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モミジ焼き

タウンハウスに入り、旅装を解く。

いつもの通り、僕とテッサは相部屋だ。

トントン、とノックの音が響いた。

はい、と出るとカッペラード様が呼んでいると言う。

僕とテッサは身支度をして応接室へ行った。


応接室にはカッペラード様とシェリー様がいた。


「やあ。待っていたよ」


「久し振りね、アイスクリームちゃん達」


重厚な赤を基調とした部屋。二人はソファに座ってくつろいでいた。

僕とテッサも、ソファに座る。


「早速だが、ヒヒイロカネと剣を出して貰いたい。特にヒヒイロカネは、本日の夕刻にあるオークションに出す。剣は、丁度今武器商が来ているから査定して貰おう」


「わかりました。この机に出しますね」


僕はヒヒイロカネと剣5本を机の上に置いた。


「間違いありません。ヒヒイロカネです」


「では、予定通り頼むよ」


「かしこまりました」


カッペラード様の従僕がヒヒイロカネを運んでいく。もしかしたら白金貨を越えるかもしれないと聞いて、びっくりだ。白金貨って金貨1000枚だよね。ダンジョンで出ることもあるが、稀な上、高威力の剣が打てるとあって、鍛冶師垂涎の品物なんだそうだ。


「高く売れると良いですね」


「手数料で一割は貰うが、残りは全て渡すからね。ふふふ、楽しみだ」


トントン


「カッペラード様、武器商が参りました」


「通してくれ」


「失礼します。武器商人のズワルト・カリバーです」


入ってきたのは、壮年のガッチリした男性だった。


「やあ。早速で悪いが、鑑定を頼むよ」


「カッペラード様、失礼致します。ほう、ミスリルの剣ですな。しかも付与付きだ。これとこれとこれ。品質もAと大変良いですし、一本金貨300枚出しましょう。特に火の付与は需要が高いです。またお売り頂きたい。後二本は付与なしですな。こちらもミスリルのランクA。一本金貨200枚出しましょう。総じてミスリルの剣は軽く攻撃力が高い為需要が高い。売り先に困ることはありません。金額の方はそれでよろしいでしょうかな?」


「ああ。では白金貨1枚と金貨300枚だね」


「はい、ではこちらに。お取引ありがとうございました」


ズワルトさんは今日のオークションに参加するので今から準備をするのだそうだ。丁寧に礼をしてから、颯爽と立ち去った。


「テッサ、この売上から一割手数料を引いた金額がヤッコムさんの取り分だ。それで良いかい?」


「ああ。売ってくれてありがとうございました。ティティー村じゃ行商人に買い叩かれて、金貨200枚にもならないそうです」


「では、また機会があれば持ってくると良い。ズワルトはうちのお抱えだからね。査定額に間違えはない筈だ。では、金貨はミラノに渡しておく」


「私は武器に明るくないけれど、見ていて面白かったわ。また持っていらっしゃい」


「はい。ありがとうございます」


そこで12の鐘が鳴り、昼食にする事になった。


食堂に向かい、席に着く。

上座には、カッペラード様、シェリー様。

こちら側には、僕とテッサ。

ミラノさんは脇に控えている。


「では、昼食を始めよう」


今日のメニューは、カツ丼だった。それとお味噌汁。


カツ丼はボリュームがあり、肉をザクッと噛みきってご飯をかっこむ。美味しい。肉は柔らかく、卵と出汁の風味が香る一品だ。


「ハイド男爵家の領都、ハイド町でも和食の店が開店した。一番人気はこのカツ丼だそうだ。そこで、カレーハウスのように丼物の専門店も作ることになった」


「へえ~、人気なんですね」


「そこでだ、ルカート町も丼物専門店を出すことになった。場所は異世界市場の道を挟んだ反対側だ。うまく客引き等行って欲しい。店長のミンバには言ってあるが、オーナーであるカッスィーに伝えねばならんだろう」


なるほど、出汁の元や米、醤油、味噌の小売りが見込めるわけか。

そして、客引きの件で思い出した。

孤児院の皆でたい焼きを売って貰い、異世界市場の客引きをして貰う件だ。


カッペラード様に言うと、まずミンバ店長に相談するべき事だと教えられた。

しかし、孤児院の子供は信頼性に欠けるため、仕事を頼む人間はまずいないことを教えて貰った。

むむむ、ミンバ店長をどうやったら説得出来るだろう。


デザートのクリームあんみつを食べながら、僕はそんな事ばかり考えていた。


ちらりと見たシェリー様は、今日も安定の5段アイスのあんみつパフェ。それを大変美味しそうに食べていたよ。


納品の倉庫に行く前に、ミンバ店長に相談をする。

たい焼きの屋台を出したい事、労働力として孤児院の子供を考えている事、ジネットをはじめとする孤児院の面々には誘拐された時にお世話になったので何か利益になる仕事をあっせんしたい事。

ついでにシスターは誘拐幇助の罪で罰金刑を受けており、孤児院が大変貧乏な事を付け加えた。


「オーナーの言いたいことはわかりました。一度面接をしてみます。ただし、オーナーと一緒に働く訳ではありません。不真面目であったり、商品に手を着けたりしたら、二度と雇いません。それでよろしいですね?」


僕ははい、と答えた。考えただけで、僕だって大人の助けがないと何も出来ない。あとはジネットとイエーモに期待しよう。


「ただ、そのたい焼きという商品を屋台で売るのは面白いですね。小豆、砂糖、小麦粉の販路拡大にも繋がる。ところで、どうしても鯛という魚を模した形でないといけませんか?」


「ううん。形にこだわりはないけどどうしたの?」


「実は、異世界市場のシンボルマークが、この世界にはないモミジという葉のマークなのです。異世界市場の客引きをするなら、モミジを模した形にしたらどうかと考えました。名称はモミジ焼き、如何ですか?」


「すごくいい考えだと思う。モミジ焼きでやって行こう!」


「かしこまりました。では早急に鉄板の発注と、人員の面接を済ませます」


「うん。宜しくね。後、頼みたいことがあるんだけど……」


さて、後のことはミンバ店長に頼んで、僕は納品用の倉庫に来ていた。テッサは隣にいる。


さて、交易用の商品の納品だ。カレールゥからやって行こう。


テッサと二人、荷物を出して積んで、また積んでいく。


3の鐘が鳴ったのでいったん休憩。おやつの時間だ。


食堂に行くと、皆揃っていた。

テッサと二人、並んで着席する。


カッペラード様の合図で、おやつが運ばれてくる。

今日のメニューは、ぜんざいだった。


温かな甘く煮た小豆の美味しさが疲れた身体に染み渡る。

そしてお餅を噛むと、ミヨーンと伸びる。

いつ食べても美味しくて面白い食べ物だ。


ふとシェリー様を見ると、アイスクリーム5段パフェと、ぜんざいを交互に食べている。しかも食べる速度が速く、あっと言う間に完食していた。こんな調子で毎日アイスを食べていたら、すぐになくなってしまうだろう。納品数が凄い数になるのもわかる気がした。


「ねぇ、カッスィー。うちでもカキ氷の御披露目をやってみたの。結果は大好評だったわ。ただの氷も氷室が小さかったり、氷魔法の使い手が縁者にいない場合、貴重品だからね。冬とはいえ、氷を贅沢に削って食べるスイーツは貴族の贅沢として好意的に受け入れられたの。アフガンズ家はティアージア公爵家に縁を持つ関係で大きなパーティーを受け持つ事が多々あるんだけど、良いスイーツを得られてお父様もご満悦だったわ。ありがとうね」


「はい。助けになれて良かったです」


「それで、カッスィー君。ミンバに任せたモミジ焼きの件だが、少し良いかね? たい焼きのほうを、ハイド男爵家で屋台を出したいんだ」


「はい。勿論構いません」


僕はドキリとした。

孤児を雇うことについて一言あるカッペラード様の事だ。

ジネット達の面接はどうなったのかと不安でいっぱいになる。


「具材は同じだから、売る場所は工夫して対応させて頂くよ。それと、ジネットとイエーモに関してだが、面接に合格したよ。話を持ってきたカッスィーに大変感謝していたそうだ。決して信頼を裏切ることなく仕事を完遂してみせる。ジネットからの伝言だ」


「うわぁ。もう話をつけてきてくれたんですね。ありがとうございます。僕はジネット達を信頼しているので、大丈夫だと信じています。ずっと長くできる商売だと思うので、頑張って欲しいです」


「鉄板もすぐ出来るそうだから、明日ミラノにモミジ焼きの伝授をして貰う。あと件の孤児院についてだが、経済状態が良くないことは聞いている。警邏による罰金刑が理由の為、領主としては金銭の授与をする事が出来ない。月々支給金は出しているからね。罪には罰が必要だ。罰金を払い終えるまではこのままだろう。不服かい?」


「いいえ、カッペラード様が正しいと思います。僕は両親に先立たれましたが、運良く母親の姉である母さんと父さんに育てて貰えています。それがちょっとだけ後ろめたいんです。僕はご飯を食べることが好きで、そしておやつを食べる事が好きです。ジネット達も、モミジ焼きの仕事で利益を得て、たまにお肉を食べたり、モミジ焼きを食べたり出来ればいいなと、願っています」


「まともに仕事をこなせれば、それくらいは叶うだろう。我が領民の事を考えてくれて嬉しいよ。さて、納品作業に戻ろうか」


カッペラード様の号令でおやつタイムは終わり。


僕とテッサも倉庫へ戻った。


さて、次はお酒だ。明細を見ながら、10本ずつ出していく。

今回は梅酒が多い。後、50本。


お酒、果物、野菜、魚介類。今回はマグロも一匹丸ごと発注に入っている。あと、牛と羊も一頭ずつだ。

従僕に聞いて、肉は貯蔵庫へ出す。


よし、次はアイスクリームだ。

テッサとふたり、客室へ戻り、しっかり上着を着込んで氷室へと向かう。

今日の目標は3000個。いつものことなので、従僕が手伝いに来てくれた。

よーし、鞄に手を当てて、10個ずつ出していくよ。慣れてきたら100個ざらざらと出して、積んでいく。

積んで、積んで、アイスクリームの塔をいくつも作っていく。

吐く息が白い。氷室の中は当然ながら寒いので、手がかじかんでくる。

こんな時の為のホッカイロをスキル【ネットスーパー】で購入し、テッサと手伝ってくれている従僕に渡す。

これで寒さをごまかしつつ、残り1000個を乗り切った。


客室に戻り、上着を脱ぐ。身支度を整えているとノックの音が響いた。


「晩餐の準備が整っております」


「今行きます」


そう返事をして、食堂へ向かった。

お読みいただき、ありがとうございました。


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