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護衛騎士

3の鐘が鳴り、おやつの時間である。

納品を一端止めて、食堂へ行く。

すると、アランが大喜びでこちらを見つめてきた。


「丁度今呼びに行かせる所だったんだ! まあ、座れよ。大人たちは応接室で話し中だ」


上座にアラン、エレノア。

こちら側に、僕。


僕が席に腰掛けると、アランの合図でおやつが運ばれてきた。

今日のメニューは、シュークリーム。

そう、僕が出したものを再現したのだ。


シュー皮も堅すぎる事なく焼き上がっている。

ホイップクリームとカスタードクリームの甘さと量も申し分ない。


「美味しい」


思わず、といった調子で、ぽつりとエレノアお嬢様が呟いた。


「エレノア、うまいか?」


おそるおそる、アランが尋ねる。


「当たり前よ。とっても美味しい。シュークリームがお家で食べれるなんて、感動しちゃった!」


そう言って、エレノアお嬢様は花開くように笑った。


「そうか……、俺はエレノアにガッカリして欲しくなくて人を寄せつけないように振る舞う事しか出来なかった。異世界の食事なんてなくても、エレノアを守れるつもりでいたんだ」


「お兄様、私も諦めていたわ。カッスィーが特別なのよ。あのお弁当、とっても美味しかったわ」


「エレノアお嬢様、これからは海老フライもお家で食べられますよ。ご安心下さい」


僕がかしこまって頭を下げると、エレノアお嬢様は慌てて言葉を重ねて来た。


「カッスィー。私のことはエレノアと呼んで。私を助けてくれた天使様に無礼な真似は出来なくってよ」


「俺のこともアランで良い。エレノアがこんなに元気なのを見るのは久方ぶりなんだ。本当にありがとう」


「二人とも頭を上げて。僕のスキルがエレノアの役に立って僕も嬉しいよ。じゃあ、納品があるから僕は行くね」


「ああ。では解散にしよう」


アランの号令で解散となり、僕は厨房の控え室へ戻ってきた。

そこで伝票を確認し、鑑定師の男性と倉庫へ向かう。

まずは米からだ。出したものを鑑定師にチェックして貰い、積んで積んで、積み上げていく。

米が終わったら醤油だ。出してチェックして貰って、並べていく。

次は味噌。それが終わったら各種食品だ。

どうやらティアージア公爵家からチョコと珈琲の製法を買うことにしたらしい。

伝票にカカオと珈琲豆の発注が載っているからだ。ミラノさんのレシピは軒並み買って貰えたようだし、エレノアのこれからの食生活は明るいだろう。


発注数が大量だった為、納品は夕刻過ぎまでかかった。


納品が終わり、夕食の時間だ。

食堂へ行き、カミーラ師匠の隣に腰掛ける。

上座に、カスケード侯爵、ローザ夫人、子息のアラン、エレノアお嬢様。

こちら側に、カミーラ師匠、僕、ニンゲさん、ロックさん。


「では、晩餐を始めよう」


カスケード侯爵の合図で運ばれてきたものは、親子丼だった。しかも、カッスィーが使っていたものを真似てお箸まで用意されている。それとお味噌汁だ。


エレノアは真っ先にお箸を使って食べ始めてくれた。

アランとカスケード夫妻も見様見真似で親子丼を食べる。味噌汁の具はわかめともやしで、罪のない味わいだ。


「これが……親子丼か。美味いな。なんと言っても、出汁の味をハッキリ感じる。エレノア、こんな食事を君は求めていたのかい?」


エレノアはこくりと頷くと、ぽつりぽつりと喋った。


「とっても美味しい。こんな食事を待っていたの。お父様、食材を買って下さってありがとう。アランお兄様、私の為に怒って下さってありがとう。そしてカッスィー。素敵なお弁当をありがとう。私はもう大丈夫です、お母様」


「エレノアはこんな食事を求めていたのね。全く分からなかったわ。あなたは食が細くて心配だったけれど、もう大丈夫なのね?」


「はい。私……幸せです。ご飯の味に文句をつけるから、元の家族ともうまくいってなくて。困り果てていた所に、カスケード家が手を差し伸べてくれたの。こっちの家に来ても私は変わらなかったけど、こうして希望する食事とも出会わせて貰えました。もう、大丈夫です」


皆が完食したのを見計らって、デザートが運ばれてくる。

メニューは、チョコレートケーキだ。


チョコレートケーキにも元気良く手を着けるエレノアを見て、カスケード侯爵は殊の外喜んだ。


「うん、美味い。エレノアが元気になった事も喜ばしいが、食事も美味しくて何よりだ。このチョコレートケーキのチョコレートは、王宮で噂になっていたよ。流石に美味しいね」


「まぁ。お父様。チョコレートは、そんなに高級な食べ物だったのですか」


「はっはっはっ。高くとも買えない程ではないさ。特に今回は直接仕入れが出来た事だし、全体的に安くあがった分、数量を多くしておいた。これからはいつでも食べられるから、安心なさい」


「カミーラ司祭。あなた達を詐欺師呼ばわりした事、重ねてお詫び申し上げる。本当に、ごめんなさい」


「アラン子息、頭を上げて下さい。あなたなりにエレノアお嬢様を守ってきたのはよくわかりました。謝罪は受け入れます。これからも、エレノアお嬢様と仲良くしてあげて下さい」


「勿論です。謝罪を受け入れて頂き、感謝致します」


チョコレートケーキを食べ終え、食後のお茶を飲み、解散となった。

今日はカスケード侯爵家でお泊まりである。

部屋に戻るとしばらくしてお風呂に呼ばれ、ゆっくりと入った。


お風呂から上がるとフワフワのパジャマに着替え、歯磨きをして就寝した。


翌日、朝食後。

ブナン領を通ってティアージア公爵領へ出るという話をしている際に、昨日の蟹は絶品だったという話をしてみた。

すると、やっぱりイヴリンダンジョン産のモンスターだった。地下3Fまで降りられれば、倒すのは難しくないと聞き、がぜんやる気に力が入る。


「帰りは寄るんですよね、ダンジョン」


「ああ。まずは王都だな」


ニンゲさんと話し合い、一旦、ダンジョンへのやる気は懐に仕舞っておいた。


さて、出立である。

カスケード侯爵夫妻とアラン、エレノア、そしてずらりと並ぶメイド達。


僕は馬車に乗り込み、小さく手を振りながら、大きな声で挨拶をした。


「お世話になりました! またね、アラン、エレノア!」


「また来いよ! 待ってるからな!」


「またいらして下さいませ、お待ちしておりますわ!」


ふたりの声援を背中で聞きながら、馬車は静かに発進した。

次に目指すはブナン領である。

ブナン領のリョドという町に到着するまで、三日ほどかかるのだとか。

僕は食事時にお弁当と飲み物を出す仕事を頑張ったよ。

道中は平和なもので、途中にウルフが出たが、ロックさんが問題なく処理していた。


そして野宿生活3日目、僕は就寝中に何かの気配で目覚めた。

テントの中は結界が張られており、誰も入ることが出来ない。

ふと見ると、同じテント内で寝ていたカミーラ師匠も起き出して来ていた。


「何かいるんでしょうか?」


「間違いなくいるね。まだ気配があると言うことは、2頭いたのかもしれない」


ガガガッ、ガタン。


外で何かの物音が聞こえた。


トントン


「カミーラ司祭、カッスィー。起きているか?」


「起きています。何かありましたか?」


「もう出てきて大丈夫だぞ。鉄熊が2頭出たんだ。勿論、結界が作動していたからこちらに被害はない。2頭ともに討伐済みだ」


「うわぁ、大きな熊だね」


「そうだな、もうすぐ人里に近付くし、しっかり討伐出来て良かった」


倒した熊はニンゲさんのマジックバッグに仕舞い、僕達はもう一度就寝した。


「いやぁ、昨夜の熊にはヒヤリとさせられたね」


一番動じてなかった人がそんな事を言っている。僕は朝ご飯の中華丼を配膳しながら、気になっていた事を聞いてみた。


「カミーラ師匠はちっとも驚いてなかったし、安心してましたよね。それは、ニンゲさんとの二人旅に慣れてるからですか?」


「勿論それはあるとも。旅に慣れているせいもあるね。ただ、私はうちの教会騎士を信じてる。ただそれだけなんだよ。特にニンゲは新米の教会騎士だった頃からの付き合いだ。もう5、6年になるかな。だから私は慌てる必要がないんだ」


「へえー。信頼してるんですね」


「カッスィーも、もっと俺達を信頼してくれていいぜ。俺達は教会騎士だが、現在はカミーラ司祭とカッスィーの専属の護衛騎士だ。なんつーか、態度が堅いんだよな。よそよそしいっつーか。まぁ、まだ会ったばっかりっつーのもあるんだろうがよ」


「ロックさん、ありがとう。僕に護衛騎士がいるなんて格好良い。頼りにしてるよ」


「おう、任せとけっ」


ロックさんが得意げに胸をはるのを僕は微笑ましく見ていた。

お読みいただき、ありがとうございました。


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