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レベルアップと出立

「今日の伝票は、こちらです」


「ありがとうございます。それじゃ、頑張ってきます」


今日は大豆から。豆は種類が多く、量も多い。

ドラグ店長から伝票を貰うと、ロックさんと二人で倉庫に移動する。

今日の鑑定師はノラさん。チェックだけしてもらい、積んだり整頓したりするのは、倉庫のフロア担当者にお任せしている。


「はい、こっちあと2袋入るよ!」


「はい、2袋送りました。次!」


倉庫は活気があり、既に一部は発注を受けているという。


僕は大豆の袋を次々納品しながら、熱気に負けてしまわぬように、気を引き締めた。


昼食を済ませ、次は珈琲豆の納品に入る。

鑑定師をオゥラさんと交代し、膨大な量の納品をこなしていく。


おやつ代わりのキャラメルを口に含みながら、珈琲豆の納品を続けていく。


だだっ広い倉庫が、商品で埋まっていく。

ここ2週間の成果が、そこにあった。


珈琲豆は量も種類もかなり多く、また小豆などほかの豆類の納品もあった為、1週間かかった。


残りは、生鮮食品である。フルーツを納品しようとした時に、聞いたことのある音が聞こえた。



リリン♪


【レベルアップ!】

【スキル ネットスーパーは進化しました】

【テナントを選んで下さい】

【宝飾店 or ホームセンター】


久方ぶりのレベルアップだ。

しかし、ホームセンターって何だろう。

テッサがいれば何かわかったかもしれない。

残念だけど、いないんだから自分で決めるしかないんだ。


僕はホームセンターを選んだ。

中を調べてみると、スコップなどの土木作業用品や、木材が並んでいた。特に目新しいものはないな、と思ったけれど、イチゴの文字につられて見てみれば、イチゴの苗が売っていた。よく見ると、カッスィーの取り扱っているフルーツの苗は全て買えるようだ。

フルーツだけではない。珈琲豆の木もあるし、種で良いならもっと種類も豊富だ。


これは一大事。

そう思った僕は納品を中断し、ドラグ店長を呼び出した。

第2応接室で待つこと暫し、上機嫌なドラグ店長がやってきた。


「お待たせして申し訳ありません。本日も多数のお取引が成立しております。オーナーが頑張って納品してくれたからですね」


「それは良かったです。ところで、納品した商品の、全ての苗が買えるとしたら、どうしますか?」


「全て……米や珈琲、フルーツもですか」


「はい。実はスキルがレベルアップして、先程購入可能になったんです。まずは見本として、イチゴの苗を出しますね」


机の上に出した、イチゴの苗を手に取り、じっくりと眺めていたドラグ店長は、一通り考えを纏めたのか、僕らへ向き直る。


「カミーラ司祭にご相談頂けますか。きっと、この国に取って大事な選択となるでしょう」


「わかりました。今日は帰ってカミーラ師匠の指示を仰ぎます」


ドラグ店長に見送られて、僕とロックさんは家路へついた。


夕焼けの空を眺めながら帰宅すると、事情を聞いたカミーラ師匠は「難しいな」と呟いた。


「育成方法とかわからないし、苗や種だけあっても困りますか?」


「いや、育成方法はスキル【緑の手】や【植物栽培】など、専門職に委ねれば大丈夫なんだ。問題は、どこで育てるかなんだけど……」


「ティアージア公爵家の領地でまず試して貰うのはどうですか?」


「それも考えたけれど、育てたい作物が多すぎる。王妃様のご実家であるメルロー辺境泊は南にある。そこで暖かい土地で育つ作物は全て引き取って貰おう。カカオ豆の納品義務があるから、話を聞いて貰えるはずだ」


そう言うと、するすると書状をしたため、謁見のお願いを使用人に託し、今日は解散すると告げた。


翌日、僕とロックさんは異世界市場王都支店へ行き、フルーツの納品をしていた。これも数が多かった為、それなりに時間がかかった。


ホームセンターで苗が買える事については、暫くは箝口令を敷く事になった。

大事になってしまったなぁと思わなくもないが、ドラグ店長はさもありなん、といった様子だった。


三日後、カミーラ師匠が王妃様に謁見し、内容を報告したところ、カカオ豆の栽培については随分調べた後だったそうだ。曰く、王妃の実家の南の大地でも栽培には適さない。カミーラ師匠はカカオ豆の木と種をサンプルとして持って行っていた。

王宮付きの【緑の手】や【植物栽培】のスキル持ちがしっかり調べた所、数日の猶予を経て、南のカラナンド国という小さな国が最適である、と出た。特に特産物のないカラナンド国でカカオの生産を一手に任せて特産品とする計画が錬られた。


この試みが大成功を収め、小国ながらカラナンド国は非常に豊かな国へと生まれ変わる。その過程で、国名をカカオと改めるのは、僅か数年後のことである。


「珈琲豆も南の国が適しているでしょう。こちらは連合国に打診します。他の作物については、一旦王家預かりにします。しっかり調べた後、植える場所は王家より転生者支援の一環として打診しましょう」


「かしこまりました」


カミーラ師匠が王宮から帰ってきた後、展開はとても早かった。

まず王宮付き調査団の皆さんが異世界市場王都支店へやってきて、南へ持って行く苗や木、種を時間停止機能付き魔法鞄に納め、一部旅立って行った。


残りの苗を調べると言うことで、稲の苗を出した。麦と育て方が違うと言うことを口々に言っていて、これも一定量を納品した。ちゃんとお金を支払って貰えたので安心だ。

翌日からはドラグ店長が伝票にしてくれたので、苗を出すだけで事は済んだが、とにかくホームセンターで売っている苗の種類が多い為、一週間ほどかかった。


苗の納品が終わると、調査団は王宮へ帰って行った。どこで何を育てるかは、調査団だけでなく、王宮に勤めている転生者も含め、皆で決めるらしい。


そうこうしているうちに、ティアージア公爵夫妻がタウンハウスにやってきて、とうとうパーティーが開かれた。

転生者支援パーティーと銘打たれた今回のパーティーは、転生者を子に持つ貴族が沢山参加した。そこで御披露目となったたくさんの料理とレシピ。材料も売っている。転生者は何より料理を喜んで迎え入れた。転生者だからといって、食に困る時代は終わったのである。


パーティーは大成功。招待客は皆こぞってレシピを買い揃え、材料を発注する。

異世界市場王都支店の出張所を設けていたので、ドラグ店長をはじめ、補佐の人員はとても忙しかったと聞いている。

ドレスで参加したカミーラ師匠も、異世界市場の説明に一役買っていたらしい。


そして現在。パーティーの熱気が冷めやらぬ中、ティアージア公爵夫妻に挨拶をして、僕達は一路ルカート町へ。三ヶ月に一度戻るというのは、結構慌ただしい。


4つ町を超えて、領都クレイモアへ。

ロキさんに熱烈歓迎を受けた。


「パーティーでもカレーライスは特別人気があったって、手紙で聞いてるよ。カミーラ司祭は参加されてどうでした?」


「私は米と味噌汁の人気っぷりにびっくりしましたね。泣きながら食べてる子もいました。後、蕎麦とうどんも人気がありましたね」


カレーライスを頂きながら、二人の会話を聞いている。

今日のカレーライスは中辛なので少し辛いが、美味しかった。


「予想通りではあるけれど、パーティーは大成功。たくさんの転生者が救われたって、号外の新聞まで出た位だしな。カッスィー、ありがとう。俺達みんな、感謝してるぜ!」


「うっ、嬉しいです。頑張って良かった……」


ロキさんの言葉は感情がこもっていて、僕もつい感極まってしまった。ちょっと涙を流してしまったけれど、お互い様なので気にしない。


それにしても、僕の頑張りで救われた転生者がたくさんいるっていう話、ありがたいよね。

しばらく胸を張っていられそう。


その後解散となり、割り当てられた客室に戻ろうとしたところで、ロックさんに声をかけられた。


「よう。泳ぐか?」


「うん、泳ぐ!」


「じゃあ、風呂場へ行こうぜ」


僕とロックさんは連れ立ってお風呂に入り、身体を清めた。

そして湯船にゆっくりと浸かる。

きっちり温まった頃に、僕はぷかりと浮いて、手足を動かした。浮いた身体は少しずつ前進してゆき、やがて端っこにたどり着いた。


お湯から顔を出し、泳げていたかを聞くと、「泳げていたよ」とロックさんからお墨付きを貰った。

僕は嬉しくなってもう一度端から端まで泳ぎ切り、やり切った気分でお風呂を出た。


お風呂から出て牛乳を飲み、歯磨きをして就寝した。おやすみなさい。


翌朝、朝食後。

ロキさんに見送られながら出立。


さて、行き先はイヴリン町のイヴリンダンジョンだ。

町を4つ経由し、トチャネに着いた後、町を3つ経由した。その後野宿で3泊し、町をまた3つ経由した。


イヴリン町に着いたのは、領都クレイモアを出てから約2週間後の事だった。

お読みいただき、ありがとうございました。


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