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見送り会と師匠の到着

今日は僕の見送り会だ。

場所は村長宅、ミラノさんのご飯をお腹いっぱい食べるのが目的だ。

お昼近くなってルビアとイクト、ガイとテッサが集まってくる。

食堂に入り、席に着く。


「じゃあ、見送り会を始めるぜ!」


テッサのかけ声で、昼食会が始まる。


まず前菜は、貝とキノコのスープだった。

出汁の味が奥深く、温まる一品だ。


「今日は3品、メインが出るからな!」


そんなテッサの声に、本当にお腹いっぱい食べるんだな、と奮い立つ。

皆は嬉しそうにニコニコと笑い合っていた。


まずは、クラーケンの煮込みだ。

しっかり焼き目のついたクラーケンに、ドロッとした煮汁がかけられている。香りはかぐわしく食欲を掻き立てる。ナイフを入れると柔らかい、ぱくりと食べると身は甘く、新鮮でジューシーな味わいだった。煮汁の方も出汁がしっかり出ており、バケットを浸して食べるととても美味しい。

早くもバケットをお代わりしてしまったのだった。


次の品は、火蛙のスパイスソース掛け。

一見すると、見た目は真っ赤だった。火蛙はスパイスを揉み込んで素揚げにされており、そこに更に真っ赤なスパイスソースがかけられているのだ。ナイフを入れると、身は白い。パクリと口に入れると、濃厚な旨味と辛さ、そしてフルーティーさが口の中に広がる。どうやらソースにはすりおろしたりんごが入っているようだ。これは辛すぎることもなく、とても美味しい。僕は早々と身を全部平らげてしまった。


最後のメインは、ミノタウロスのステーキだ。

お肉の焼けた良い匂い。僕はナイフを入れて、ひと口、パクリ。とろけるように美味しいお肉がそこにあった。脂身が甘く、肉の濃厚な旨味がたっぷりだ。付け合わせの甘い人参とコーン、それとたっぷりのフライドポテトも、肉汁につけながら完食した。


そろそろ、お腹も良い頃合いである。

最後に、デザートのチョコレートパフェだ。


底から、ヨーグルト、コーンフレーク、チョコナッツアイス、チョコ苺アイス、飾り切りの美しいフルーツに、たっぷりの生クリームを絞って、仕上げにチョコソースをかけたものだ。

まずは、バナナを食べ、オレンジを食べ、苺を食べた。そして、チョコナッツアイスを食べていく。美味しい。ちょっと苦味のあるチョコレートアイスが、ローストされたナッツと、甘いホイップクリームと調和していた。チョコ苺アイスもフレッシュな苺が美味しかった。底まで食べ終わり、食後の紅茶を淹れて貰う。


「美味しかった」


「メインが3品もあるなんて、贅沢だったね。カッスィー、頑張ってね」


「俺も呼んでくれて嬉しかったよ。カッスィー、気をつけて行って来てくれ」


ルビアとイクトの言葉に、うん、としっかり頷く。


「ミノタウロスのステーキうまかった。また仕入れてきてくれよな。クラーケンはバカ売れしてるぜ!」


その声を聞いて、ミラノさんが出てきた。


「ミノタウロスはないが、雷鳥の唐揚げを出してみないか? 金貨1枚で一羽まるごと卸せるぞ」


「やったぜ。じゃあ一羽卸して下さい。金は後で親父が持ってきます」


「わかった」


「今日はミラノさん、沢山美味い料理をありがとうございました」


「ありがとうございました」


皆でお礼を口にする。


「坊ちゃん、気をつけて行ってきて下さいよ。また仕入れの食材を楽しみにしてますからね」


「うん。美味しいものを仕入れてくるからね!」


ミラノさんはニコリと笑ってくれた。


「後、テッサ。見送り会を開いてくれてありがとう。僕も頑張るから、テッサも修業頑張ってね」


「任しとけ! 無事に戻って来いよ、カッスィー」


「うん」


思わず涙がこぼれてしまったけれど、気にしない。

ずっと側にいたテッサと離れることになる。

それは少しだけ寂しい事で、それから、カッスィーのスキルでわからない事を聞くことが出来なくなるということだった。

これからは、自分ひとりだけでやっていくのだ。

僕は決意を新たにテッサと握手をした。


その後皆と握手をして、見送り会は解散となった。

ガイは雷鳥を手に、ニコニコしている。


「仕入れの方、期待してるぜ、カッスィー。元気で行って来いよ」


「うん! ガイも元気でね」


「カッスィー、じゃあまたな」


「うん。テッサもまたね」


そうして皆を見送り、自室に戻った。


馬のいななきが聞こえてきたのは、おやつの時間に差し掛かる頃だった。


「カッスィー、カミーラ司祭と、お付きの方がいらっしゃったわよ」


母さんにそう声をかけられ、僕は少し緊張しつつ応接室へ向かった。


「やあ、カッスィー。元気そうで何よりだ。こっちの仏頂面がニンゲ、こっちのヘラヘラしたのがロックだ。覚えやすいだろう? 二人とも教会騎士で、私達の護衛にあたってくれる」


僕が応接室に着くなり、カミーラ師匠は背後の二人の紹介を始めた。

ニンゲさんは確かに仏頂面で、強面の怖い感じの人だった。緑髪の長髪で、背中で一括りにしている。

ロックさんはニカッと笑いかけてくれて、人懐っこい。オレンジの短髪で、ニンゲさんと同じ修道士の格好をしていた。


「ニンゲだ。宜しく頼む」


「俺はロック。二人の護衛にあたることになった。宜しくな、カッスィー」


「カッスィーです。宜しくお願いします」


簡単な挨拶を交わしていると、父さんと母さんが揃った。


「まずは菓子を運ばせよう。ゆっくり寛いで欲しい」


そんな父さんの声で運ばれてきたのは、苺のショートケーキだった。


「いやあ、美味しいです。王都でも食べれないような美しく美味しいケーキでしたな」


「王都にこういった生ケーキのレシピはほんの僅かしか知れ渡っていないからね。しかし買えても金貨2、3枚はすることだろう。中々手が出ないさ」


「ほほう、王都で生ケーキはそんな扱いなんですか」


「ああ、ベンさん。カッスィーを飢えさせる気は全くないのでご安心下さい。そのためにも、ダンジョン行きを願ったのです」


父さんはふむ、と耳を傾けると、カミーラ師匠にその先を促した。


「我々はこれから旅をする。基本的にはシシュタイン侯爵家の来賓としてだ。しかし、小さい村へ行くこともあるだろうし、逆に大きな街で人に埋もれてしまうかもしれない。そうした際に臨機応変に対応出来るように、小金を稼いでおきたい。シシュタイン侯爵家の予算から出すより、その方が勉強になるだろう」


「そうですな。学ばせて貰えるのなら、カッスィーの糧となるでしょう。わかりました。全てお任せします。ですが、カッスィーの身の安全を第一にして下さい。それは譲れません」


「わかりました、ベンさん」


カミーラ師匠は父さんとしっかりアイコンタクトをして頷いた。

次に、母さんが金貨のたくさん入った袋を持ってきた。


「どうか、これもお持ちください。旅費の足しにして下されば結構です」


「フアラさん、ありがたく頂いて行きます。カッスィーの事はお任せ下さい」


「今夜は客室に泊まっていって下さい。他に必要なものはありませんか」


「大丈夫ですよ。全て持ってきてあります。お心遣いに感謝致します。カッスィー、旅立ちは明日だ。いいね?」


「うん!」


僕は出来るだけ元気いっぱいに答えた。

ちょっとの不安なんて、見せるべきじゃない。


「それと、これが君の時間停止機能付き魔法鞄だ。容量は最大。旅に相応しい相棒だよ。必要なものを入れ替えておきなさい」


「でもこれは、父さんに買って貰った大事なマジックバッグで……」


「カッスィー。私はね、君と安全な旅をしたいと思ってる。そのために必要な事なんだ。聞き分けてくれないか?」


「わかり、ました。入れ替えてきます」


「では夕食まで自由時間としよう」


父さんの号令で解散となり、僕は自室でマジックバッグの中身を入れ替えていた。


「……後は鉄矢と愛用の弓を仕舞って、と。もう終わっちゃった」


元々のマジックバッグが空になり、それを持って父さんの執務室を訪れた。


ノックをして、許しを得て、部屋に入る。


「……父さん。マジックバッグを返しに来ました」


「うむ。テッサがマジックバッグを欲しがっていたが、売っても構わないかい?」


「はい」


「カッスィー。新しい鞄も似合っているよ。そんなに落ち込まないで、笑ってごらん。また美味しい食材を仕入れてきてくれ」


僕は潤んでしまった目をゴシゴシとこすると、ニッコリと笑顔を作った。


「仕入れなら任せといてっ!」


僕は父さんと、危ない真似はしないことを約束した。


父さんは水打ち熊の手を母さんの分と2つ希望していて、僕はメモを取って了承した。

お読みいただき、ありがとうございました。


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