納品とツバキ劇場
異世界市場ルカート支店を出て、ルカート町のタウンハウスへ馬車を進める。
先触れは出しておいたので、スムーズに入ることが出来た。
まずは旅装を解き、割り当てられた客室で休憩をする。
その後、夕食に呼ばれたので食堂へ向かった。
食堂では、皆が勢揃いしていた。
上座に、カッペラード様、ミクシーヌ様。
こちら側に、カミーラ師匠と僕、ニンゲさん、ロックさん。
「では、晩餐を始める」
カッペラード様の合図に合わせて、料理が運ばれてくる。
メニューは、唐揚げ定食だ。
外側がカリッと、内側がジューシーな唐揚げは、いつ食べても美味しい。
ご飯と味噌汁を完食し、次はデザートが運ばれてくる。
デザートは、ぜんざいだった。
焼いたお餅が甘く煮た小豆の上に乗っている。
これもとても美味しかった。
食後のお茶を飲みながら、会話をする。
「いやあ、転生者支援パーティは大成功だったと聞いていますよ。それと、父から聞きましたがカッスィーは苗木を売ることが出来るようになったんだろう。王都の調査団が苗木を配ると聞いているから大丈夫だと思うが、護衛から離れないようにな」
「はい、大丈夫です」
「転生者支援パーティは私とニンゲで参加したが、本当にたくさんの転生者が喜んでいたよ。当初は参加出来なかった家を回ろうと思っていたんだが、苗木を売れるようになったなら、そちらの方が重要になってくるからね。異世界市場もあと二年がピークだろう」
「じゃあ、在庫補充だけやるつもりか?」
「当初の旅のプランは白紙だね。ただ、問い合わせのあった家には出向きたいと思っているよ」
「今からだと、どこで何が育つかわからない以上、問い合わせも虚しく何も返答出来なかろう」
「いかにも。ただ王宮の調査団と協力するにあたって、王都にいたほうがいいとは思っているよ」
「ああ。それはそうだろうな」
カミーラ師匠とカッペラード様は話し込んでしまっていた。
そこで、ミクシーヌ様に話し掛けて見る。
「ミクシーヌ様は、お元気でしたか?」
「元気よ。シェリーも元気してるわ。そう言えば、旅先からシェリーに手紙を書いたんだっけ? 返事の宛先に困ってたから、ティティー村へ送っておいたわよ」
「うわぁ。ありがとうございます。喫茶店ツバキでも生ケーキを出せないかと思って問い合わせしたんですよ」
「丁度魔具職人も近くにいるし、冷蔵の魔導具は喫茶店ツバキ用に発注して、もう納品済みだって聞いたわよ。生ケーキを喫茶店ツバキで出すなんて、素敵だわ」
ミクシーヌ様にも賛同して貰って、僕は嬉しかった。
「ツバキ劇場はどうです?」
「ああ、テッサに聞くと良いわ。一緒に見たから。凄く喜んでたわよ」
「それは良かった。今日2号店に行ってきたんですけど、席は売り切れでした」
「繁盛してるわよね。1号店で良かったら、明日の席を用意するわ。わかった、4名ね。手配するわ」
ミクシーヌ様はメイドに指示を出すと、何かを書き付けて渡していた。
そこで、向こうも会話がひと段落ついたらしい。解散の声が聞こえた。
僕は部屋に戻り、お風呂に入った。
お風呂から出て、牛乳を飲む。その後、歯磨きをして速やかに就寝した。
翌日、朝食後。
朝から僕は異世界市場で納品をしていた。
生ケーキを追加で納品し、魚介類を納品する。
そして次はフルーツだ。フルーツの納品数は多く、お昼までかかってようやく半分。
お昼を食べに、向かいの定食屋へ入る。
ここはカッペラード様がやっているお店で、丼飯屋さんなのだ。僕は牛丼を頼み、ロックさんは豚丼を頼んだ。
牛丼はすぐに出てきて、かっこんで食べれるし、安くてとても良いと思う。
お客さんもそこそこ入っているし、人気店なんだな、と思った。
異世界市場に戻り、納品の続きだ。
フルーツが終わり、やっと米に入る。
チェックするマイクさんも気合いを入れ直して、米に向かい合った。
3時半頃、カミーラ師匠とニンゲさんが迎えに来てくれた。
二人と一緒に、喫茶店ツバキ1号店へ向かう。
到着し、パヤ店長にチケットを見せると、ある客席に案内された。
「ツバキ劇場は4時から上演になります。それまで軽食をお楽しみ下さい」
そう言って去っていくパヤ店長とメニューを睨めっこして、きらきらの衣装の店員さんにオーダーを通した。
初めに届いたのは、カミーラ師匠のホットケーキ。次に僕とニンゲさんのチョコレートパフェ、最後にロックさんのぜんざいだ。
食後に、今日は皆で珈琲を頼んでいる。
久しぶりのチョコレートパフェは凄く美味しくて、一気食いしてしまった。
珈琲を飲みつつ、お茶請けに出たクッキーを摘まんでいると、ツバキ劇場が始まった。
高い声で歌う歌手は赤髪を長くのばしていて、きらきらと光る衣装と一緒に光の中を泳ぐように歌い、踊っていた。
客席と舞台は椅子で仕切られていて、十数名いるダンサー達がくるくると回り、踊っている。
恋の歌のあとは陽気な歌、そして、悲恋の歌。
赤髪の歌手は最後に『アルミナの勇壮曲』を歌い、場を盛り上げた。
後はきらきらした衣装のダンサー達がくるくると回って踊り終えた後、実際の店員と交代して、ツバキ劇場は終了した。
客席からは万雷の拍手が送られ、やがて通常営業に切り替わる。
珈琲を飲み干し、席を立つ。
ツバキ劇場はとっても良かった。
入り口のパヤ店長に挨拶をして、タウンハウスに戻る。
タウンハウスで夕食を摂り、お風呂に入って就寝した。
翌朝、朝食後。
また今日も異世界市場へ納品に出向いていた。
半年分の納品をする必要があるので、いつもよりだいぶ時間をかけていた。
異世界市場の納品が終わったのは四日後の昼だった。
その後、ハイド男爵家の分の納品に入る。
ハイド男爵家の納品が終わったのは更に五日が経ってからだった。
納品が終わったその日の夕食にて。
今夜はキラーホーンの煮込みを堪能していた。
カッスィーが持ち込んだキラーホーンの肉を、料理長のキジさんが料理したものだ。
「これはうまいな。カッスィー、肉の在庫に余裕があるなら一部買い取らせてくれ」
「良いですよ。肉はいっぱいあるので大丈夫です」
「本当に美味しいわ。お兄様、多めに買い取りして下さいませ」
そのミクシーヌ様の言葉通り、キラーホーン10体分のお肉を金貨20枚で売った。
キジさんなら、美味しく調理してくれるだろう。
翌日、朝食後。雨の中、出立となった。
ティティー村へ向けて馬車を進め、中天の頃には、懐かしきティティー村へ到着する事が出来ていた。
村長宅の前に止まり、馬車を降りる。
ドアを開けると、父さんと母さんが待っていた。
「父さん、母さん。ただいま」
「お帰りなさい、カッスィー」
母さんのお帰りの言葉に、僕は感極まって少し泣いてしまった。
結構長い距離を、旅してきたように思う。
僕は母さんに抱き付いて、再会を喜んだ。
父さんはそんな僕達を、優しい目で見つめていた。
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