団長の重みと、止まらない声
放課後のグラウンド。
空が赤く染まる頃、応援団の練習はようやく一区切りを迎えた。
蒼空は、汗だくのTシャツを引っ張って、ベンチに座り込んだ。
「……つっかれた……」
水筒の水を一気に飲み干して、空を見上げる。
太陽はもう半分以上沈んでいた。
だけど、体の中はまだ火がついたみたいに熱い。
喉がカラカラで、腕も足もガクガク。
実は今日の練習の終盤――
蒼空は気づいたら、ほとんど声が出なくなっていた。
「赤組! もっと声出せっ……!」
そう叫んだつもりなのに、自分でもびっくりするくらい声がかすれていた。
団員たちが一瞬動きを止めて、蒼空の方を見た。
それが、恥ずかしくて、情けなくて――
でも、引くわけにはいかなかった。
「っ……続けろ!」
かすれた声でも叫んだ。必死で。
それでも誰かが応えてくれたのが、少しだけ救いだった。
――団長って、ただ元気なだけじゃダメなんだ。
喉を潰してまで声を張って、それでもちゃんと引っ張らなきゃいけない。
疲れは、体より心のほうが大きかった。
「マジで……キツいな、これ……」
蒼空は思わずため息をついた。
その時、後ろから足音がして、誰かが隣に座った。
桐山晴翔だった。
「疲れたか?」
「うん……想像してた何倍も。てか……声、やっばい」
かすれ声で笑う蒼空に、晴翔は小さくうなずいた。
「まぁ、そりゃそうだ。団長ってのは、大変なんだよ。前に立つやつが、一番悩むんだ」
晴翔は淡々と言う。
でも、その目は優しかった。
「お前はちゃんとやれてるよ。俺が言うんだから間違いない」
その言葉に、蒼空は少しだけ笑った。
心の奥で、張り詰めていた糸がふっと緩む。
「ありがとう……もうちょい頑張ってみるわ」
「“もうちょい”じゃなくて、最後までな」
晴翔がニヤッと笑って立ち上がる。
蒼空も立ち上がり、もう一度空を見上げた。
――団長って、思ったよりずっとキツい。
でも、やっぱり、かっこいいかもしれない。