マイクとツェーネ
翌朝、目覚めて顔を洗う。
暖かなお湯で顔を洗っていると、テッサが起き出してきた。
テッサも同じようにお湯で顔を洗い、うがいをする。
身支度が済んで、テッサのほっぺが赤い事に気付く。今日も外はとても寒いし、風邪を引いたのだろうか。
「テッサ、ほっぺたが真っ赤だよ。熱があるかも」
「熱ぐらいあってもおかしくねぇよ。俺に魔具職人の師匠がつくんだぜ。ずーっと夢見て来たんだ、夢なら覚めないで欲しい」
昨夜も随分興奮していたし、なかなか寝付けない様子だった。
それだけ、魔具職人の師匠を紹介して貰える事が嬉しかったんだろう。
テッサの額に手をやると、うん、熱い。
僕はテッサをベッドに寝かせて人を呼んだ。
「おや、熱がありますね」
「わりぃ、興奮し過ぎた」
「食事は取れそうですか?」
「ああ、食べる」
「ではこの部屋へ運ばせます。後は熱冷ましを飲んで、寝ているように。カッスィー君は食堂へ。テッサには侍女を付けるので安心なさい」
「わかりました」
僕は返事をして食堂へ向かった。
中に入り、着席して父さんと母さんにテッサの不調を伝える。
侍女がついてくれる事を伝えると、ほっとしていた。
カッペラード様が着席し、横にシェリー様、カミーラ師匠が揃った。
「では、朝食にしよう」
カッペラード様の合図で、朝食が運ばれて来る。
メニューは、ベーコンエッグとサラダにバケット、野菜スープだ。
卵は、僕の希望により半熟。
もともと卵って固焼きにするのが普通だったのに、日本食と呼ばれる和食を食べるようになってから、半熟の美味しさに僕は心奪われている。
ティティー村では宿屋のゲンさんがスキル【光魔法】持ちで、卵には全て浄化をかけて貰っている。
カッペラード様に水を向けると、やはり半熟が好みで、卵には専属で雇った光魔法使いが浄化をかけているそうだ。
「ティティー村は美味しい食事が有名になりつつある。ベン村長、入植希望者もいるんじゃないか?」
「はい。実は嬉しいことに数件話は頂いています。ただ家は建てなくちゃならないんで、春を待ってから開拓し、大工を呼ぶ予定です」
「では家を建てる予算はハイド男爵家が負担しよう。大工は建築ギルドへ依頼し、春になったらティティー村へ向かうように手配する」
「ありがとうございます」
「うちで出している和食の店も、領都であるハイド町に出店する事になった。和食は人気でね、このルカート町にも入植希望者がいる。うちで受け入れ切れればいいが、ティティー村へ話が向かう事があるかもしれない。家は多めに建てて置こう」
「はい、わかりました」
「私からは以上だが、他にあるか?」
カッペラード様がそう聞くと、カミーラ師匠が手を挙げた。
「では、私から。ベンさん、フアラさん。昨日の契約書は読んで貰えただろうか」
師匠の言葉に、返事をしたのは母さんだった。
「ええ、読みました。オーナーのカッスィーに毎月金貨15枚支給され、それを従業員の給料とする。従業員はミンバ、マイク、ツェーネ、ハンス。給金は月金貨3枚、とありましたが、カミーラさんの給金はどうしたらいいんでしょうか」
「私は教会の方でこの件の給金を得ているからね、いらないんだ。その為の特別顧問さ。私の名前は、シシュタイン家の後ろ盾だと思ってくれ」
「わかりました。カッスィーもそれでいい?」
「うん。サインするね」
僕は従僕に羽ペンを借り、書類にサインした。
それをカミーラ師匠に渡した。
「うん、これで良し。じゃあ、この明細の分の食材を倉庫に出して貰えるかい?」
「わかりました。テッサが病欠なのですが、鑑定係はどうしたら良いですか」
「では丁度良い。マイクとツェーネを呼ぼう。今日の鑑定はマイクの担当だ」
カッペラード様が指示を出して、二人を呼ぶ。
ややあって、ノックの音と共に二人の男女が顔を出した。
男性は、ややくせっ毛の茶色の髪に茶色の目。身体はガッチリとしている。
目が合うとニッコリと微笑んでくれて、好感触だ。
次に、女性は艶やかな青のロングヘアに、茶色い目。スラリとした体系だ。
「マイク、ツェーネ。こっちの子供が異世界市場のオーナー。カッスィー君だ。そして、特別顧問のカミーラ司祭だ」
「カミーラだ。宜しく頼むよ」
「カッスィーです。よろしくお願いします」
僕達が挨拶をすると、二人も自己紹介をしてくれた。
「領主様が後見人をしていると聞いているよ。俺はマイク。23才。スキル【鑑定】持ちで、鑑定師をしている。荷物のチェックは任せてくれ」
「私はツェーネ。23才。経理を担当しています。異世界市場では接客も対応致します」
「僕は春になったら旅に出ちゃうんだけど、店にも顔を出すので宜しくです」
「ええ、聞いていますよ。沢山の顧客を獲得して来て下さいね」
そう言って、ツェーネさんもにこやかに笑ってくれた。
自己紹介が終わり、僕は納品だ。
マイクさんと一緒に倉庫まで歩く。
これは異世界市場の分なので、本来このタウンハウスの倉庫は使えないのだが、店は未だ建て替え中の為、カッペラード様が安値で貸し出してくれた。
まず米から出していく。マイクさんの鑑定もバッチリで、端から積み上げていく。
積んで積んで、お米が終わったら、次は醤油だ。
それを繰り返し、3時間程で全部出し終えた。
「オーナー、本当に虚空からものが出てくるんだな。目を疑ったぜ」
あっ。鞄から出す振りをするのを忘れてた。
気をつけなきゃいけないね。
「普段は鞄から出してるんだ。うっかりしちゃったよ」
「確かに目立つから外では気をつけた方がいいな。オーナーは転生者ではないんだろう?」
「うん。違うね。賢者様も関係ないよ」
「見たら、賢者様の再来かと思うものな。鞄のフェイクを入れて正解だと思うぜ」
「そっか。ありがとう。いつも間違われて大変なんだ」
そりゃあそうだろうとマイクさんは言う。
ただでさえレアスキル持ちは重宝されるのに、僕のスキルは唯一無二。出会えたら素晴らしいとされているスキル【物々交換】と並ぶだろう。何しろ見た目が似ている。
賢者様のスキルが虚空からものを出す事はかなり有名だ。
だから、目立ちたくないなら偽装するしかない。
「じゃあ、見つからないように頑張るよ」
「それがいいだろうな」
現実的には教会にあっさり見つかって、教会から転生者支援を頼まれている状態ではあるが、僕を狙う権力者は他にもたくさんいるのだそうだ。
さて、お昼の時間になり、マイクさんと別れて食堂へ行った。
上座にカッペラード様、シェリー様、カミーラ師匠。
こちら側に父さん、母さん、テッサ、僕だ。
テッサが復活していたので、大丈夫か聞く。
熱冷ましを飲んで寝ていたら治ったそうだ。顔色も良さそうだし、良かった。
「では、昼食にしよう」
カッペラード様の合図で、昼食が始まる。
今日のメニューは、メンチカツ定食。ご飯は炊き込みご飯で、味噌汁は豚汁だ。
具材たっぷりの豚汁をすすり、ご飯を食べる。
メンチカツを、箸で切り分け、一口ぱくり。
口いっぱいにお肉と美味しい油が広がり、濃い味付けのソースでご飯が進む。
あっと言う間に食べ終わり、次はデザートだ。
デザートは、みたらし団子。
串に3つずつ刺さったお団子を、頭から食べていく。お餅はモチモチで、甘じょっぱいタレがとても美味しい。
食後のお茶を頂いて、次の納品日を確認する。
次は3週間後に決まり、解散となった。
カミーラ師匠も王都へ向かう為、ここでお別れだ。
「今後とも、どうぞ宜しくお願いします」
そう言って、父さんと母さんが頭を下げた。
「ああ。任せてくれ。カッスィー、異世界市場の王都支店の準備を進めてくるからね。じゃあまた」
僕も頭を下げて見送った。
その後僕達はティティー村に帰り、平穏な日々を過ごしていた。
そんな僕達をびっくりさせたのは、やはり僕のスキルだった。
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