お米に慣れてきた
夕食のロースカツ定食にカッペラード様は大変お喜び下さって、カツだけじゃなく、味噌汁の材料やレシピも買ってくれた。
ロースカツ重のレシピは渡してあるけれど、煮てあるものと、サクサクの揚げたてロースカツの美味しさはまた別物だったみたいだ。
もちろん、僕も美味しかったよ。
デザートのチョコレートフォンデュはちょっと重たかったけれど、ミクシーヌ様たってのご希望だったし、とても豪華だった。
バナナ等のフルーツや各種パンやクッキー、野菜もあったな。
僕はバナナが気に入ったんだ。
ティティー村じゃフルーツは入手出来ないから、ほぼスキル【ネットスーパー】頼みだったけれど、喜んでもらえて本当に良かった。
さて、今日の昼食は来賓の方たちが食堂に行ってる間に済ませますよ。
テッサが日課だからと来てくれたので、スキル【ネットスーパー】を起動する。選んだお弁当は……牛丼。材料を買って出し、ミラノさんに預ける。
スキル【鑑定】で、簡単な作り方を説明していくテッサ。
ミラノさんは早速試作に取りかかるようだ。
テッサとふたり、食堂で待つことしばし。
ミラノさんが牛丼を持って現れた。
「お待たせしました。どうぞ、牛丼です」
ご飯の上に玉ねぎと牛肉が乗っていて、紅生姜が添えられている。それをスプーンですくってパクリ。
甘辛い味付けのお肉が美味しくって、ご飯がすすむ。
お肉のタレがご飯に染みて美味しい!
「ほんと、美味しい。かっこんで食べちゃう」
「丼ものって一気に食べちまうよな」
「うん。テッサの家でもお米食べてるの?」
「オムライスだけ作ってもらえるようになったけど、まだ米をそんなに好きになって貰えてなくてさ」
「僕はお米に慣れてきたけど、味薄いもんね」
「そうかなぁ。おにぎりだったら食べやすいし、親父も気に入りそうなんだけどさ」
テッサは家庭内でお米の普及を頑張っているようだ。
食後のデザートは羊羹だった。
しっとりした甘さを堪能する。
「その、おにぎりっていうのはどんなものなんだ?」
「ミラノさん、作ってくれるの?」
「テッサには世話になっているからな」
「えっと、炊き立てごはんを両手で握って、真ん中に具を包むんだ」
「僕は何か出す?」
「海苔と梅干しと鮭を頼んでいい?」
「まかせて!」
出したものをミラノさんに渡して、あとは待つ。
そろそろカッペラード様達が戻ってきそうなので後はテッサに任せて僕は応接室に向かった。
食堂で美味しい唐揚げ定食を食べれたそうで、カッペラード様達はご機嫌だった。
「唐揚げは本当に美味しかったよ。売り上げ1位は伊達じゃないね」
「お口に合って良かったです」
「今月の納品は来週だったね。その時に唐揚げのレシピと材料も納品して欲しい」
「わかりました。ミラノさんと伺います」
「うん。テッサも鑑定師見習いとして同行するだろう? テッサはスキル【鑑定】持ちとして、鑑定師としての働きを期待されているけれど、一応面談をしたいんだ。親御さんは鍛冶師になればいいと考えているようだから、尚更ね」
「テッサの事も気にかけてくれてありがとうございます」
「ハイド男爵領の発展に、子供たちの未来がかかっているのは当然のことさ」
カッペラード様は眼鏡をきらりと光らせて、そう語ってくれた。
大人たちは話があるということで、カッスィーは自室にひきあげてきた。
スキル【物々交換】は、食べれないものが多かったのか……宝石とかかな。
高価なもので、珍しいものってなんだろう。
テッサに聞いたらわかるかな。
コンコン
「はい、どうぞ」
「カッスィー、おにぎりが出来たんだけど、ちょっと食べてみない?」
「食べるー!」
「じゃあ、持ってくるね」
そう言ってテッサがキッチンカートに載せて持ってきたのは、黒いかたまりだった。
「テッサ……なんか黒いけど、これがおにぎり?」
「海苔がまいてあるから黒いんだ。こうやって…ガブッと食べられる」
「手づかみで噛みつくなんて、怒られない?」
「カッスィーはお上品だなー。ガイだったら遠慮なく噛みついてるぜ」
「待って僕も……っ、ガブッ」
もぐもぐ、ゴクン。
「あれ?美味しいね。海苔がいい香りでお米はちょっとしょっぱくて美味しい」
「ほんと?具はそれ梅干しなんだけど、どう?」
「すっぱーい」
「あはは。俺はうまいと思うんだけど、カッスィーは無理そうか?」
「うーん、お茶飲みながらならなんとか……」
「じゃあつぎ、こっち食べてみて」
「うん……これは、お魚?」
「鮭を焼いてほぐしたものを具にしてある。ぶっちゃけ具はなんでもいいんだ」
「これは文句なしに美味しい」
「米を好きになって貰うのに、おにぎりはどうかな?」
「うーん、オムライスみたいにもっと味を付けたら? あと、カラトリーでゆっくりたべたい」
「そっかー。ミラノさんも味付けしたごはんの方が取っつきやすいだろうって言ってたんだ。手づかみで食べれるのが良いところだけど、食べ方は自由だよ。検証につき合ってくれてありがとう、カッスィー」
「どういたしまして。味は悪くないけど見た目が真っ黒でびっくりするから、それぐらいかな」
「じゃあピラフなんてどうかな……。カッスィー、コンソメ売ってくれ」
「ミラノさんが使うならお代はいいよ。はい、これ」
「ありがとな」
早足で食堂に向かうテッサを見送り、手持ち無沙汰に絵本を手に取る。
スキル【物々交換】を授かった主人公が、家から追放されてしまい、途方に暮れる。
しかし実は良いものを出してくれる夢のようなスキルだった。
隣国の実家からは帰ってきて欲しいと連絡がはいるが、わが国に定住した主人公は、もう遅い。と実家に戻ることはなかった。
人材は宝であるとして、まあまあ平和なわが国は追放者0を目指している。
それがなければ、カッスィーだってどうなっていたかわからない。
堂々と胸を張れるのは、スキル【物々交換】の逸話と、的確なテッサのおかげ。
あとできれば、両親に恩返しが出来るよう頑張ろう。
テッサ程じゃなくても、役に立てる事があるはずだ。
お読みいただき、ありがとうございました。
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