ガチャと鉄矢
翌日、朝食後。
テッサが来るのを待って、ガチャを回す準備をする。
「まずは、砂時計か?」
「うん。砂時計を倒して行くよーっ」
【ログインボーナス・156日目】
【緑茶を手に入れました】
【ガチャ回数券が8枚あります】
【1回ガチャを回しますか? Yes or No】
【砂時計を獲得しました】
【砂時計を倒しますか? Yes or No】
砂時計を倒しますか? Yes を押して、砂時計の絵がくるりと回り、砂が落ちていく様を眺める。
30秒経って砂が落ちきり、【ガチャ回数券を3枚手に入れました】と表示が出た。
これにより、メッセージは以下のように変化した。
【ログインボーナス・156日目】
【緑茶を手に入れました】
【ガチャ回数券が11枚あります】
【1回ガチャを回しますか? Yes or No】
【10回ガチャを回しますか? Yes or No】
ガチャ回数券が11枚になり、10回ガチャを回せるようになった。
10回ガチャを回しますか? Yes を押して、丸い絵がぐるぐると回るのを眺める。
10枚カードが出てきて、順番に並んだ。
今回は、白いカードが8枚に青いカードが1枚、赤いカードが1枚だった。
カードに触れて、出て来たものを受け取っていく。
今回の成果は、ファウト鋼5個と魔導コイル3個とアレキサンドライト1個、ミスリル1個だった。
「やった! ミスリルが出たな」
「今日も宝石が出て嬉しいよ」
「所でさ、魔導アイスクリームメーカー、アイスクリンの事なんだけどティティー村の分がないだろ? 買うのは高すぎるから二の足踏んでたら、師匠が材料費だけでいいって言ってくれたんだ!」
「へぇ。そりゃあミラノさんも喜ぶよ。キャロ師匠に感謝しなきゃ。後、予算については、父さんに言っておくね」
「えへへ。宜しく。キャロ師匠もアイス大好きなんだぜ。自宅用にも1台アイスクリンを置くって言い出してさ、兄ちゃんも大喜びだったよ」
今のところ、ティティー村のアイスクリーム供給源は僕だけである。それがアイスクリンに切り替わってくれるなら、僕の納品も楽になるし、納品元も誤魔化せる。それに、僕がいなくてもアイスクリームを楽しめるのだ。それはとても素敵な事のように思えた。
「テッサは修行、順調?」
「うーん、今は伸び悩んでて金策の魔導アイロンを作ってる。魔導扇風機は作れたんだけど、魔導ドライヤーは全然難しくてさ、少しずつ進めてる」
「そっか。何だか難しそうだね」
「魔導コイルのカットはうまく行くんだ。次は設計図通りに組み立てて行くんだけど、機構部分はやっぱり難しくてさ。コイルを曲げてみたり、ファウト鋼との溶接をやり直してみたり、色々やってみてる。後は……」
僕は、何だか専門的な事を喋り続けるテッサを見て、もうすっかり魔具職人のようだな、と思う。
勿論、まだ見習いなのはわかっている。
だが、魔具職人という見たことのない職人に憧れ、師匠が来るまでは魔具雑誌だけで、修行らしき修行もままならなかった事を思うと、今は別人のようだ。イキイキと修行を行っているテッサ。
僕も商人見習いとして、これから頑張らねばならない。
僕に出来ることはお弁当を出す事位だけど、出来ることは頑張らなくちゃね。
テッサと話し込んでいたらお昼時になり、昼ご飯をテッサも食べていくことになった。
食堂に向かい、席に着く。
今日のメニューは、水馬のカレーライスだった。
僕は甘口、テッサは辛口を希望した。
水とカレーが配膳され、スプーンでぱくり。
「うん、美味しい!」
「水馬、うめぇな」
僕とテッサ、両方から声が上がった。
水馬のカレーは肉が甘く感じられ、カレーの芳醇な香りと肉の旨味が絡み合い、奥深い味わいだった。
僕は甘口で丁度良いけれど、テッサは辛口を水を飲みながら完食していた。
カレーを食べ終わり、次はデザートだ。
今日のデザートは、桃のアイスクリームだった。
甘く、そして濃厚なミルクの風味が桃と混ざり合い、口の中でするりと溶けて、とても美味しかった。
食後の紅茶を淹れて貰い、ひと息つく。
すると、テッサから有り難い提案があった。
「カッスィーはもうすぐ旅立ちだろう? 見送り会やろうぜ。いつ出てっちまうかわかんねぇし、日程は明日でいいだろ。そんで、場所はここな! ミラノさんの飯が恋しくなるだろうし、ミラノさんの飯を腹いっぱい食っとこうぜ。ガイとルビアとイクトには、俺が声かけとくからさ」
「ありがとう、テッサ。僕も出立前に、皆でご飯を食べたいと思ってたんだ。じゃあ明日、宜しくね」
「おう。じゃあ俺はミラノさんと軽く打ち合わせをしてから帰るから」
「わかった。解散しよう」
僕は食堂を出ると、ガチャで出た宝石を母さんに預けて、教会へ向かった。
「いらっしゃい、カッスィー」
「こんにちは、勉強に来ました」
おじいちゃん先生は、今日も優しく受け入れてくれた。
そんなおじいちゃん先生の今日のテーマは、非国民。なんだか重たい内容のようだ。
「カッスィーは旅に出るから、鱗人に会うかもしれん。一応覚えておきなさい」
鱗人とは、身体的特徴に蛇の鱗のような皮膚を持つ人達の事だそうだ。
特徴として、打たれ強い身体能力を有しており、冒険者として、活躍している事もあるという。
「でも、身体に鱗があるだけで非国民なの? 女神様はこの世界を作ったんだし、鱗人の事も受け入れてくれると思う」
「そうじゃな。しかし鱗人は女神様を否定し、男神を崇めている。女神様を否定する事は我等教会を否定する事と同じ。よって、教会が認めていない鱗人の事を、ラグナスティール王国では非国民という扱いなんじゃ」
「女神様を否定するなんて、おかしいよ」
僕はそう反論していた。
なんたって女神様は、この世界を作ってくれたのだ。じゃあ、僕だって鱗人だって、女神様が作ったものの一つかもしれないじゃないか。
「鱗人の主張は一応聞いておる。見た目で迫害されて、苦しいときに女神は助けてくれなかった。よって我等は新しき男神を崇めると。一応南の外れに自治区があるが、女神様の使徒である教会とは仲が良くない。とても国とは呼べない寄せ集めじゃよ」
「うーん、難しいね。鱗人と仲良く出来ないかもしれない」
「この国では国民と認められておらん。仲良くせんでええんじゃよ」
おじいちゃん先生は噛んで含めるように、何度も関わり合いにならないようにと何度も念を押してきた。
鱗人は女神様を否定している為、教会で治癒を受けれない。その為、高価なポーションが大量に必要になる。ポーションは薬師ギルドから買えるが、資金が必要だ。その資金は、たいてい犯罪行為で手に入れたものなんだそうだ。
今日の授業はなかなか溶けない苦い薬飴のようで、理解はすれども僕の胸が晴れることはなかった。
おやつ時になり、家に帰り、食堂へ向かう。
席に着くと、ホカホカのあんまんとクリームまんが配膳された。
柔らかくて甘い温かさが、ギュッと閉じこもっていた僕の心を解してくれる。
両方、とても美味しかった。次はチョコレート餡のものを作ってみて貰おうかな。
食後のお茶を頂き、一息ついた後、自室に戻る。
僕は愛用の弓を手に取り、裏手の練習場に向かった。
的の前に立ち、弓を引き絞る。放つ。命中。次の矢をつがえる。弓を引く。放つ。命中。次。
集中して弓矢を放っていく。
矢筒にあった20本のうち、外れたのは2本。
これ以上はなかなか精度が上がらない。
矢を回収し、もう一度放とうとする僕へ、ランダさんが近付いてきた。
「坊ちゃん、鉄矢を使ってみませんか。重いが威力は倍増しますよ」
「えっ。いいの? 使ってみたい!」
「どうぞ。20本あります。属性矢も同じ重さだといいますし、良い練習になるでしょう」
「ありがとう!」
僕はランダさんにお礼を言って、鉄矢を持ち弓を構えた。うん、重い。そのまま放つと、的に当たらずぱたりと落ちた。
やり直し。弓を引き絞り、矢を放つ。外れ。もう一度やり直し。
僕は10本位外し、やっと的に掠らせる事が出来るようになってきた。
そして、また10本を使い、精度を上げていく。
空が茜色に染まる頃、僕はやっと的の中心に当てることが出来るようになってきた。
弓を引き絞り、放つ。命中。次の矢を引き絞り、狙いを定め、放つ。命中。
だいぶ鉄矢にも慣れたのではないだろうか。
20本中16発命中。4本ハズレ。
それにしても、鉄矢は普通の羽の矢に比べて攻撃力が高い。
修練場の矢の的が、ボロボロだ。
どうしたものかと見上げていると、ランダさんが近付いてきた。
「よく練習なさいましたね。さすがベンさんの息子だ。筋が良い。もう鉄矢を使いこなすとは思ってもみませんでしたよ」
「えへへ」
僕は照れてしまった。父さんの場合、打つと必ず当たるし、全部の矢を的に当てられない僕は、あまり褒めて貰ったことがない。ランダさんに褒められて、僕はニコニコと笑顔になった。
「この的は新しい的に変えときます。坊ちゃん、旅に鉄矢も持って行って下せぇ。差し上げます。それで、きっと無事に帰ってきて下さい」
「うん、僕頑張るよ。それで、きっと無事で帰ってくる。ありがとう、ランダさん」
ランダさんが頭を下げてくれたので、僕も頭を下げた。無事を祈ってくれる人がいる。それは、僕の胸に勇気を灯した。
旅立ちの日は、近付いている。
後何日、こうしていられるだろう。
僕は鉄矢をしっかりマジックバッグに収め、晩餐の為に本邸へ足を踏み入れた。
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