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記世子、宇宙人のオフ会に参加する2

明日また二話投稿します。時間は昼十二時と夜八時の予約投稿で。



 記世子がカラオケ店に到着した時にはすでに七時を回っていた。記世子が店員にオフ会の名を告げると、店員はすぐにオフ会のメンバーが集まっているだろう部屋番号を記世子に伝えた。その際店員の口にした言葉が記世子の口にしたオフ会の名前と若干異なっていたように私には聞こえたのだが、記世子が何も言わなかったので私もそれに倣うことにした。基本守護霊は守護する者を見守るだけである。


「ごめんなさい! 遅れました!」


 記世子が店員に告げられた部屋番号の扉を開けると、そこにはすでに三人が揃っていた。さほど広くはないテーブルの上にも食事と飲み物がすでに並んでいる。今日のメンバーは記世子を入れて四人と言っていたので、記世子が最後だったのだろう。すでに約束の七時を三十分も過ぎているので当然である。


「あれ? 来られないんじゃなかったの?」


 恰幅の良い男が驚いたように扉を開けて入って来た記世子を見つめて言った。三十分も遅れれば今日はもう来ないものと見られても仕方のないことである。


「す、すみません。どうにか来られました……」

「そうなんだ。じゃあ、もう始めちゃってるけど席に座ってよ」


 察するにこの男がこのオフ会の主催者だろう。恰幅の良い体格は少々メタボ気味であるが、それを貫禄と言い換えることもできる。肌の張りや頭部の毛の残り具合から見て五十代以降と言ったところか。清潔感のある白シャツにカーキ色のチノパン。今ではあまり見ることのなくなった赤いサスペンダーを着けている。


 記世子は残る二人のメンバーの顔を見渡しながら遅れたことを謝罪をした。


 記世子の謝罪に二人から「気にしないで」とか「社会人なんだから、そういうこともあるさ」などといった記世子を気遣う言葉が返って来た。そんな彼らに対し記世子はと言えば「ああ、皆なんて優しいの」という顔で感動している。


 ちなみに守護霊は守護する相手の感情を何となくだが共有することが出来るし、守護する者との相性が良いと考えていることまで伝わってくることがある。そのため今日のオフ会を楽しみにしているという記世子の想いが私にも伝わり、若干ではあるが私も胸が躍っていた。私と記世子の相性はなかなかに良いのである。

 しかしその分、双方様々な所で影響を受けやすいのは些か考えものではあった。私の影響を記世子が受ける分には一向に構わないのだが、私が記世子の影響を受けるのは勘弁してほしい。


 こっちにおいでと蛙に似ている女に手招きされた記世子は、その女と蛇に似ている男の間の席に導かれた。記世子が捕らえられた獲物に見える。一瞬記世子がぺろりとどちらかの腹の中に納まってしまうのではないかという馬鹿な考えが浮かんだ。やはり私もだいぶ記世子に毒されているらしい。今後はもっと気を引き締めねばなるまい。


「えへへ。あたしは疋田文子(ひきたあやこ)って言うの。よろしくね。とりあえず烏龍茶でいい?」


 蛙に似ている女――疋田が大きな口を真横に引きのばし、烏龍茶の入ったグラスを記世子に手渡した。細かなウェーブをかけたボブヘアに丸い大きなピアス。極彩色がマーブルに引き延ばされたカラフルなワンピースを着ている。目元と口元に軽く皺が見えるので、歳は恐らく三十代から四十代くらいだろうか。


 オフ会だと言うのにいきなり本名を名乗ってきた疋田に、記世子が少々面食らっている。私もこういった集まりは本名を名乗らないものと心得ていたため些か驚いた。記世子は何の捻りもなくキヨだったが、他のメンバーはグレイマンだとかETだとかシリウスだとかベガだとか、宇宙や宇宙人に関係する名を名乗っていたはずだ。


 しかし、今日はオフ会。実際に会って話すのだから本名を名乗り合うということになってもそれほどおかしくはあるまい。個人情報の保護に煩い昨今、もし嫌がればそれを強要されることもないであろうし、記世子にしても流れてくる感情からは戸惑いは感じても別段嫌がっている様子もない。


「あ、ありがとうございます。あの、私、落合記世子(おちあいきよこ)です。よろしくお願いします」

「俺は蛇池康介(じゃいけこうすけ)だ。よろしく」


 今度は反対側の蛇に似た男――蛇池が自己紹介をした。蛇池は疋田よりも緩いウェーブヘアを頭の後ろで一つに結んでいる。まるで浪人のようである。白いTシャツに黒いジャケット、ジーンズを穿いていた。歳は二十代から三十代あたりだろう。


「あらためまして、僕が今日のオフ会の主催者で会の創設者の山田太一郎(やまだたいちろう)だよ。よろしくね」


 そういって記世子に向かって手を差し伸べて来たのがやはり記世子を誘ってくれた主催者だった。若干上がり症気味の記世子は緊張のあまり勢いよく席から立ちあがり、その勢いのまま山田の手をがっしりと両手で掴んだ。


「あ、あの……! お呼びいただきありがとうございます」

「ああ、良いんだよ。楽しんでいって」


 山田がそう言えば、疋田からも蛇池からも同意の言葉が飛んで来た。


 オフ会は記世子を混ぜても四人。少ないがそもそも宇宙人研究会自体会員が十人にも満たない弱小会で、先月一人、記世子が入会する直前に退会したため現在の会員は全部で八人らしい。

 今日来た四人以外の会員は皆住んでいる場所が遠く、今回のオフ会には来られなかったのだという。その代わり、どうやら持ち込んだノートパソコンでオンライン参加をしている者もいるようだ。山田が記世子にオンライン参加しているのは二名だと説明していた。


「じゃあ、あとの二人も、もう一度自己紹介よろしく」


 山田の言葉を受けてノートパソコンの画面の中から二人の人物がそれぞれ記世子に向かって自己紹介をはじめた。


「俺は可児洋太(かにようた)。よろしくな」

「僕は海老原敦(えびはらあつし)です。よろしくお願いします」


 可児はスポーツマンタイプ。下半身は座っているため見えないが、上半身は何らかのロゴ入りの黒いTシャツを着ている。海老原は眼鏡をかけていてクラスの優等生タイプと言ったところか。フランネル生地のチェック柄のシャツのボタンが、きっちりと一番上まで留められている。二人とも二十三の記世子と同年代に見えた。


 二人の挨拶に記世子が「よろしくお願いします。落合記世子です」と答えた。


 山田の「では、再開しようか」という言葉を皮切りに、各々がテーブルの上に用意されていた食事と飲み物に手を付け始めた。会話から察するにお互い顔を合わせるのは今日が初めてらしい。記世子に対しても意外と若いだの、性別を勘違いしていただのと言っている。


 彼らがひとしきりわいわい他愛ない会話を楽しみながら食事と飲み物を摂取したあと、山田が改めてといった趣で口を開いた。


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