ダンジョン、再び
お店を出て、宿屋へ向かう。
行く先は、アグニさんに教えて貰った宿屋だ。
たどり着き、中へ入る。
「6名だが、空いてるか?」
「3部屋で良いかい。じゃあ、上に上がっとくれ。夕食付きで一人銀貨4枚だよ」
お会計を済ませ、二階へ上がる。
壁はベージュ系で、カーテンは落ち着いた緑色だった。
僕と相部屋はガイだ。
「あー、クラーケンうまかった。カッスィー、クラーケンの仕入れは多めにしようぜ」
「1匹丸ごと仕入れるつもりだけど、足りないかな?」
僕は1匹が大人一人分位大きいことを身振り手振りで伝えたが、ガイの表情は晴れない。
「丸ごと2匹でいいんじゃね? 余ったら食堂で買い取って格安販売するよ」
「なるほど。そう言う事も出来るんだね。じゃあ、丸ごと2匹仕入れちゃおうかな」
僕がそう言うと、ガイはニコニコと笑って頷いてくれた。
今日はダンジョンに行かないので、時間がある。
おやつ時になり、小腹もすいてきたので、屋台めぐりをしようと提案する。
ガイはすぐに了承し、ルビア達の了承も取り付けて来てくれた。
「俺は後ろからついて行くから、好きに動いていいぞ。先頭はガイか?」
「おう!」
ガイは元気一杯に返事をして、歩き出した。
それに皆でついて行く。
まず初めに止まったのは、肉串の屋台だ。
タレの香ばしい匂いがたまらない。肉はダンジョン産の猪で、1本銅貨5枚を支払った。
焼き立てアツアツを頬張ると、肉の油と旨味がタレと一緒に口の中一杯に広がる。文句なく美味しかった。
次に止まったのは、サンドイッチの屋台だ。
丸く焼いたパンに、野菜と水蜥蜴の尾の肉をサンドしているらしい。
値段は銅貨5枚、水蜥蜴は強そうだが安値である。
これはガイとイクト、エドさんが買って食べてみた。
肉は細かく叩かれており、柔らかい。
肉の味はクセがなく、あっさりしているらしい。
鶏肉のハンバーグみたいな味だろうか。
食べ終わり、次の屋台へ行く。
次の屋台は、キラービーの蜂蜜を使ったクレープだ。銅貨5枚を支払い、クレープを受け取る。
バターの塩味と蜂蜜が合っていて、とても美味しかった。
次はルビアの希望で、デザート探しだ。
屋台は色々あるけれど、デザートはなかなか見つからない。
これはどうかな、と思ったものは、キラービーの蜂蜜に漬けた蛙の目玉だったり、馬の尾だったりした。料理に使うと美味とのことである。
少し外れた所で売っていたナッツの焼き菓子を買って、パリパリと食べる。これは10枚で銅貨5枚でお買い得だった。ルビアも嬉しそうに食べていたよ。
次は僕の希望で、蛙料理。串焼きもあるし、煮込み料理も、サンドイッチもある。
僕は火蛙の煮込みを買ってみた。一杯銅貨5枚。具は少なめである。
フォークで割ってみると、まず、柔らかい。そこそこの弾力はあるが、噛むとスパイスの効いた身が解けて、口の中いっぱいに旨味が広がる。なるほど、身は淡白な味なのだろう。たっぷりのスパイスを揉み込んで揚げたものを煮ているという。濃い味付けが丁度良く淡白な火蛙と調和していた。
次は、エドさんの希望で、ミノタウロスの串焼きだ。これは全員食べたがった。お値段なんと銀貨2枚。屋台にしてはお高い値段である。
会計を済ませ、肉が焼けるのを待つ。
何とも美味しそうな匂いがしてくる。焼きあがったものはボリュームたっぷりで、脂身がじゅうじゅうとこぼれ落ちていた。
「美味しい!」
みんなの心は一つだった。かぶりつくと、脂身たっぷりの赤身肉が口に入る。あまり噛まずとも蕩けていくお肉だが脂っこいことはなく、すっきりとした脂だ。ガツンとした肉の旨味に脂身の美味しさが加わり、えもいわれぬ美味しさだった。
あっと言う間に食べきり、そろそろ宿屋へ戻る。
宿屋は中央街から左、一本奥に入ったところである。
部屋に戻り、一息つく。
僕は皆に紅茶を配って、食後のお茶を楽しんだ。
一時間ほどして、夕飯の時間である。
食堂へ行き、皆で席に着く。
運ばれてきた今夜のメニューは、ミノタウロスの煮込みだった。
肉はほろりと柔らかくジューシーで脂身たっぷりなのに、ちっともしつこくない。
人参、じゃがいも、インゲン豆と一緒に煮込まれたお肉は煮汁がとっても美味しくて、パンを浸して食べた。
デザートは、宿屋特製チーズタルトだ。
オーブンで焼きたてのチーズタルトはアツアツで、チーズが伸びてとても美味しそうだ。
一口食べると、チーズの力強い旨味がガツンと来て、とろりと濃厚なケーキの旨さが味わい深く、ぱくぱくと食べてしまった。
「明日は8時に朝食を頼んであるから各部屋で摂るように。休憩を挟んで、9時に出発する。宿屋の前で集合する。いいな。それじゃあ解散しよう」
僕達はエドさんの号令で解散し、部屋に戻った。
部屋に戻った後は、湯を貰い、固く絞った布巾で軽く体を拭き、歯ブラシをして就寝した。
翌朝、朝食を済ませ、9時に宿屋前に集合する。
「皆、揃っているな。では、ダンジョンに向かう。俺が先導するからついて来い。殿はイクトだ」
「はい」
イクトが返事をすると、エドさんが進み出した。そこにガイ、僕、ルビア、テッサ、イクトの順だ。
暫く歩くと、洞窟のような場所についた。
入り口で入場料を支払い、ドッグタグを見せる。あっさりと中に入れた。
地下への階段を歩いていく。
あたりはぽつぽつと灯りがついており、そこそこ明るい。
地下1Fに出てくるのは、血吸い蝙蝠である。
パタパタと近寄って来るのを弓でいなし、火魔法で焼く。
ガイとテッサは落ちてきたものを仕留めているが、イクトは違った。
パタパタと襲い来る血吸い蝙蝠に対し、するりと剣を抜き、一閃。ぱたりと真っ二つになった血吸い蝙蝠が落ちる。
無駄な動きがないのだ。剣を抜くと獲物が落ちている。
それを二度、三度と繰り返し、ガイが感嘆の声を上げた。
「すっげぇ、イクトってめちゃ強いんだな」
「無駄な動きがないよな。俺と大違い」
「これなら、4F行けるんじゃない?」
「俺のスキルは【鍛冶職人】だが、鍛冶職人にならないのなら剣士になれと、父には言われている」
「やっぱり、凄いんだな」
「イクト、思ってたより良い戦力だな。じゃあお前達、4Fまで突っ切って行くから、ついて来いよ」
僕達はエドさんについて、地下2Fにたどり着いた。
ここには、骨の魔物、ボーンアンデッドが出る。
ボーンアンデッドはこちらに気付くと、ボロボロの剣を振りながら近付いてくる。
それをガイが受け止め、打撃を与える。
すると、バラバラと崩れていく。
次から次へと戦っているが、イクトは相変わらず一閃で仕留めている。骨の魔物なのにどこを狙っているのか、と聞くと、魔石のある場所だという。
一度真似して剣を突き刺してみたが、絶命しなかったので、真似するのをやめた。
イクトの殲滅力が高いので、自然とスピードが上がる。あっと言う間に地下3Fだ。
そこは、開けた山のような場所だった。
ここには砂の魔物、サンドゴーレムがいる。
ここの魔物も、イクトは一閃して倒していた。
最早、心強い味方である。
「あらよっ! 次、2体!」
「右から来てる! ファイヤーアロー!」
「よし、倒した。次は?」
そこそこ敵がいるため、ある程度殲滅してから休憩となった。
皆でゼリー飲料を飲み、一息つく。
この階はセーフティエリアがないので注意が必要だ。
すぐに戦闘体制に戻り、4Fを目指す。
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