仲間との衝突、心の叫び
数日目の練習。
赤組応援団の動きはだいぶ揃ってきた。声も出るようになってきて、全体の士気も悪くない。
――はずだった。
「ちょっと待ってよ、蒼空!」
一人の男子が声を上げた。
蒼空が立ち位置の変更を指示した直後だった。
「こんなに細かく変えたら、逆に分かりにくいよ!」
声を上げたのは、背の高い男子・安藤あんどう 航太こうた。
運動は得意で、団員たちの中でも目立つ存在。けど、プライドも少し高い。
「いや、今のままだと全体のバランスが悪いんだ。ズレて見えるし、俺が見た感じ――」
「見た感じとか、お前の感覚だけで決めてない?」
航太が一歩前に出た。
空気がピリッと張り詰める。
団員たちが静かになり、誰もがふたりのやり取りを見つめた。
蒼空は一瞬、言葉に詰まった。
でも、引くわけにはいかない。
「俺だって、みんなの動き見ながら考えてんだよ。勝ちたいからこそ、やってんだろ?」
「……でも、それじゃみんながついていけなくなる。勝ちたい気持ちは同じだよ」
ふたりの声が重なる。
けれど、その奥には――どちらも「本気」があった。
その時、すっと間に入ったのは桐山晴翔だった。
「お互いに、言ってることは正しいと思う。蒼空の感覚も、航太の不安も。だから、一回だけでいい。試してみない?」
桐山の冷静な提案に、場の空気が少し緩んだ。
蒼空と航太も、一拍置いてから、目を合わせた。
「……わかった。試してみて、それでダメなら、戻そう」
「ああ。文句言わねえよ。ちゃんとやってみる」
ふたりは言葉を交わし、小さく拳を合わせた。
見えない火花が散っていたけれど、ちゃんと前を向いていた。
応援団の練習は、再び動き始めた。
放課後のグラウンド。
空が赤く染まる頃、応援団の練習はようやく一区切りを迎えた。