カーリエの恋
テッサと二人、ミラノさんの後ろをついて行く。
僕らの座席は、真ん中の最前列だった。
とても良い席で、ミラノさんもびっくりしていた。
僕とテッサは、決められた座席にちょこんと座り、ミラノさんとお行儀良くする事を約束した。
さて、開演である。
ざわざわしていたのがしんと静まり、幕が開いていく。
ジャジャーン。
音楽が鳴り、王子様の登場だ。
客席からも、黄色い声援が聞こえる。
僕はある国の王子
決められた婚約者はいるけれど
恋をしてみたい 恋を探してる
それは、君かい?
どうやら王子様は恋をしたいようだ。
朗々と歌い上げ、色んな女性に声をかけては、落ち込んでいる。
恋人が見つからないらしい。
そこに真っ赤なドレスを着た銀髪の女性がやってくる。
私はあなたの婚約者
どうして他の子に声をかけるの?
ルーカス、あなたの恋の相手はこの私、フローラよ
わかっているんだ
君は私の婚約者 フローラ
でも 恋の相手は君じゃない
探しているんだ
私の恋の相手 君を
王子様とフローラがダンスを踊る。
くるくる回り、とても優雅だ。
しかし、王子様は一人、輪から外れてしまう。
わかっています
あなたは手の届かない人
フローラ様には秘密です
実は……、
ルーカス様、あなたに恋しているんです
ここでカーリエが登場。
こっそり恋文を書いている所をフローラに見つかり、叱責されてしまう。
それを見咎めたのがルーカスだ。
「そこで何をしている?!」
「「ルーカス様」」
「君は……サフラン家のご令嬢だね。名はなんと言ったかな?」
「カーリエと、申します……」
ああ 私は出会ってしまった
この胸のときめき
もう隠しきれない
君に恋をしている
カーリエ 私の愛しい人
王子様は恋する人を見つけて大変嬉しそうである。
今度はカーリエとダンスを踊る。
薄桃色のドレスのカーリエと、白いタキシードの王子様。
カーリエは頬を朱に染めて、初々しくも可愛らしい。
王子様が恋をして、色んな所でドレスの花が咲く。
舞台の端っこまで使って群舞と共にめいっぱいダンス。
これで一件落着に見えたが……。
でも、婚約者がいたよね?
フローラが真っ黒なドレスで登場。
冬の女神に抱かれて
ルーカス様、私気付いてしまいましたの
あなたがカーリエに恋してるって
ええ 許せませんわ
あんな女、死んでしまえばいい!
真っ青なアイシャドウと真っ赤な口紅。
冬の魔女と化したフローラがカーリエに迫る!
ドガーンと音が鳴り、薄桃色のドレスを着たカーリエが倒れる。美しい金髪が乱れ、口から血を流してしまう。
「私は、毒を盛られた! もう助からないだろうから最後に言うわ。ルーカス様、愛しています」
倒れたカーリエに気付き、必死に駆け寄る王子様。その青い瞳は涙に濡れている。
「解毒薬を持って来た! これで君は助かるはず。私のせいだ。私はもう君に近付かないよ。ごめんね。愛しているよ」
カーリエに口付けをするルーカス。解毒薬を飲ませていく。
命が助かったカーリエと抱擁し、一時の幸せを噛みしめる王子様。
君の命 何よりかけがえのないもの
私の恋を諦めよう
フローラを止めるにはそれしかない
私の事は忘れてくれ
君は私の春の女神 守りたいんだ
いいえ ルーカス様
誰より愛しいあなたへ
私はあなたを忘れません
この恋を 諦められない
たとえ 冬の女神に叱られたとしても……
舞台の上は真っ黒なドレスのフローラと、薄紅色のドレスのカーリエが対立。
二人は恋の歌をそれぞれ歌い上げ、王子様への愛を綴っていく。
ざわざわと、群舞が扇子をはためかせる。
不穏な音楽が劇場内に響き渡り、フローラ登場。
「あら、助かってしまったのね。いいわ、次こそ必ず殺してあげる」
「フローラ、私はここだ! 君はどうしてそんなに酷い事をするんだい? 何も不安な事などない。私は君のものだよ」
「ようやく私のものになったのね、ルーカス。私の王子様」
フローラとルーカスは仲直りをしたように見えたが、しかし。
一緒にダンスをしても、輪から外れてしまうルーカス。フローラを好きなふりをするのは苦痛のようだ。
あれからカーリエに会っていない
元気にしているだろうか
寒い夜に凍えてはいないだろうか
君に手を出したフローラを、どうしても許せない
許せないんだ!
ガラガラピシャーン
大きな音が鳴って、王子様はフローラに斬りかかってしまった。
「うわぁ。婚約者を殺しちゃったよ」
「それだけカーリエが好きなんだろう」
僕らは小声で話し合った。ミラノさんの視線が痛い。大丈夫、静かにしてます!
ふと隣を見れば、栗色の髪を腰まで伸ばし、青色のワンピースドレスを着たテッサがいる。スカートはフワフワしていて、頭に乗せた小さな青い帽子が良く似合っていた。
表情を窺えば、頬は朱に染まり、青い目は期待に煌めいている。
エンジがいた頃、ワンピースを着せられるとむくれて喋らなくなっていたっけ。
今日のテッサはまごうことなく女の子の格好だが、不機嫌さは見当たらない。
むしろ、上機嫌だ。
僕はエスコート役として胸を張ることが出来た。
えっへん。
劇は進み、フローラを始末した王子様は大騒ぎとなった王宮を抜け出し、嬉々としてカーリエに会いに行った。
私の春の女神 カーリエ
会いたかった
私達を阻むものは何もない
どうか婚約者になってくれ
愛しているんだ
そこに美しい黄色のドレスを着たカーリエ登場。
私の王子様 ルーカス
私も会いたかったわ
また会えて嬉しい
なんて恐ろしい事をしたの
でも私 あなたの婚約者になるわ
私の恋 諦められない
カーリエはルーカスの婚約者となった。
薔薇の花が咲くように、歌いながら全員でダンス。
王子様とカーリエは結婚し、幸せに暮らした。
私達 幸せね
ああ カーリエ 私の愛しい人
私の恋 諦めなくて良かった
私の恋 私は一度、諦めた
でも 私達は愛し合ってしまったの
出会えて良かった
カーリエと王子様は最後デュエットで歌って二人で幸せそうに踊った。
ここで幕が下りた。
万雷の拍手と共にふう、と息を吐く。
すごい迫力だった。
特にフローラに斬りかかる王子様は凄い気迫だった。
僕がそう言うと、ミラノさんが頷いてくれた。
「ああ。凄かったな。俺はフローラの無念そうな冬の女神の歌が良かった」
「俺はカーリエの諦めたくないって気持ちがすげぇ胸に来た。フローラと対立したとこの恋の歌が良かった。面白かったよ」
「僕は王子様がカーリエと、幸せそうに踊ってる姿が格好良かったな。幸せを掴み取ったんだね。面白かったよ。じゃあ、帰ろうか」
僕らは馬車に乗り込み、タウンハウスまで帰ってきた。
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