異世界市場
購入した物件のうち、料理店の方をリフォームして異世界市場の店を開く事になった。
集合住宅の方も少々リフォームが必要な為、少し値引きして貰えた。
商会の登録料も含めて金貨628枚もかかっていたけれど、カミーラ師匠は涼しい顔で購入していた。
それだけ、転生者の支援に国は力を入れているという。
カミーラ師匠は教会の仕入れ担当として、今まで仕事をしてきたけれど、今度は転生者支援の仕事として各地へ旅立つ事になった。
なぜかというと、それは僕の存在があったからなんだそうだ。
「それでね、正直君を教会に入れて独占しようという意見もあったんだ。しかし、教会が君へ強要するなんておかしな話だろう? そこで、私が転生者支援の延長として、君の補佐をすると手を挙げたんだ。君が転生者で、貴族の子供なら有り余る保護がなされる為放って置いただろうが、平民では断るのもひと苦労だからね」
「そうなんですね。僕は教会に入るつもりはないのでありがたいです」
「私の方は転生者支援の為って理由があるけれど、君にはない。せめて単純に金貨で利益を上げる位の利点はないとね。そのための予算ならまだあるから、リフォームの発注もしてしまおう」
そう言って、カミーラ師匠は建築ギルドで集合住宅のリフォームと、料理店の建て替えを発注し、金貨100枚程をぽんと支払ってしまった。
僕はかなり驚いたのだけれど、ミンバ店長はニコニコとしていて、動じていなかった。
「これも修行ですね」
なんて言われて、僕も笑顔で対応する。
「おや、いい笑顔じゃないか。ミンバ店長、リフォームの後の相談はミンバ店長に任せていいかい?」
「勿論、お任せ下さい。2週間ほどで完了する見通しなので、必要な真導具が届くまでは、米、醤油、味噌を売っていようと思っています」
「氷室も大きくして、倉庫も作るけど、やっぱり時間停止機能付き魔法鞄が欲しいね。私も心当たりに連絡を取るから、それまでは常温で売れる商材で頑張って欲しい」
建築ギルドを後にして、馬車に乗る。
僕は気になっていた事を聞いてみた。
「師匠はこの後、王都に向かうんですか?」
「そうだよ。部下のニンゲって奴と二人旅さ。ニンゲは教会騎士でね。私の護衛を担当しているんだ。今は御者をしている彼がニンゲだよ」
「そうなんですね。でもそろそろ雪が深くなるし、旅には不向きなんじゃありませんか」
「そうだね。なるべく町や村のある場所を通って行くよ。野宿する事もあるけれど、火蜥蜴の皮で作った暖かい付与付きのコートを着ていくから、悪路以外はあんまり困ったりしないんだ」
「へえー! 冒険者みたいですね」
「そうだな。道中魔物と遭遇する事もあるかもしれない。カッスィーも冒険者登録しとこうか」
「わかりました」
僕は頷いて、冒険者ギルドに到着したら自分から降りて見せた。やる気十分。だって冒険者って格好いい!
浮かれてる僕に苦笑しつつ、カミーラ師匠も降りてきた。
中には沢山の冒険者がひしめきあっており、凄い熱気だ。
丁度夕刻な為、依頼を終えて報告に来ている冒険者達でいっぱいなのだとカミーラ師匠が教えてくれた。
「次の方、どうぞ」
僕の番が来て、受付の女性に呼ばれた。
「冒険者登録をお願いします」
「それと、パーティ登録を頼むよ」
「かしこまりました。こちらの用紙に必要事項をお書き下さい」
「わかりました」
名前、カッスィー、武器、弓。後衛。
「書けました」
「では、最後に血を一滴頂きます。こちらの針で指を刺して頂けますか?」
カミーラ師匠を見ると頷いていたので、えいっと親指の腹に針を刺した。ぷくりと血が湧き上がる。
ちょっと痛いのを我慢して針を返すと、しばらくしてドッグタグを渡された。
「こちらがFランクのドッグタグになります。紛失すると銀貨2枚必要となりますのでご注意下さい。そして"アーリアの山頂"へのパーティ登録が完了致しました。冒険者登録とパーティ登録で銀貨1枚と銅貨3枚になります」
「これで頼むよ」
「銅貨7枚のお返しです。ありがとうございました」
お釣りを受け取り、僕を連れてカミーラ師匠は冒険者ギルドを後にした。
馬車に乗り込み、タウンハウスへ帰るように指示を出した。
「わぁい♪ 冒険者になれたぞー」
僕がキャッキャとはしゃいでいると、カミーラ師匠が細いチェーンをくれた。これでドッグタグをネックレスのように身に付けるのが一般的らしい。
「ありがとうございます」
僕はお礼を言ってチェーンを通し、首にかけた。重くもないし、邪魔にならなくて良い。
「冒険者のランクはSABCDEFとある。カッスィーは一番下のFランク。半年何もしないと失効してしまうから、要注意だよ。それと、私とニンゲはDランクだ。"アーリアの山頂"というパーティを組んでいる。そして、カッスィーも先程パーティに加えて置いたので、一緒に依頼を受けることが出来る」
「冒険者ギルドの依頼を受けるの?」
「私は町から町へ移動するから、商品の荷運びを受けることが多いね。今更かもしれないが、私が持っているのは時間停止機能付き魔法鞄だ。高価なものだから、そう見えないように偽装している。旅のついでにお金稼ぎが出来て、一石二鳥さ」
「なんか、堅実なんですね」
「シシュタイン家の資金は豊かだが、教会の仕入れ担当としては1銅貨、いや1鉄貨だって無駄に出来ない。お金がなくても教会に泊まれるが、それは最後の手段にしたい。今は司祭としての仕事より商人として身軽に動きたい。異世界市場の王都支店の開店準備を進めておくからね」
「はい、宜しくお願いします」
「カッスィー、これが君のギルドカードだ。それと、このカードにお金を預けて決済する事も出来る。とりあえず金貨10枚分入金しておいた。必要なものがあったらこれで買いなさい」
「はい、わかりました」
ギルドカードを受け取って、マジックバッグに仕舞う。
しばらくして馬車が止まり、タウンハウスへ着いた。
6の鐘が鳴る。夕食の時間だ。
客室へ入り、服を着替える。靴も履き替え、準備万端。食堂へ向かった。
中へ入ると、皆勢揃いしていた。
カッペラード様、シェリー様、カミーラ師匠。
こちら側に、父さんと母さんとテッサ。
僕もテッサの隣に腰を下ろすと、カッペラード様の合図で晩餐が始まった。
前菜は、お肉のテリーヌとサラダ。
どっしりしたお肉の味にぴりっとしたスパイスがとても美味しい。
パンにつけて食べると小麦の風味と相まって更に味わい深い美味しさだった。
メインは、香味野菜と牛肉の炒め物。パプリカ等を味を付けた牛肉で巻いてある。
ぱくりと食べると味の濃い牛肉は柔らかく、中心の香味野菜は蒸してあり、野菜の甘さと牛肉のハーモニーを楽しんだ。
デザートは、2種のアイスとスイートポテト。
苺が練り込まれたものと、りんごが練り込まれたもの。どっちのアイスも美味しくて、ほっぺがニコニコしちゃう。
ちらっと見たら、シェリー様はやっぱり5段アイスのパフェを食べていた。とっても美味しそうで、幸せそうで何よりだと思う。
デザートを食べ終わり、食後のお茶を頂きながら、今日の活動報告をしていく。
「僕は商業ギルドへ登録と、冒険者ギルドにも登録をしました」
「ルカート通りに面した物件を二件買い上げた。一つは集合住宅で、従業員の住む家にする。もう一つが元料理店で、建て替えをして異世界市場のルカート支店とする。後はミンバ店長に任せてあるから心配はいらないよ」
「異世界市場、か……。まさに、カッスィー君の商会そのものだね。うちも出来る限り支援するよ。今月末に開店予定なら、それに合わせて人足も募って置こう。あと必要なものは……」
「すいません。ちょっと良いですか」
「なんだい、テッサ?」
「異世界市場のルカート支店で、俺を雇って貰えませんか。給料は安くて構いません」
「スキル【鑑定】持ちならマイクがいる。テッサ、異世界市場で働くと言う事は家を出るという事だよ。集合住宅で一人暮らしをして、異世界市場へ働きに行く。それが君に出来るかい?」
「出来る!!」
テッサは立ち上がってアピールしていた。
それを慌てて父さんが止める。
「ちょっと待ちなさい。テッサ、ヤッコムさんに相談もしてないだろう。鍛冶の修行はどうするんだい? エルゥさんだって心配する。何より、君は女の子じゃないか。6才の女の子を中心街に置いていくなんて正気の沙汰じゃない。どうしても働きたいなら成人まで待つんだ」
「でも、働かないと魔具素材が買えない。今は村長に雇って貰ってるけど、カッスィーが旅に出るんならそっちは雇い止めだ。俺は鑑定で金を貯めて、どうしても魔具職人になりたいんだ」
「テッサ、魔具職人の師匠を紹介してあげる。君へ支援する理由が私にはあるからね。テッサは意味がわかるだろう?」
「……!! ありがとうございます!」
「だからね、異世界市場の店員になる道については一端諦めようか。6才の少女の一人暮らしは現実的ではない。金策は師匠と一緒に考えなさい。とはいえ、王都に住んでいるからこちらに来て貰うのに1ヶ月程かかるが構わんだろう?」
「問題ありません」
「よろしい。異世界市場の話に戻るよ。では開店に必要な食材のリストをミンバ店長に作って貰う。それを明日カッスィーに出して貰う。後はミンバ店長に任せておけば月末には異世界市場開店さ。あっと言う間だろう?」
「はい。正直実感がありません」
「あはは。まあそんなもんだよ。給料や利益については別途書類を作るから、カッスィーはお父さんとお母さんと一緒に読んで、サインしてね。これで話し合うことは以上かな?」
「そのようだね。では、解散しよう」
カッペラード様の号令で、僕達は解散した。
部屋に戻り、お風呂に呼ばれてゆっくり浸かる。
それにしても、僕の商会かぁ……。
商人になる事は僕の夢だったけれど、いきなり商会長になれるなんて奇跡だ。
カミーラ師匠は転生者支援の為に僕を手伝ってくれているんだし、僕も食材を転生者へ届けられるよう、頑張らないとな。
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