転生者を救え
食堂へ着くと、皆勢揃いしていた。僕も慌ててカミーラ師匠の隣に腰掛ける。
上座にカスケード侯爵、奥方のローザ様、ご子息のアラン様。
こちら側に、カミーラ師匠、僕、ニンゲさん、ロックさん。
「では、昼食を開始しよう」
カスケード侯爵の合図で、前菜が運ばれてくる。
メニューは、春野菜のミネストローネだ。
スープは奥深い味わいで、ジャガイモがほくほくしていて美味しかった。
メインは、岩蟹のローストである。
足は剥き身になっており、簡単に食べ進める事が出来た。身は甘く、とてもジューシーで最高に美味しかった。売っているのなら買って帰りたい位である。
デザートは、ロペニという桃に似た果物のパイだった。
一口食べる度にじゅんわりと甘い果実が顔を出す。サクサクとしたパイと、芳醇なロペニが深い味わいをもたらしていた。
食後のお茶を淹れて貰い、一息つく。
カスケード侯爵はカミーラ師匠と話し始めていた。
「なるほど、転生者支援の為に旅に出られたとは、それほどのものを見つけられたのですかね?」
「疑問に思うのも当然です。この世界にはないと考えられて来たのですから。しかし見つけたのです。よく教会で取り沙汰されるノリベンも、今回お持ちしています。その他にも沢山のメニューを取り揃えていますので、転生者の気鬱を止める良い手段になると思いますよ」
「ほほう。ノリベンすらメニューのひとつと申されますか……。実は最近引き取った子供が転生者でして、うまく食事が進まないようです。一度会ってみてくれませんか」
「父さん! エレノアに会わせるの?! もうペテンには騙されないって言ったのに酷いや! ぜーったい、エレノアには会わせない!」
「アラン、待ちなさい!」
アランは心のまま叫ぶと、食堂を走って出ていってしまっていた。
「いやはや、面目次第もございません。アランはエレノアに対して過保護でしてな……」
子息のアラン様は7才とのことだ。そして、引き取られて来たエレノアお嬢様は5才。
二人は出会ってすぐ仲良くなったが、食事については、衝突してばかりだったという。
理由は、出した食事にエレノアが満足しないから。不満ばかり言うエレノアに、アランは一番に美味しいものを探し出すとエレノアと約束した。しかし、それから失敗の連続でエレノアは部屋に引きこもるようになり、アランは新しい食材を買おうとする父親を邪魔するようになったという。
「私を詐欺と一緒にするなんて酷い話だ。しかし、エレノアお嬢様が心配だね。カッスィー、ちょっとエレノアお嬢様とお話してきなさい。年が近い分、遠慮なく要望を言ってくれるかもしれない。カスケード侯爵、宜しいですかな?」
「はぁ……。では、メイドに案内させましょう」
そんなわけで、僕はメイドさんについてエレノアお嬢様のお部屋までやってきたのでした。
コンコン
メイドさんのノックが響いた。途端に、アランの声が聞こえてくる。
「エレノアには会わせないっ! さっさと帰れ!!」
「アラン坊ちゃま、旦那様からの指示です。どうか従って下さい」
「毎回毎回ガッカリするエレノアの身にもなれよ! だからこんなに細いんだ! さっさと帰れ!」
僕はメイドさんに許可を貰って、エレノアお嬢様に話し掛けた。
「僕はカッスィー。持ってきたお弁当の名前を言っていくね。親子丼、カレーライス、カツ丼、ミックスフライ弁当、海老フライ弁当……」
「えび……ふらい。今、海老フライ弁当って言った?」
「うん、言ったよ。食べるなら、ここを開けていいかな?」
そう聞くと、内側からドアはゆっくりと開いた。
エレノアお嬢様を見て、僕はほっとした。
アランが細いと叫んでいたけれど、そこまでガリガリではなく、線が細い位だったので、安心した。
僕は鞄から海老フライ弁当を取り出し、メイドさんに渡した。
アランは驚愕の表情だ。
メイドさんは室内で食べれるように手早く整え、カラトリーも用意してくれた。
エレノアは蓋を開けると、海老フライにタルタルソースをかけ、フォークとナイフで海老フライを食べた。器用にご飯も食べつつ、全て完食する頃には、アランの硬直も収まっていた。
メイドさんが紅茶を淹れてくれたので、僕はデザートを聞いてみた。
「エレノアお嬢様、デザートは何が良いですか? ショートケーキ、チョコレートケーキ、チーズケーキ、フルーツタルト……」
「ショートケーキとチーズケーキ!」
「美味しいよね。僕も好きなんだ」
答えつつ、スキル【ネットスーパー】で購入したケーキを手持ちのお皿に載せて、メイドさんに渡した。
お皿をメイドさんから受け取ったエレノアお嬢様は、元気そうに二つのケーキを食べきった。
「エレノア……お前がそんなに食べれるなんて……」
アランは声にならない様子だけど、エレノアは元気いっぱいに、お腹いっぱいだわ、と名残惜しそうに呟いた。
「カッスィー。あなたは天使様かしら。食べたいものを揚げ立てアツアツで持ってきて貰えるなんて思わなかった。デザートもこっちの世界じゃ見たことがないものなのよ」
「僕はスキルでお弁当を出しているだけだよ。僕は転生者じゃなくて普通の子供なんだ。転生者支援の仕事で、今日はエレノアお嬢様のお家にお邪魔したんだ」
「そうだったの。お仕事なのね。お兄様、お聞きになった?」
「ああ。エレノア、彼は本物……なのかい?」
「ええ、そりゃあもう、本物以外の何者でもないわ。夕御飯には、親子丼が食べたいわ。デザートは、チョコレートケーキよ」
「わかった」
「ほら、通じるでしょう?」
エレノアはクスクスと兄の狼狽ぶりを笑い飛ばした。
「お兄様が失礼な事を言ってごめんなさいね、カッスィー」
「詐欺師扱いをして、悪かった!!」
ガバッとアランは頭を下げてきた。
「わかってくれたならいいんだ。夕飯の準備もあるし、一端失礼するよ」
後の事は一部始終を見ていたメイドに任せ、カッスィーはカミーラ師匠に割り当てられた客室へ向かった。
コンコン
「カミーラ師匠、カッスィーです」
「入っていいよ。それで、どうなった?」
僕は入室すると、勧められるまま椅子へ腰掛けた。そして、今あったことを一つ一つ話していった。
「そうかい。海老フライが食べたかったんだね。希望の食事を届けられて良かった。そして、夕食は親子丼か。じゃあまずカスケード侯爵に食材を買って貰おうか。その後、ミラノのレシピで一度親子丼を作って貰おう。それとカッスィー。相手の事を思いやる気持ちが届いたじゃないか。よくやったね」
「うまくいって良かったです」
「それじゃあ、私はカスケード侯爵と話して来よう」
「はい。カミーラ師匠、頑張って下さい」
そうしてカミーラ師匠がカスケード侯爵と話をしている間、僕は自分に割り振られた客室でゆっくり休ませて貰った。
その後、まずは食材を味見程度購入するという事になった。
試作を担当する料理人三名には、あらかじめお弁当の親子丼を食べて貰う。そして、ミラノさんのレシピで再現して貰うのだ。
「へえー。うまい。これをエレノアお嬢様は、求めてらっしゃるのか」
「まずは米からだな。米を炊いて、味を見よう」
「卵は半熟だな。一応鑑定師に見せよう」
僕は厨房の控え室で、米、醤油、酒、みりん、出汁の元、砂糖、サラダ油、玉ねぎ、鶏肉、卵を出した。
侯爵家の料理人は流石、対応も早かった。
お米を炊き、玉ねぎと鶏肉を炒め、出汁の元で味をつける。あっと言う間に出来上がり、僕は試作品を食べる事になった。
「うん、美味しい!」
試作品は、問題のない仕上がりだった。
次にチョコレートケーキを出して、同じ様に再現して貰う。
カカオを出すとティアージア公爵家からレシピを買う必要があるので、チョコは板チョコを出したが、美味しいチョコレートケーキが出来上がっていた。
そして厨房から話が行き、本格的な仕入れの話になった。
話をまとめてくれたのは、カミーラ師匠だ。
最終的な仕入れの数は相当量となったので、伝票にまとめて貰う。
特にエレノアお嬢様が大喜びで食べたという海老フライ。その材料であるエビと、ショートケーキ用のイチゴは、時間停止機能付き魔法鞄にかなりの量が保存される事になった。
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