僕は転生者じゃないのに
外に出たらまず冒険者ギルドへ行き、解体と買取を頼んだ。量が多いため、冒険者ギルドの裏手にある解体場へ行き、オーク36体、ミノタウロス57体、キラーホーン127体と岩蛙316体を出した。
解体は明日までかかると言われ、割り符を貰って今日は帰ってきた。
宿に帰り、装備を解く。
夕食時になり、宿屋の食堂に皆で集まった。
今夜は、ミノタウロスのステーキだ。
じゅわっと美味しいお肉を噛み締めながら、僕はカミーラ師匠の話を聞いていた。
「多分、異世界市場は将来必要なくなるだろう。作物が育ち、収穫が始まればそちらの方が将来性がある。やはり数年が山場だろうな」
「僕一人でずっと納品を続けるよりは、ずっと良い選択だったと思う。あっ、じゃあ、王妃様にカカオを納品する話もなくなるんじゃないかな」
「数年は必要だろう。ただ将来的にはなくなるだろうな。私はカッスィーの負担が減ったし、良かったと思っているよ」
「後見人のハイド男爵と相談しなきゃいけませんね」
「ああ、そうだな」
明日お肉を受け取ったらハイド町へ向かうと聞いた。
そろそろ雨季に入るので、カスケード領へ寄らず突っ切って進む予定。
僕はバケットを食べきって、席を立った。
早めにお風呂に入って、速やかに就寝する。
翌日、朝食にサンドイッチを食べた後。
僕はロックさんと一緒に仕入れの買い物に来ていた。
エドさんのメモによるとファイヤーバードの肉が大変美味しいらしく、現在市場で探しちゅう。
あっ、オークキングの肉があった。金貨2枚でまるまる一体分を買う。
その横に雪ヒトデが沢山売っている。気になったので5つ購入。銀貨5枚。
流石に50階層もあるだけあって、多種多様なラインナップが並んでいる。
その中からやっとファイヤーバードを見つけ出し、一羽金貨3枚もするのを二羽購入した。
後はルカート町でも買いたいものがあるので、ウィンドウショッピングに留めた。
昼食は定食屋で、キラーホーンの煮込みが絶品だった。こんなに美味しいんなら、お肉を買い取ってティティー村の食堂で出しても良いかもしれない。
そう思ってカミーラ師匠に聞くと、お肉にした分は岩蟹を含めて全部僕にくれるんだそうだ。
岩蛙だけでも相当量になるから、マジックバックが容量最大であることも、時間停止機能付きであることにも、感謝した。
岩蛙の胃袋は、魔導具の材料になる。
だから高値で買い取りをしてくれるのだそうだ。
冒険者ギルドへ行くと解体が終わっていて、僕のマジックバックにお肉はたっぷりと収納された。
肝心の胃袋は、傷もなく良品とのことで、全部で金貨45枚になった。
カミーラ師匠はほくほく顔で「作戦勝ちだね」と笑った。
宿に戻り、出立準備をする。
手早く支度を整えると、宿を引き払って馬車に乗り込んだ。
急いでいた通り、暫くしたら雨が振ってきた。
ニンゲさんは雨除けを着込み、御者を続けてくれた。
その日は次の町に宿泊し、その後4つ町を経由し、ハイド町へ入った。
領主へ先触れを出しておいたので、雨足が止まぬ中、領主邸に招き入れられた。
まずは旅装を解き、割り当てられた客室で暫し休憩をする。
その後夕食に呼ばれ、食堂へ足を向けた。
食堂には、皆が揃っていた。
上座に、ハイド男爵夫妻。
こちら側に、カミーラ師匠、僕、ニンゲさん、ロックさん。
「では、晩餐を始める」
ハイド男爵の合図に合わせて、前菜が配膳された。メニューは、クラムチャウダーである。
これはクリーミーな味わいで、とても美味しかった。
メインは、鳥の香草焼きである。
脂ののった鳥に、ぴりっとした香草がとてもマッチしていた。
付け合わせのご飯がとても進んだ。
デザートは、チーズタルトである。
ミルクの風味豊かなチーズと、土台のしっかりしたタルトはカスタードクリームとの相性が抜群で、とても美味しかった。
食後のお茶を飲みながら、ハイド男爵の話を聞く。
「作物の苗を出せるようになった事、王家から手紙が来た故知っている。うちの領でも一部で米と蕎麦、一部のフルーツを育てる事になった。ティティー村には、蕎麦を試して貰おうと思っている」
「わかりました。父に伝えておきます」
「それと、転生者支援パーティの成功おめでとう。沢山の転生者が救われたと、王家よりお褒めの言葉を頂いている。カッスィー、よく頑張ったな」
とても実感のこもったハイド男爵の声に、僕はしっかりと返事をした。
「ありがとうございます」
「それにしても、よく頑張っている。王家も報奨を与えたいといっている。なぁ、貴族になる気はないか? うちの養子か、一代限りの爵位を得るか、どっちかになると思うんだが」
「その、よくわかりません」
いきなり貴族になれといわれても困ってしまう。
「そうか。一応、考えといてくれ」
「カッスィー、断れなそうだからびっくりしてると思うけど、私は国の為にここまで頑張ったんだから、報奨は貰って当然だと考えているよ。爵位が嫌ならお金はどうだい?」
「お金なら、貯金出来るしいいかもしれないです」
「ただ、身の危険がつきまとう事は覚えているかい? 国を巻き込んだ転生者支援、その中心に君はいるんだ。やはり貴族になって護衛をしっかりつける事をお勧めしたい」
「そんな……僕は転生者じゃないのに」
「そうだね、君は転生者じゃない。それなのに旅に引っ張り出して色々やってるだろう。こういう役まわりは、本来転生者に求められる。だが、君は違うからこそ報奨が必要なんだよ」
「父に、相談していいですか」
「勿論だとも。貴族も悪いことばかりではないよ、カッスィー」
カミーラ師匠はにんまりと笑うと、解散を告げたハイド男爵に倣って、席を立った。
部屋に戻り、お風呂に入る。
お風呂から上がって、牛乳を飲む。
報奨で貴族になるなんて話、父さんも頭を抱えるだろう。
僕はどうしたいかな。
貴族がどうしても嫌だというわけではない。
ただ、今の環境と大きく変わってしまうのが嫌なだけだ。
どうするか、はまだ決められそうにない。
柔らかなベッドに身を預け、ゆっくりと夢の中へ旅立っていった。
翌朝、朝食後。
僕達は出立の為に玄関に集まっていた。
ハイド男爵夫妻に挨拶をして、雨が降る中、出立をする。
なるべく町を経由し、四日ほどでルカート町に到着する事が出来た。
久しぶりのルカート町は、なんだかとっても懐かしい。
まず向かったのは、衣服の仕立て屋だ。
ここで夏服の発注をする。
今着ている服は薄手ではあるけれど、長袖だ。
夏に向けて、半袖のシャツと夏用のズボンを
、それと夏用のベストとピカピカの靴を発注した。靴も随分痛んでいたから、ありがたい。
お昼時になったので、喫茶店ツバキの2号店へ行ってみる。
北通りの真ん中にある喫茶店ツバキは、そこそこ客が入っていた。
貴族のタウンハウスが立ち並ぶこの北通りで、これだけお客が入っていれば十分だろう。
僕達は客席に通され、メニューを見ながら注文をした。
まず届いたのは、カミーラ師匠のナポリタンと、ロックさんのサンドイッチ。
その後に、僕とニンゲさんのチーズハンバーグドリアが届いた。
チーズが伸びて、とても美味しかった。
店員さんにツバキ劇場のことを聞くと、4時から上演していると聞いた。しかし席は全席売り切れとのことで、残念ながら見れなかった。
デザートにクリームあんみつを食べて、喫茶店ツバキを後にした。
次は、ダンジョン素材を売っている、ダンジョン素材若葉という店へ行く。
そこでクラーケン3匹と水打ち熊の手を6個購入した。割引して貰って金貨15枚。
マジックバックにしっかりしまった。
さて、次は異世界市場ルカート支店である。
パンの良い香りのする入り口を抜けると、すぐにミンバ店長が気付いてやってきてくれた。
「お帰りなさいませ、オーナー」
「ただいま。ミンバ店長、納品は必要だよね?」
「勿論でございます。王都支店のドラグ店長から手紙を貰っています。とりあえず6ヶ月耐えれるぐらい納品をお願いしようと思っております」
「うん。じゃあまずは、生ケーキや魚介類を納品しちゃおうかな」
「かしこまりました。只今マイクを連れて参ります」
マイクさんが来た後、生ケーキの納品だけで夕刻に達してしまったので、続きは明日、ということになった。
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