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激励

さて、一週間が過ぎ、テッサとキャロ師匠のお茶会の日がやってきた。


馬車を出す為、村長宅に集まった二人。

キャロ師匠は、水色のロングヘアに、オレンジ色の瞳。魔術師のローブにとんがり帽子を被っている。

ドレスは仕立てて貰ったものをマジックバッグに入れてある為、向こうで着替えるそうだ。


そしてテッサ。栗色のショートカットに、青い瞳。そして、トレードマークの灰色のツナギだ。

テッサはドレスが用意されている為、到着後、着替えるそうだ。


護衛は、いつもの"緋色の鐘"の皆さんである。


リーダーのアグニさんの号令で二人は馬車に乗り込み、出発した。


「何かお土産貰ってくるよ」


「うん。いってらっしゃい」


僕とテッサはそれだけ言葉を交わし、別れた。


一度自室に戻り、弓を手に取る。


家の裏手に回って、お昼まで弓を引いた。

取りこぼしは20本中2本で、精度が上がってきている。

僕の旅に戦闘があるのかわからないが、冒険者登録をしたのだ。準備して置いて困ることはないだろう。


師匠の到着まで予定ではあと3週間だ。

旅立つ前に皆でもう一回集まりたいな。


お昼の時間になり、食堂へ行く。

今日のメニューは、ナポリタンだった。


具材はピーマンとベーコン、そしてソーセージ。

粉チーズをたくさんかけて食べる。とても贅沢だ。

ソーセージは噛むとじゅわっと弾けてとても美味しかった。


デザートは、アイスクリーム。

新鮮な苺を混ぜた苺アイスと、ナッツが混ざったチョコナッツアイス。

苺アイスはさっぱりしていて、チョコナッツアイスは濃厚でとても美味しかった。


食後のお茶に紅茶を淹れて貰い、ゆっくりと飲む。


異世界市場用の魔導アイスクリームメーカーの発注は滞りなく済んだ。

しかし、ティアージア公爵家から多量の魔導アイスクリームメーカーの発注があった為、今は、冒険者ギルドに依頼して、氷魔石の付与が完了するのを待っている状態だ。

ミスリルも僕がガチャで出した分では到底足りず、エドさんに頼んで買ってきて貰っている。


問い合わせがあり、もっと大容量の魔導アイスクリームメーカーが作れないかと聞かれたが、魔石が大量に必要で、燃費はもっと悪くなるのだという。


そのため、魔導アイスクリームメーカーは4000リットル限定販売である。


教会に向かい、勉強をする。

今日は、おじいちゃん先生に激励を受けた。


「カッスィー。教会のカミーラ司祭と旅に出るそうだな。商人になりたいんだって?」


「うん。そうなんだ。丁稚としてついていって、勉強してくる。僕は荷物持ち係だって聞いてるよ」


「そうかい。カミーラ司祭は立派な人だよ。教会の仕入れ担当としても有名な人だ。荷物持ち係、しっかりやるんだよ」


「うん!」


元気いっぱいに返事をして、頭を撫でて貰った。


おやつの時間になり、家に戻る。


食堂へ行き、席に着くとミラノさんがドーナッツを配膳してくれた。

チョコレートでコーティングされたドーナッツはとろけるような甘さで、とても美味しかった。


自室に戻り、暫し寛ぐ。

マジックバッグの中のお茶、ログインボーナスで出た分を整頓していると、馬のいななきが聞こえた。


玄関に出ると、朝とおなじ格好のキャロ師匠とテッサが馬車から降りてくるところだった。


護衛の"緋色の鐘"にキャロ師匠がサインをし、解散となった。


「お茶会、楽しかった?」


「まあまあかな。ドレスは綺麗だったぜ。でも俺みたいな話し方じゃ浮いちまうな。でも今日は師匠の歓迎会だから、ずっとニコニコ笑ってやり過ごしてたよ。後これ、土産のマカロンなんだ。ミラノさんに食べて貰って、今度作って貰おうぜ」


そう言ってテッサが手荷物の綺麗な箱を掲げたので、厨房の控え室まで一緒に歩いた。


ミラノさんを呼び、マカロンを食べて貰う。

その横で、テッサとふたり、お土産のマカロンを楽しんだ。


「色とりどりで味も良い。壊れやすいのが難点だが、これは良点なんだろうな。繊細な良い菓子だ。ありがとうな、テッサ」


「いつもうまい料理を、ありがとうミラノさん。今日はドレスだったからさ、昼飯が出たけど食べた気がしなかったよ」


「そうか。今夜は焼き鳥なんだが、ちょっと食べていくか? クラーケンの塩焼きもあるぞ」


「食べる! 昨夜の煮込みも家族と師匠に大好評だったぜ。特にイクト兄ちゃんがお代わりして食べてすぐなくなっちまったんだ。ダンジョン素材って特別うまいよな」


「坊ちゃんもここで食べますかい?」


「うん」


僕がそう言うと、ミラノさんは二人分の焼き鳥を焼いてきてくれた。

鶏肉はタレ、クラーケンは塩味だ。


鶏肉は弾力があり、タレの甘辛い味がとても美味しかった。

クラーケンの塩焼きは、思わず、


「美味しい。すっごく甘い」


と言ってしまう程美味しくて、香ばしい香りと、ジューシーないかは忘れられない味わいだった。


「鳥もうまいけど、クラーケンはそれだけでご馳走だな」


ご飯とお味噌汁も食べ終えて、僕達は食後のお茶を頂いていた。


「本当だね。次に帰ってくるときは絶対、クラーケンを仕入れてくるから」


「期待して待ってるよ」


テッサは笑顔でそう言ってくれた。


今日のデザートは、みかんゼリー。

新鮮なみかんを封じ込めたゼリーは瑞々しくて、とっても美味しかった。


食事が終わり、解散する。


「じゃあ、気をつけて」


「ああ、またな」


テッサを見送り、星空を眺める。

明日も晴れだろう、そうあたりをつけて、部屋に戻った。



翌日、キャロ師匠に呼ばれて、僕はテッサの家に赴いていた。


「昨日、氷魔石を買ってきたの。とりあえず、異世界市場の分、魔導アイスクリームメーカーを納品するわね。マジックバッグに入れて頂戴」


「わかりました。魔導アイスクリームメーカーって、何か名前、付けないんですか?」


「そうね。商品名は、アイスクリンよ。商品にも刻んでおくわね。それとティアージア公爵家の発注分が6台出来たんだけど、マジックバッグに入る?」


「うーん。ちょっと入りきらないですね」


「じゃあ、カーミラ師匠に入れて貰うか、人足を雇う必要があるわね。じゃあこっちで預かっておくわ」


「うん。お願いします」


キャロ師匠は、数台のアイスクリンをマジックバッグに収めると、僕に向き直ってきた。


「カッスィー君って、ノリベンが出せるのに、転生者じゃないんだって?」


「はい、違います」


「ノリベンを凄く食べたがってた転生者を知ってるのよ。今どうしてるかわからないけど、かつお節と昆布を欲しがっていたわね。それもカッスィー君のスキル【ネットスーパー】なら、買えるの?」


「買えます」


「へぇ。凄いじゃない。君のスキル【ネットスーパー】で買える品物を、喉から手が出るほど欲しがっている人がいるの。これから大変ね……って、だから商会を作ったのね。異世界市場、異世界のものを売る商会としては良い名前ね。悪目立ちするけど、そこはカミーラ司祭が何とかするでしょう」


「悪目立ちするって、カミーラ師匠も言ってました。どうしてですか?」


「まず、異世界って言葉は転生者が使うの。この世界に転生者はいっぱいいて、きっと異世界市場は目に付くわ。扱っている品物が彼等の望む物ばかりなんだもの。だから、異世界市場ばかり重宝される状態になるってわけ」


「なるほど。競合しない商材の為……他の商人達より浮いてしまうというわけですね」


「そういう事ね。でもカミーラ司祭がいるんだし、問題はないはずよ。むしろ、応援してるわ。ノリベンみたく、異世界食材を求めてる子って結構いるから。頑張ってね」


「はい。頑張ります」


実際、会ったことのない転生者という存在の為に何が出来るかわからない。

だけど、お弁当を出したり、商品を売ったりする事なら出来る。

出来ることはやろうと、胸に刻んだ。


「それにしても、この村って転生者がいないのに、転生者の夢みたいな場所ね。食堂へ行って驚いたわ。カラアゲ、カレー、カツドン。転生者から聞いていた料理がずらっと並んでるんだもの。しかも味はとっても良いしね。デザートに珈琲とチョコレートパフェを頂いたけど、格別な味わいだったわ。転生者を呼んだら大喜び間違いなしね」


「珈琲とチョコレートは、転生者の好物だと聞いています。ただ、転生者の為じゃなくて、僕のスキル【ネットスーパー】で出せるお弁当を再現していくうちにこうなっただけで、転生者は関係ないんですよね……」


「あら、そうなの。ま、そうよね。転生者の接待をするには遠すぎるし、王都まではティティー村の噂も届かないわ。ここに来る途中、ルカート町ではティティー村は美味しいものがいっぱいだって噂が立ってたわよ」


「そうなんですね。美味しい村として有名になれたら嬉しいです。キャロ師匠は、この村の料理は、口に合いますか?」


「そうねぇ。テッサの家でも、カラアゲとオムライスを頂いたの。そりゃあもう、とっても美味しかったわ。転生者に申し訳ない程口に合うの。文句なしね」


この村はお米の味に慣れている。パンに比べて味の薄いご飯を、初めは不満に思ったっけ。

そのあたりを聞いてみると、納得しつつも、私は大丈夫よ、と言ってくれた。


「職業柄、色んな場所に行ったことがあるの。だから、色んな食事にも慣れているのよ。小さな村じゃ、分けてもらえるのは固いパンがせいぜい。だからという訳じゃないけど、この村は豊かよね。みんなデザートもしっかり食べてるじゃない。私も甘いものは好きよ」


「もうすぐ春だから、美味しいメニューがもっと増えると思う。楽しみにしてて。うちの村は、食いしん坊なんだ。労働をして、しっかり食べる習慣がついてる。僕はそんなティティー村が大好きだよ」


そうね、と頷きをひとつ。

キャロ師匠は長い水色の髪を払い、僕へ向き直った。


「アイスクリンの納品は済んだし、解散しましょうか。カッスィー、旅支度は済んだの?」


「カミーラ師匠が用意してくれるって聞いてるんだ。僕の方では、特に何もしてないよ。村の皆に、挨拶をしている位かな」


「そう。気をつけて行ってらっしゃいね。餞別にこれをあげるわ。風火水土の魔石よ。売っても良いし、使っても良い。頑張ってね」


僕はお礼を言って、各属性の魔石を受け取った。

火は赤く、水は水色に、風は緑、土は茶色い色をしている。

頑張ってね、と背中をパン、と叩かれてキャロ師匠の激励を受けた僕は、テッサとヤッコムさんとエルゥさんに挨拶をして、家に帰った。


お読みいただき、ありがとうございました。


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