じいちゃんの言葉と、俺の背中
帰宅して、制服を脱いでTシャツに着替える。
ふと、机の上の風鈴が目に入った。
透明なガラスの中で、揺れる夏の音。
帰宅して、制服を脱いでTシャツに着替える。
ふと、机の上の風鈴が目に入った。
透明なガラスの中で、揺れる夏の音。なんか落ち着く。
小さい頃、これをくれたのは――亡くなったじいちゃんだった。
「夏はな、耳を澄ませ。風が、何か教えてくれるかもしれんぞ」
それ、毎年言ってたな。
同じタイミングで、同じセリフ。
しかもそのあとは、必ずじいちゃんの“自慢話”が始まるのが定番だった。
「わしが中学のときはなぁ、応援団長やってたんじゃ。声がデカすぎて、体育館にマイクいらんかったくらいじゃぞ」
「またそれ~!? 何回目?」って言いながら、結局最後まで聞いてた。
蒼空は、その話が嫌いじゃなかった。
てか、むしろちょっと憧れてた。
風の音、風鈴の音、蝉の声、通りを走る自転車の音。
全部が、今ここにしかない“夏”を教えてくれる気がして。
――応援団長。
自分がやるとか、全然考えてなかった。
でも、やる人いないまま終わるのも、なんかスベってるよな。
「……俺がやったら、おもしろくなんのかな」
ふざけ半分、でもちょっとだけ本気。
そんな気持ちが、胸の奥でふわっと動いた。
風鈴の音が、チリンと鳴った。
どこか、じいちゃんの笑い声が重なった気がした。