納品とクラーケン
ハイド男爵家の納品が終わった頃、アフガンズ家のシェリー様と喫茶店ツバキについて話し合う事になった。
「ふむふむ。飲み物は緑茶を増やすのね。他のメニューも、絵が書いてあってわかりやすいわ。これは真似しましょう。良いわね、テリア」
「かしこまりました。絵師に依頼致します」
「デザートもいっぱいあるし、良いわね。それと魔導アイスクリームメーカーの導入で、アイスクリームのメニューを出せるようになったのは良かったわね。メニューに、シェリースペシャルで、アイスクリーム5段盛りを追加して頂戴」
「かしこまりました」
「それと、テリアはないの? テリアスペシャルはなぁに?」
「キラービーの蜂蜜を小瓶1個分、ホットケーキにかけさせて下さい。それがテリアスペシャルです」
「まぁ。甘そうね。でも美味しそう。じゃあそれを追加して完成ね。テッサは、報酬を受け取って頂戴。後はテッサスペシャルを飲みながら、魔導アイスクリームメーカーのアイスクリームの味見をしましょう」
ミラノさんがアイスの配膳をしてくれる。
シェリー様は当然の事ながら5段盛りだ。
「うん、美味しい」
「うまい」
「美味しいわ。自分でアイスクリームが作れるなんて、夢みたいよ」
「私はこのテッサスペシャルが美味しいですね。転生者の間ではカフェオレと呼ぶそうです」
「じゃあ、大きめの絵を書いて貰いましょう。ミルクが入っているのを分かるようにね」
「かしこまりました」
トントン
ノックをして入って来たのは、喫茶店ツバキ、ルカート支店の店長、パヤさんだった。
「パヤでございます。お呼びでございますか」
「メニューが出来たわ。だいたいはこの冊子の通りよ。見てみて頂戴」
「失礼いたします。このホットチョコレートという飲み物を、パヤスペシャルにして宜しいですか」
「パヤはチョコが好きだものね。良い考えだわ」
シェリー様は頷いて了承した。
「では次に、メニューのレシピの伝授ですが、料理人二名、用意してございます。ミラノ様、お願い出来ますでしょうか」
「ああ。任せてくれ」
「メニューの伝授が終わりまたら、ほどなくして開店出来る見込みです。定員の衣装も仕上がって参りましたが、ご覧になられますか?」
「見るわ。歌劇団とは言わないけど、それなりに豪華になった?」
パヤさんの合図で、3人の女性が応接間に入ってくる。
いずれも煌びやかな濃紺のメイド服を着用しており、頭にはヘッドドレスを着用している。
装飾の合間はきらきらと光り、ほとんどドレスのようだと思う。とても豪華だ。こういうのが、歌劇の衣装なんだろうか?
「濃紺は地味かしら」
「いいえ、差し色に黄色をはじめとするパステルカラーを使っており、十二分に華やかです。装飾もほぼ全身に付いておりますし、細かい刺繍も美しく、大変豪華な出来映えかと存じます。これ以上装飾を付けますと重くなりますし、動きづらくなります」
「カッスィーとテッサはどう思う?」
「きらきらして綺麗」
「すげえ可愛いメイド服。結婚式に着る一張羅みたい。仕立てもいいし、目を引くと思う」
「じゃあ、これでいいわ。下がって頂戴。パヤは他に何かある?」
「店で売るショコラやクッキーの持ち帰り用のコーナーも作って宜しいでしょうか。購買が見込めます」
「いいわ。アイスクリームも持ち帰れるようにして頂戴」
「かしこまりました。では失礼いたします」
パヤさんが退室し、ミラノさんは厨房へ向かった。
「カッスィー。カッスィースペシャルも飲んでみた?」
「はい。ココアですね。甘くて美味しかったです」
「来週プレオープンなんだけど、子供が来るのよ。飲み物を確保しとかないとね」
「頑張って下さい。僕はオーナーとして、後何かすることはありますか?」
「じゃあ、この書類にサインを貰える? 喫茶店ツバキの給金は月に金貨3枚と、純売上の1割がカッスィーの取り分よ」
「わかりました」
僕は羽ペンでサインをした。
「じゃあ、そろそろ夕飯の時間だから、食堂へ移動しましょうか」
シェリー様の言葉に僕らは頷き、食堂へ移動した。
食堂へ行くと、全員揃っていた。
上座に、ハイド男爵、カッペラード様、シェリー様。
こちら側に、僕とテッサ。
「では、晩餐を始めよう」
ハイド男爵の合図で、料理が運ばれて来る。
今日のメニューは、ミックスフライ定食だった。
白身魚といか、海老の三種類だ。後はご飯とお味噌汁が配膳された。
白身魚も美味しかったが、いかは身がとても甘く柔らかで、なんだかジューシーなのにちっとも生臭くなかった。こんないかを食べたのは初めてだったので、つい、ハイド男爵に聞いてしまった。
「このいかは何か特別なんですか?」
「よくわかったね。これは初心者ダンジョン深層に表れるクラーケンという魔物だよ。味はいかにとてもよく似ている事で有名なので取り寄せてみたんだが、実に美味しい味わいだね」
「はい!」
僕は力強く返事をした。それぐらい美味しかったのだ。お小遣いで買えるようなら買って帰ろう。
デザートはプリンアラモードだった。
ちょっと苦いカラメルと、甘いプリン。りんごと苺が飾られ、たっぷりのホイップクリームでデコレーションされている。
僕はプリンを崩して食べていく。
甘くてとっても美味しい。
5段アイスのプリンパフェを食べ終えたシェリー様が、僕に向き直る。
「カッスィー。アイスクリームなんだけど、3000個だけ今回納品して貰っていいかしら。魔導アイスクリームメーカーで作れるけれど、氷魔石が高くつくからね。今値段を調整中なの」
「わかりました。場所はいつもの氷室で良いでしょうか?」
「ええ。ここで良いわ。宜しくね」
わかりました、と返事をすると、次にカッペラード様が話しかけてきた。
「異世界市場のミンバ店長から伝言が来ている。まずモミジ焼きはジネットとイエーモが継続して販売していて、好調だ。それと、冷蔵の魔導具と時間停止機能付き魔法鞄がカミーラ司祭から届いた。小売りを開始するので仕入れをさせて欲しいとの事だった」
「わかりました。明日伺います」
僕が返事をすると、ハイド男爵がこちらへ向き直った。
「そうだ、私の方からもひとつ。王妃様より異世界市場へ賜った時間停止機能付き魔法鞄だが、ミンバ店長に渡すかい? それとも、カッスィー君が使うかな」
「ミンバ店長に渡して下さい。僕はいまのマジックバッグで十分です」
「わかった。そう取りはかろう。では解散とする」
ハイド男爵の号令で解散となった。
僕とテッサは、客室でくつろいでいた。
「歌劇、楽しみだね」
明日はとうとう、歌劇を見に行くのだ。
題目は『カーリエの恋』。タリさん情報では格好良い王子様が出てくるらしい。
実際、恋物語の面白さがわかるか不安だけれど、精一杯楽しもう。
「ああ、楽しみだな」
テッサも嬉しそうで、鼻歌を歌いながらお風呂へ向かった。
僕もお風呂にゆっくり浸かった。
お風呂から上がると、牛乳を飲んで、歯磨きをして就寝した。
翌日、朝食後にまずする事は納品だ。
今日はアフガンズ家のアイスクリーム。
僕とテッサは、しっかり着込んで氷室に向かった。
ざらざらと出して、積んでいく。
積んで出して、また積んで。
2時間程で出し終わり、しっかり積んで納品を終わらせた。
さて次は異世界市場の納品だ。
馬車を出して貰い、警備のハンスさんに迎えに来て貰う。馬車に乗り込み、異世界市場ルカート支店へ向かう。
ルカート通りの南、青い屋根。異世界市場の建物に入ると、ミンバ店長が待っていた。
「お疲れ様です。オーナー、早速ですが納品をお願い出来ますか?」
「うん。まずはこの伝票通り出していくよ。まずは魚介類だね。地下の氷室に出せばいい?」
「はい、お願いします」
テッサは、入口のテーブルセットで休憩。
店舗設備の、冷蔵の魔導具を見せて貰うのだそうだ。
僕は異世界市場の鑑定師、マイクさんと地下の氷室へ行った。
魚介類を出し終わり、フルーツを並べていた時、ひょっこりとツェーネさんが氷室にきた。すぐに店頭に並べるそうで、少しずつ持って行く。
それと追加注文の伝票を貰った。なんとマグロ2匹も注文が入っている。
僕は金貨のチャージを済ませると、在庫分も合わせてマグロ5匹を納品した。
後、アイスクリーム1000個。
ミンバ店長が魔導アイスクリームメーカーを購入すると言ってくれたので、アイスの納品はこれが最後だ。
テッサのキャロ師匠に、発注を出さないとね。
倉庫に行き、納品を続ける。
米の売れ行きがとても良く、今日は相当数を納品する事になった。
積むのはマイクさんがやってくれたので、僕は出すことに集中することができた。
その他醤油、味噌、小豆、小麦粉、砂糖を出して、これで納品は終了だ。
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