノスフィア】に、そんな地名......」



大桐優也(まもなく23)、おそらく異世界に来ちゃいました......!?

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