王立学園へ進学希望
今日はお客様が来るらしい。
先日お伺いした、ハイド男爵の嫡男と娘のご令嬢がふたりで来るらしい。
警護の騎士や使用人もいるけれど、そこまで村長宅は大きくない。
だいたいは野宿で済ますのだそうだ。
今回視察目的だけれど、スキル【ネットスーパー】で増えたレシピが大繁盛しているのを知って、食堂を中心に見たいとのことだった。
「ニラさん達はいつも通り仕事をして貰ってる。カッスィーもお行儀良くするんだぞ」
「はい、父さん」
「じゃあ、家の前で出迎えましょう」
家の前で待っていると馬車が止まった。
中から出て来たのは、緑の長髪に眼鏡をかけた美丈夫と、同じく緑髪の令嬢だった。
「ようこそおいでくださいました、ティティー村の村長ベンです」
「家内のフアラです。どうぞ中へ」
「ハイド男爵家嫡男カッペラードです。こっちは妹のミクシーヌ。よろしく頼みます」
「ミクシーヌ・ハイドです。よろしく。あなたが例のスキル【ネットスーパー】の持ち主かしら?」
「はい。僕はカッスィーといいます」
「ミクシーヌ、玄関先で失礼だよ。すまないね、カッスィー君。ミクシーヌはスイーツに目がなくて今回無理に視察に同行したんだ」
「わかりました。お茶の準備をしてきます」
皆で家の中に入ると、応接室でお茶をする事になった。
「それで、新しいスイーツのレシピはありますの?」
「ミクシーヌ……」
「なによお兄様、しっかり対価は支払いますわ。わたくし、暴君ではありませんのよ」
「ではいくつかありますので、まずは賞味して頂きましょう」
ミラノさんが各種スイーツを並べてくれる。
「右手から、丸いものがどら焼き。中に粒あんが入っています。真ん中の四角いものが羊羹。こちらはこしあんを使用しています。次に左手側のものはみかんゼリーです」
「香ばしい生地に粒あんが入ったもの。これは食感が楽しいわね。次になめらかなこしあんのもの。甘さが丁度いいわ。次に見た目が涼やかで綺麗なもの。みかんの食感も瑞々しくて良いわ。どれも美味しいですわ。特にみかんゼリーが気に入ったわ」
「恐縮です」
「私はどら焼きが気に入ったよ。香ばしく、もちもちした食感のパンで挟んだお菓子は今のところ知らないからね。新しくて良い。しかも小豆、という豆を煮て作った粒あんとこしあんがとても良いね。甘くて美味しい。もちろん、どれも美味しいから全てレシピは買わせて欲しい」
「かしこまりました」
「明日は食堂の視察だけれど、一番人気は唐揚げ定食なんだって?」
「はい。明日は食堂で昼食をとれるようにしてありますので」
「ありがたいね。うちはまだカレーライスでいっぱいいっぱいだけど、先が楽しみだね」
「そう言えば、この緑茶は如何ですかな」
「ああ、紅茶と違って独特の風味があるね。美味しかったし、どら焼きに合うね。交易品に入れてくれるかな」
「かしこまりました」
「ところでカッスィー君、何か珍しいものはないかな?」
「ご用意してあります。チョコレートというスイーツです」
ミラノさんが持ってきてくれる。
板状のもの、ナッツをチョコでくるんだもの、ビスケットと一体化したもの。
「色は良くないけれど、いい匂いがしますわね……。っ、甘いわ、お兄様」
「このナッツのチョコは騎士団で重宝されそうだな」
板状のものを湯煎で溶かせば様々なスイーツに流用可能であると説明すると、ミクシーヌ様が涙を流さんばかりに興奮なさっていた。
「こちらは紅茶もよく合います」
「本当だね。とても美味しいし、見たことのないスイーツだ。良いセレクトだった。これらも勿論買わせて貰うよ」
「ありがとうございます」
チョコレートをひとしきり味わったお二人は、食後のお茶を飲んでカッスィーに向き直った。
「ところで聞きたいんだが……、王立学園へ進学希望かね?」
「はい。それで、スキル【ネットスーパー】の実績を積んでるところです」
「カレーの納品もそうだけど、チョコレートの納品も数が多くなるだろう。実績は十分だ。ティティー村からはスキル【鑑定】のテッサとスキル【ネットスーパー】のカッスィーでいいな?」
「はい。よろしくお願いします」
「それにしても、これらのレシピの元は、カッスィーのスキル【ネットスーパー】で出てきた食品だと聞いている。間違いないかい?」
「はい。どれもスキル【ネットスーパー】で購入し、それをうちの料理人のミラノさんが再現しました」
「これからもレシピは増えそうかな?」
「はい。まだまだ色んな食べ物がスキル【ネットスーパー】の中で売られているのですが、まだ一部しか確認出来ていません」
「それは楽しみだね。虚空から物を出すと聞いたが、まるでスキル【物々交換】のようだね。宝石を対価に出来るのかい?」
この質問はありがたかった。虚空から物を出すスキルとして有名なのはスキル【物々交換】で、他にはないという噂だからだ。
はじめは父さんと母さんも宝石を用意しようとした位だもの。間違われても仕方ないよね。
「僕のスキル【ネットスーパー】は、お金でないと使用することが出来ません。宝石を入れようとしてみましたが、入りませんでした」
「そうなんだね。一応ベンさんに聞いてはいたんだが、半信半疑でね。一度目の前で購入してみてくれるかい?」
「わかりました。ナッツのチョコでいいでしょうか。銅貨5枚です」
「はい。これでいいかな」
「受け取りました。いまここにスキルウィンドウが開いています。それでここの部分が光っていて、ここにお金を入れます」
カッペラード様とミクシーヌ様は静観している。
「ここでチョコを選んで、こうして購入します。すると虚空から商品が出て来ます」
「おお、まるでスキル【物々交換】のようだね」
「本当ですわね。こんなふうに物が出て来るスキルなんて他で聞いたことがないわ」
「やっぱり、そうなんですね……」
僕はちょっと落ちこんだ。知名度NO.1のスキル【物々交換】と似ているのは光栄な話だけれど、間違われてはたまらない。
「ただ、スキル【物々交換】はほぼ食べられないものばかりだったと聞いている。スキル【ネットスーパー】は美味なる食品を出せるだろう? そこで差別化を図るしかないだろうね」
「差別化ですか……」
「まだ未来の話だよ。王立学園に入った後の話だ。今は将来の為にも、1つでも多くのレシピをうちに売って欲しいと思っているよ」
「チョコレートみたいに美味しい食べ物があったら、食品も買うから教えなさいよね」
「わかりました。今はまだ勉強中ですが、美味しいものがあったら連絡します。あとはテッサにも聞いた方が良いかと思います」
「ああ、鑑定師見習いとして働いているんだってね。わかったよ。カッスィーと二人で相談してくれ」
「はい、わかりました」
「何はともあれ優秀なスキルだ。そのように顔を暗くすることはないんだよ。君はスキル【弓術】を希望していたと聞いているが、スキル【ネットスーパー】も素晴らしいスキルだ。ご両親も誇らしげにしていたよ。顔を上げなさい」
僕は偉い人にここまで褒められて、ただただ恐縮してしまったけれど、劣等感はだいぶ払拭されたように思う。
スキル【弓術】を授かる事が出来なくて、村の防衛の力になることが出来ない。夢見た状況とは随分と異なる。
出て来るものは未知のものでガラクタばかり。そんなどうしようもない状態に光が差したのはテッサのアドバイスがあったからだった。
そこでお弁当を出せるようになり、材料を出してミラノさんが再現できるようになった。
今ではその繰り返しでレシピや食材を交易で売る事が出来るようになった。
これは落ち込むのではなく、胸を張って良い結果の筈だった。
スキル【物々交換】と間違われまくるのは仕方ないとして、これからも中にある商品の勉強を頑張ろうと決意を新たにする僕だった。
お読みいただき、ありがとうございました。
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