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旅立ち

夕飯の時間になり、食堂へ行く。


上座には、父さん、母さん、カミーラ師匠、ニンゲさん、ロックさんがいる。

こちら側に僕が座り、全員揃った。


「では、晩餐を始める」


父さんの合図で運ばれてきたのは、雷鳥の唐揚げ定食だった。

雷鳥の唐揚げは絶品だった。口に入れると肉の旨味が溢れ出る。衣はさくさくと、中は思いっきりジューシーで、肉汁で火傷をしそうな位であった。

味噌汁の具はわかめと白菜で、ご飯と一緒に美味しく頂いた。


ふと見ると、カミーラ師匠はフォークを使わずお箸でご飯を食べている。ニンゲさんとロックさんもだ。


「カミーラ師匠達は、どこでお箸を知ったんですか」


「うーん、知ったのは転生者からだよ。遠慮なく使うのはルカート町の和食屋だね。そもそも米があまり知られていないから、使う場所は限られている。こんなふうに普通にお米とお味噌汁が出て来るなんて、転生者の夢だよ」


「そうなんだ」


ニンゲさんとロックさんも感慨深そうに頷いている。


「雷鳥の唐揚げ、実に美味かった。素晴らしいコックがいるようだな」


「どうも。デザートにクリームあんみつをお持ちしました」


「ああ、こりゃあうまそうだ。ミラノさん、後ほど幾つかレシピを売って貰いたいんだが、良いかね?」


「ええ。勿論構いません」


バニラアイスを食べつつ、あんこと寒天、蜜豆を食べる。黒蜜がかかっていて、甘い。寒天を食べるとすっきりする。次にあんこ、バニラアイス、蜜豆を食べる。甘くて美味しい。


食後の紅茶を淹れて貰い、一息つく。


「まずはルカート町へ行って、ハイド男爵家とアフガンズ男爵家の納品を済ませて貰う。そして異世界市場だ。パンが売れに売れて嬉しい悲鳴といった所だった。ここでも納品を行う。その後は領都であるハイド町を通って、王都へ向かう」


「はい、わかりました」


「明日はオーダーメイドで作った私服を着て行こう。かしこまった席の練習になるからね」


「はい」


「こんな所かな。ああ、ベンさん。ハイド男爵家から伝言です。建築ギルドから大工が向かうとの事でした」


「ありがとうございます。受け入れ体制を整えておきます。では、解散と致しましょう」


僕は解散した後、自室に戻った。

カミーラ師匠はミラノさんに用事があるようで、厨房控え室に移動していた。


お風呂に呼ばれ、ゆっくり浸かる。


僕の旅は、何が待ち受けているんだろう。

楽しみだし、不安もある。しかし、行くと決めたのだ。

帰ってきたときは、願わくば成長出来ていますように。

僕はそう願うのだった。


お風呂から上がり、髪を乾かし、牛乳を飲む。

それから歯磨きをして、布団に入った。

また明日、おやすみなさい。



翌朝、良く晴れた春の日はまだ肌寒い。

オーダーメイドで作った洋服はヒラヒラしていて、ちょっと薄い。

下着をまずはき、シャツとズボンを身に着ける。革靴をはく。

ベストを上から着て、マジックバッグを装備すれば完成だ。


僕は朝食の時間を見計らって部屋を出ると、食堂へ向かった。


食堂には、皆が勢揃いしていた。

上座に、父さん、母さん、カミーラ師匠、ニンゲさん、ロックさん。

こちら側に僕が席に着いた。


「では朝食にしよう」


父さんの合図で運ばれてきたのは、焼き魚とご飯、味噌汁だった。

焼き魚の身は甘く芳醇で、とても美味しかった。


デザートは、フルーツたっぷりのミルクレープだ。

何枚も層になったクレープが色んな味わいを楽しませてくれた。


食後のお茶を飲みながら、これからの打ち合わせをする。


「食休みを取ったらすぐに出発だ。道は昨日話した通りだ。まずはルカート町だね」


「はい、わかりました」


「おや、カッスィー、ほっぺたが赤いよ。もしかして寒い?」


「ちょっと肌寒い程度で……えっ」


カミーラ師匠がカツカツと寄ってきて、ふわりとマントを僕に被せた。瞬間、常春のような暖かさに包まれた。


「君の火蜥蜴のマントだ。付与もしてある。どうだい、暖かいだろう」


「火蜥蜴っ?! そんな高いものを……」


「いいからいいから。カッスィーの方が大事だよ」


僕が恐縮するのに、カミーラ師匠はどこ吹く風だ。ひらひらと手を振って席に着いた。


実際、マントは軽く暖かく、着心地が良い。

僕はかなり気に入っていた。

カミーラ師匠に感謝して、頭を下げる。彼女は気付いて、笑顔で頷いてくれた。


「カッスィー、気をつけて行ってくるんだよ」


「はい、父さん」


「カッスィーの旅が有意義なものになるといいわね」


「はい、母さん」


僕は二人に向かって、万感の思いを込めて言った。


「行ってきます」


それからすぐに馬車の用意がされ、出立となった。今日の御者は、ニンゲさん。

父さんと母さんが見送りに来てくれたので、二人とハグをして、別れを惜しんだ。


僕も馬車に乗り込み、カミーラ師匠と並んで両親に手を振る。


「出発だ!」


カミーラ師匠の合図で、馬車はゆっくりと動き出した。



僕がふと気付いたのは、走り出して一時間ほど経ってからだった。


「あれ、この馬車、あんまりお尻が痛くならないんですね」


「よく気付いたね、カッスィー。この馬車には本当にお金をかけているんだ。長時間馬車の中にいるからね、特に座面は特注さ!」


えっへん、と、胸を張り、胸に腕を組んでそういうカミーラ師匠に、僕はへえ、と頷いた。


「見た目はボロくしてあるから、強盗に狙われることもないしね」


「機能的で凄く良いよね、この馬車。俺も気に入ってるんだ」


ロックさんもべた褒めだ。本当に良いものなんだろうと、僕にも理解出来た。


しばらくして、休憩場所に着いた。

僕は自分の紅茶を出すと、飲みたいものを皆に聞いた。

ニンゲさんは珈琲、カミーラ師匠とロックさんはコーラだった。


「これがコーラか。話には聞くが、飲むのは初めてだ」


「真っ黒でシュワシュワしてますぜ。飲みます……うん、うまい。甘いんですね」


「本当だ、甘いね」


ひとしきりコーラではしゃぐと、カミーラ師匠は珈琲もコーラも売り値は銀貨1枚にしなさい、と言った。

理由は、僕しか売っていないから。

大量注文を受けるにしても、銅貨3枚は安すぎるそうだ。僕は素直に頷いた。


馬車に乗り、出発する。

馬車の中でおやつ時になったので、珈琲繋がりで板チョコを出した。

僕には慣れたおやつだが、カミーラ師匠達には一つ一つが珍しいようで、とても喜んで貰えた。御者台のニンゲさんにはキャラメルを出し、僕は満足だった。


馬車はそのまま穏やかに春の大地を走り抜けて、中天に差し掛かる頃、ルカート町へ到着した。


ハイド男爵家のタウンハウスに到着し、馬車を降りる。

出迎えたのは、ハイド男爵家からカッペラード様とミクシーヌ様。アフガンズ家からシェリー様だ。


「良く来てくれた。まずは、昼食にしよう」


カッペラード様の合図で、客室に通される。

僕は一人部屋だった。身支度を整えて、食堂へ向かう。


食堂に着くと、いつもの座り順とは異なっていた。

上座に、カッペラード様とミクシーヌ様、そしてシェリー様。

こちら側に、カミーラ師匠、僕、ニンゲさん、ロックさん。


僕らは異世界市場ご一行様、と言うことになるそうだ。座り順が違うと、立場も変わった気がする。僕はぴしっと背筋を伸ばして座ってみた。


「楽にしてくれ。では、昼食を始めよう」


カッペラード様の合図で、昼食が運ばれてきた。

前菜は、春野菜のミネストローネ。

キャベツがくたくたになるまで煮込まれており、とても甘い。野菜がたっぷりで、美味しかった。


メインは、岩鹿のステーキだ。

ナイフを入れると柔らかく、口に入れると濃厚で芳醇な肉の旨味が溢れ出してくる。肉の油はしつこくなく、あっさりとしていた。

岩鹿は高い為仕入れた事がない。有り難く、ゆっくりと堪能した。


メインを食べ終わると、次はデザートだ。

デザートは、木苺のジャムの乗ったパイだった。

パイは崩すと、中にクリームが入っており、甘いジャムを絡めて食べた。とても美味しかった。


ふと見ると、シェリー様はアイス5段の木苺パイパフェを食べていた。とっても幸せそうで、何よりだった。


食事が終わり、食後のお茶を頂く。

さて、歓談の始まりだ。

お読みいただき、ありがとうございました。


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