釣りにつられて ~~公園での一幕~
インターネットでは『釣り』と呼ばれる用語があります。
あまり良い意味ではありません。大げさな表現やウソで読み手の気を引く手法です。
さて、このお話では何を『釣る』のでしょうか……
このお話は武 頼庵主催『この秋、冒険に出よう!!』企画の参加作品です。
別の小説『ランコ推参! ~キャンプ場での一幕~』等の登場人物がでますが、前作を知らなくてもお楽しみいただけます。
「ソヨカちゃんにミキオくん。ベルトはキツくないかな?」
ランコちゃんがオレの腰につけたロープを引っ張りながら言った。
「あたしは大丈夫。ミキオくんは?」
「うん。オレも大丈夫だよ」
オレたちは街のイベントで、大きな公園にきている。
今日は木登りをやるんだ。手で直接のぼるんじゃなくて、木から下ろしたロープで吊り下げられて、上っていくものらしい。
オレとソヨカちゃんは小学校で同じクラス。ランコちゃんは大学生だ。
今回の木登り……ツリークライミングって言ったっけ。
ランコちゃんはインストラクターの資格を持ってるらしい。
さっき準備体操をしたあと、オレとソヨカちゃんはヘルメットをかぶり、手袋をつけていた。
そして、お相撲さんのマワシみたいなものを渡された。
これ、ベンチっていうんだって。パンツを履く感じで両足をいれる。
それについた金具にランコちゃんがロープをつけた。
木漏れ日に反射して、金具がキラキラ光った。
ロープは高い木の上を通して、反対側が降りてきている。
反対側のロープには輪っかのついた短いロープが枝分かれするようにつながれていた。
ランコちゃんがオレのロープを持って説明を始めた。
「じゃあ、のぼりかたをおさらいしておこう。右手でロープのこのあたりを持って。そうそう。それから、この輪はフットループと言います。ここに足をかけて下に踏み込むと、ベンチが上に引っ張られます。それで身体が持ち上がります」
ランコちゃんの言葉に、ソヨカちゃんは「あれ?」と言った。
「ランコさん。このロープって巻きつけてるだけで上下に動くよね。輪を踏んだら、下がるんじゃないの?」
ソヨカちゃんは短いロープの結び目を動かしている。
「いい質問だね、ソヨカちゃん。この結び目はブレイクスっていうんだ。短いロープが輪っかの方に引っ張られていると、ブレイクスが締まって動かなくなる。『テンションをかける』っていう言い方をするよ。引っ張らない状態で、ブレイクスを握ると動かすことができるんだ」
俺も結び目を動かしてみた。
そのあと、ランコちゃんに輪っかを引っ張ってもらうと、長いロープに固定されて動かなくなった。
ランコさんは話しを続ける。
「身体が持ち上がったところで、左手で長いロープのブレイクスの下あたりを持つ。右手でブレイクスを握って、足の力を抜く。ブレイクスを上にスライドさせて、右手は長いロープのブレイクスより上の方に持ちかえる。で、もういちどフットループを踏み込むんだ。この繰り返しで上がっていくよ」
「うん。わかった。簡単そうだね、ランコちゃん」
「あたしも大丈夫。のぼれそうね」
「ふたりとも、三回のぼるたびに、ブレイクスの下に結び目をつけていってね。この結び目をセーフティっていうよ」
そう言って、結び目の作り方を教えてくれた。
ソヨカちゃんは結び目をつくる練習をしながら、うんうんとうなづく。
「ランコさん、この結び目があると落っこちないんだね」
「ははは……。ソヨカちゃん。なくても落ちることはないけど、ブレイクスを握ったときに身体がゆっくり下がっていくこともあるんだ。セーフティがあるとそれ以上は下がらないから安心だ。木から降りるときはセーフティをほどかないといけない。二人とも、ほどく練習もしてみよう」
オレとソヨカちゃんは、さっき作ったセーフティという結び目をほどいてみた。
で、いよいよ木登り開始だ。
「ふたりとも頑張ってね。途中で怖くなったら声をかけてね」
「だいじょうぶ。ぜんぜんこわくないから」
「ランコさん、行ってきまーす」
ソヨカちゃんが、するするとロープを使って上っていく。
オレも負けれられないな、追いかけよう。
「えいっ!」
オレがロープを踏み込むと、ロープが大きく横に揺れた。
「あははは……。ミキオくん、ターザンみたい」
上からソヨカちゃんが笑っていた。
「ミキオくん。フットループは前にけりだすんじゃなくて、下に踏み込むんだよ。ブランコじゃないからあまり揺らさないようにね」
「うん、わかった。もう一度……できた!」
習った通り、少しずつブレイクスっていう結び目をあげながらのぼっていく。だんだん目線が高くなって、すぐに大人の背の高さより上に来た。
「よいしょ、よいしょ……」
がんばってのぼってソヨカちゃんにも追いついた。
「ミキオくん。すごい眺めだよ」
「あ、ほんとだー」
この木は公園で一番高いので、他の木を見下ろす感じになった。
赤や茶色にそまった葉っぱが風で飛ばされているのがみえた。
滑り台などの公園の遊具とか、街灯よりも高いところに来ていた。
公園に中にいる人たちが小さく見える。
犬を散歩させているおじさんや、ベビーカーを押しているおばさんなどがいた。
小さい子がこっちを指さして何か言っている。
なんか偉くなった気分だ。
「風がきもちいいね。ミキオくん」
「そうだね。ずっとここでのんびりしていたいよ」
「でも、木登りの順番を待っている人もいるんだよね」
「んーー……。時間制限はないって言ってたけど、やっぱり代わってあげた方がいいかな」
下を見ると、待っている人が5~6人いるかな?
「ソヨカちゃん。上がれるところまであがってから降りようか」
「そうね。もうちょっとあがれるかな」
オレとソヨカちゃんは、ロープの一番上まであがっていった。
あれ? てっぺんのロープは枝じゃなくて、ネクタイみたいな別のロープにかかっているな。
一番上まできたあと、オレたちは下りることにした。
セーフティとか言う結び目を1つはずして、ブレイクスをぎゅっとにぎる。
身体が少しずつ下がっていく。
セーフティを外しながら降りて、地上についた。
ランコちゃんが出迎える。
「おかえりー。ふたりともお疲れー。どうだった?」
「ランコさん。おもしろかったよ」
「オレもー。あ、ランコちゃん。ロープの一番上って、枝じゃなくてヒモにかかっているんだね」
「そうだよ。枝に直接ロープをかけると、木を痛めるかもしれないからね。あれはフリクションセーバーっていうんだ」
「あ、そうなんだ。たしかに」
オレとソリカちゃんはベンチを外してもらった。
「ミキオくん、ソヨカちゃん。ツリークライミングは遊ぶだけじゃなくて、樹木を大事にすることも大切なんだ。今のぼった木にお礼を言っておこうか」
ソヨカちゃんが「遊んでくれてありがとう」と、木に頭を下げた。
オレもつられて頭を下げ、「ありがとう」って声をかける。
ランコちゃんは、キャンプでもっと高い木にあがったことがあるらしい。
こんど連れてってもらおう。
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