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喫茶店ツバキ

翌日、朝食後に、異世界市場の視察に行くことになった。勿論、テッサも一緒だ。

ミラノさんはジネット達にモミジ焼きの伝授をするため、別の従僕と出掛けて行った。丁度良いので、また塩漬け肉を寄付させて貰った。美味しく食べて欲しい。


僕とテッサは、ミンバ店長と馬車に乗り込んで、異世界市場のルカート支店に向かっていた。


必要な魔導具が届くまでは、小売りの客引きを抑え目にして、商人相手の取引を重点的に行っていくそうだ。

まだ開店して二日程だが、ぽつりぽつりと問い合わせがあり、まとめ買いしていく商人も珍しくないようだ。

特に米は和食の店もあることから人気であり、在庫の補充を頼まれてしまった。

売れ行き好調なら何よりだね。


ルカート通りの南側、もと料理店だった物件は、屋根が青く塗られ、二階建ての事務所に変わっていた。

一階の目立つ場所にモミジマーク、異世界市場の看板が貼られている。


馬車を降りて、一階の入り口をくぐる。

すると、ツェーネが出てきて対応してくれた。


「いらっしゃいませ、オーナー」


店内はまだがらんとしていて、品物があまりない。これは冷蔵の魔導具が来てから商品を補充する為、わざと空けてあるのだそうだ。


二階に上がり応接室に入る。

赤いカーペットに高級なソファ。観葉植物と、横に警備用の詰め所があった。

ノックをして入ると、中にハンスさんがいた。

警備隊の制服を着ており、高額取引が多い為、決済の際には取引に立ち会うのだそうだ。


顔の怖いハンスさんがニカッと笑ってくれて、僕はようやく緊張が解れてきた。ツェーネさんは、これから商談が一件ある為、一階で待機するとの事だった。


一階に降りて、裏に回る。

大きめのキッチンスペースで、マイクさんがお茶を淹れてくれていた。

食堂に入り、席に着く。

テッサと二人、紅茶とクッキーを出して貰った。


クッキーをつまみながら、ミンバ店長にお店の売れ行き具合を教えて貰った。


「まず、米が一番売れています。次に醤油、味噌ですね。後はカレールゥと小豆が売れています。後、モミジ焼きを売るに当たって小麦粉と砂糖も仕入れたいのですが宜しいでしょうか?」


「うん。今日これから出していくよ。明細はある?」


「只今作成して参ります。それと、王妃様に謁見をした件で、問い合わせが来ています。カカオと珈琲、そしてアイスクリームなのですが、今から売りに出しますか? 店長としては、少量でもいいので入荷させたいと考えています」


「うーん。テッサはどう思う?」


「カカオも珈琲もすぐダメになる食材じゃないし、出してったらどうだ? 氷室は広いのか?」


「勿論、地下に大きく作ってございます」


「じゃあ、アイスクリームも追加だね。鑑定はマイクさんに頼めば良い?」


「ええ。今明細をお持ちします。後、マイクを呼んで参りますね」


その後、マイクさんの鑑定のもと、異世界市場の納品に勤しんだ。

テッサは鑑定師としてのコツを聞く等しており、終始楽しそうだった。


異世界市場の広い倉庫を後にして、僕達はハイド男爵家のタウンハウスに戻って来ていた。

ミンバ店長とは、ここでお別れ。以前仕立てた礼服と普段着等を渡され、マジックバッグに仕舞う。


「ミンバ店長、視察させてくれてありがとうございました。また一月後、今度はカミーラ師匠と一緒に顔を出させて貰います」


「ええ。次は魔導具も届いてるでしょうし、生鮮食品の納品もお願いする予定です。モミジ焼きも稼働しているでしょうから、楽しみにしていて下さい」


僕は笑顔で返事をすると、テッサと二人、頭を下げて見送った。



上着をしっかり着込んで氷室に向かう。

アフガンズ家のアイスクリームの納品の続きだ。


ざらざらと出して、積んで行く。


「なぁカッスィー。さっき蜂蜜持ってなかった? ミンバ店長から渡されてたろう?」


「よく気付いたね。へへん。これは初心者ダンジョン地下5Fのキラービーから取れる蜂蜜だよ。ルビアがクレープを作るって言ってたでしょ? じゃあ美味しい蜂蜜を仕入れなきゃダメだと思ってさ。ミンバ店長に買っておいて貰ったんだ」


「へえー。確か、トーミ町で食べたクレープに使われてためっちゃうまい蜂蜜だろ? よく売ってたな」


「ルカート通りにある雑貨屋の横に、こういうダンジョン素材を扱う食料品店があるんだって。ちょっと値段は高いけど、味に間違いはないってミンバ店長も言ってた。この蜂蜜はコップ一杯で銀貨2枚。お小遣いがあるから奮発しちゃった」


「いいねぇ。じゃあ帰ったらルビアにめちゃうまいクレープを作って貰えるな」


「うん!」


僕らは談笑しながら作業を進めていき、3時間程で納品を終える事が出来た。


12の鐘が鳴り、お昼時である。

客室で身支度を整え、食堂へ向かう。


食堂に入ると、皆揃っていた。

上座に、カッペラード様、シェリー様。

こちら側に、僕とテッサ。

ミラノさんは脇に控えている。


「では、昼食にしよう」


カッペラード様の合図で昼食が始まる。

今日のメニューは、温かいお蕎麦に天ぷらの盛り合わせがついた、天ぷらそばだった。


温かいお蕎麦のおつゆを一口。じゅわっと出汁の味がする。暖かくてあったまる。

天ぷらを天つゆにつけて食べる。海老、いか、帆立、なす、いんげん、椎茸、かぼちゃ。

どれも美味しかったけれど、いかとなすが気に入った。

お蕎麦をすすり込み、食べていく。

おつゆをごくごくと飲んで、あっと言う間に完食した。


デザートは、モミジ焼きだった。

手のひら位の大きさで、形は異世界のモミジという葉っぱを模している。がぶりと食べると中には甘いあんこがたっぷりと入っていた。

うん、美味しい。

ミラノさんをちらりと見ると、頷いて、今日のモミジ焼き伝授の様子を少し語ってくれた。


「俺がレシピを伝授したのは、ジネットとイエーモだ。二人とも、これと同じものが焼けるようになっている。売り値は、銅貨5枚だ。実際に屋台を出して焼かせてみたが、味も良いし、売れ行きも上々だった。金計算に関してはジネットが得意で、客あしらいはイエーモが得意だ。暫くは二人で店を出すとのことだ」


「わかりました。ミラノさん、お疲れさまです」


「それと、肉の寄付について大変喜ばれた。シスターに丁寧に頭を下げられた。ジネットとイエーモも喜んだが、特にちびっ子二人が大喜びだ。食べ盛りなんだろう」


得意げなジネット達の姿が目に浮かぶ。

それと、お肉を喜ぶマリとエーテも目に浮かんだ。


「喜んで貰えて嬉しいです」


僕が感無量に呟くと、モミジ焼きを食べ終え、5段アイスの山を果敢に突き崩していたシェリー様が話しかけてきた。


「カッスィーは、慈善事業に興味あるの? じゃあ、珈琲屋を作るべきよ」


「珈琲屋ですか?」


「そう。珈琲って一部の富裕層しか飲めないのよ。普通に売っているお店がないの。仕事が増えると思って黙ってたんだけど、やるんならアフガンズ家が後ろ盾になるわ」


いきなり大きな話で驚いてしまう。

しかしそんな僕の横で、テッサは冷静に店の内容を考えていた。


「店で飲んだり、持ち帰りもできた方がいいよな。軽食も出した方がいいし……。じゃあ、喫茶店ツバキでどうだ?異世界の木の名前だ」


「いいじゃない。テッサの案、採用ね」


「じゃあ、やってみます」


「宜しい。じゃあこの後、商業ギルドへ行きましょう。目指すは喫茶店ツバキの王都進出かしら。すぐに達成しちゃいそうだけど、まずはルカート店ね。ええと、メニューは、テッサが作ってみなさいよ。給料はちゃんと出すわ。もうすぐ師匠が来るからお金、あった方がいいでしょ」


「ありがとうございます。任せといてくれ!」


「じゃあ、珈琲のメニューは、ミラノに任せても良いかしら。こちらもちゃんと給料を払うわ」


「お任せください」


「出来たレシピを、うちの料理人二人に教えて貰いたいの。接客はほかに三名と、店長が一人いるわ。カッペラード様、人材はうちで出して宜しくて?」


「ああ。構わない」


「ではテリア、店長候補として、パヤはどうかしら」


「適任かと存じます。今連れて参ります」


「カッスィー。カッスィーの名前の珈琲を作ってもいいのよ」


「それ良い! 子供が飲めるココアを、カッスィースペシャルって名前で売りに出そうぜ」


「なんで?! じゃあテッサスペシャルもあるんだろうね?」


「じゃあ俺はミルク入りの珈琲をテッサスペシャルにするよ」


「へえー。ミルクを入れると美味しいの?」


「ああ。俺は好きだよ」


トントン


ノックをして入ってきたのは、焦げ茶色のロングヘアが似合う、ほんわかとした女性だった。ちょっとふくよかなその女性は、黒のロングドレスを着ていて、編み上げブーツをはいていた。


「シェリー様、パヤでございます。この度の喫茶店ツバキの店長業務、謹んで受けさせていただきます」


「宜しくね。食べ物のメニューはテッサ担当、飲み物のメニューは、ミラノが担当よ。まずは店舗を作っちゃうから、次に集まるときは一ヶ月後になるわね。パヤから何かある?」


「私からは、甘い食べ物をメニューに入れて頂きたい、くらいですかねぇ。テッサ、チョコレートは考えていますか。希望はショコラです」


「ああ。入れておく」


「では以上でございます。私の方では接客担当を三名と、料理人二名を選出させて頂きます」


「うん、それでいいわ。これで喫茶店ツバキのルカート店が出来上がるわね。全部出来上がって、店もオープンしたら、アフガンズ家の領都にもお店を出したいわ」


「それは良い考えだね。うちも出来上がったら領都のハイド町に喫茶店ツバキを開店させよう」


「夢は広がるわよね。カッスィーは忙しくなるけれど、異世界市場と同じくこちらもオーナー兼仕入れ担当ね。これからも宜しく頼むわ」


僕はシェリー様の言葉に、力強く頷きを返した。


「はい。よろしくお願いします」


これが、ラグナスティール王国中に増えることになる喫茶店ツバキの第一号店が出来た瞬間だった。

お読みいただき、ありがとうございました。


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