迷いと決断と立候補
教室の空気は、やっぱりちょっとだけザワついてた。
昨日の「応援団長問題」が、まだ誰の中でも解決してない感じ。
なのに、誰も口に出そうとしないのが、逆に面白かった。
「で、どうすんの? 団長」
朝のホームルーム前、祐太郎がこっそり話しかけてきた。
「知らん。誰か立候補するんじゃね?」
「それを言うやつに限って、やるやつなんだよな~」
「それ俺のことか?」
「ご想像におまかせします~」
蒼空は笑いながら、プリントを回した。
昼休み。蒼空、祐太郎、睛の3人で、校庭の隅に腰かけてパンを食ってた。
「なあ、マジで応援団長って何すんの?」
「応援するんだよ」祐太郎が即答。
「知ってるわ」
「でもたぶん、開会式とかで声出したり、応援の練習まとめたり、目立つ系よな」
睛セイはパンの袋を器用にたたみながら言った。
「いや、目立つのはまあいいけど、やらかしたら終わりじゃん?」
「そうだな~。でも今針なら、うっかりやらかしても“笑い”になる気がするけど?」
「バカにしてんのか褒めてんのかわかんねえな」
蒼空は笑いながらパンをかじる。
それでも、心の中ではちゃんと考えてた。
もし、俺が団長になったら。
昨日の風鈴の音、じいちゃんの顔、あの話――
「わしが中学のときはなぁ、応援団長やってたんじゃ」って言ってたっけ。
声デカいのも、笑い取りに行くのも、遺伝ってやつか?
「……俺がやったら、どー思う?」
ふいにそう聞いたら、祐太郎も睛もちょっとだけ真顔になった。
「俺は、全然アリだと思う」
祐太郎が言った。
「似合うし。なんか、今針がやるなら応援も盛り上がりそう」
「あと……」睛が言葉を続けた。
「蒼空がやるなら、俺も団に入りたいかも」
「は? お前そーいうの嫌いなんじゃなかったの?」
「だって、お前が団長なら“おもろそう”じゃん」
パンのかけらが風に流れる。
遠くで体育の笛が鳴った。
“ふざけんな”って言いたいけど――
ちょっと、うれしかった。
その日、3年生のホームルームはいつもより少し静かだった。
何人かはお互いに顔を見合わせながら話していたが、みんなどこか落ち着かない様子だった。
そして、先生が静かに口を開いた。
「さて、みんな。今年の文化祭も近づいてきたけど、まず最初に決めなきゃいけないことがある。今年の応援団長、誰がやりたいか決めなきゃならないんだ」
教室中が一瞬でピンと張り詰める。
3年生ともなると、いろいろな役割が決まる大事な時期で、誰もがその責任を感じているはずだ。
去年までの団長が引退し、次の団長を決める時が来た。
「希望者は手を挙げて」と、先生が言った。
しーん。
誰も手を挙げなかった。
クラスの雰囲気が一気に重くなる。
普段だったら、こんな空気が流れると誰かが口を開いて軽く笑いに変えたりするのに、誰一人として言葉を発さなかった。
そんな中、蒼空はじっと考えていた。
風鈴の音が耳に浮かび、じいちゃんの声が心の中で響く。
――やらなきゃいけないわけじゃないけど、でも、なんか……やらなきゃな。
じいちゃんがいつも自慢してた「中学の頃の応援団長」の話。
あの声のデカさ、みんなを引っ張る力強さ、頼もしかった。
俺がやったら、どうなるんだろう?
でも、やるなら今しかない。
蒼空は、机の上で手をギュッと握りしめる。
気づけば、教室内の静けさが自分を追い詰めるように感じた。
「……じゃ、俺、やります」
突然、声が響いた。
教室中の目が一斉に蒼空に向けられる。
祐太郎が驚いた顔で「おいおい!」とつぶやいたが、蒼空は気にせず、立ち上がる。
「俺が応援団長やります」
その瞬間、教室が一瞬の静寂に包まれた後、ざわざわとした声が広がり始めた。
「マジで?」
「お前が団長って、面白そうじゃん」
「今針、やるなら絶対盛り上げてくれそうだよな」
クラスメートたちの声がだんだんと賑やかに聞こえてきた。
蒼空は少し照れくさそうに笑いながら、周りを見渡す。
ああ、やっぱり、これが自分らしいな。
でも、背中を押してくれたのは他でもない、あの風鈴の音だった。
じいちゃんが言っていたことが、少しだけ真実だと思えてきた。
「俺、やったるぜ」
蒼空は赤組の応援団長に選ばれ、少し興奮気味で教室を出た。
文化祭の本番までまだ時間はあるが、すでにその緊張感が高まってきていた。
1話2話と自己紹介が遅れてしまいました。
はじめまして。シエル・ラカと申します
これから僕が経験してきたことを舞台に作品を作っていこうと思いますのでよろしくお願いします。
誤字脱字ありましたら教えてくださいますと幸いです。
不定期投稿になってしまうかもしれませんがどうぞよろしくお願い致します
それではまた