仕立て
商会の商会長は僕で、後見人にハイド男爵家がつくことになった。カミーラさんは指南役の顧問で、あとの人材は王都へ行ってから会えるよ、との事だ。
従業員が0人でも、商会の立ち上げは出来るとのこと。
そしてこれから商業ギルドへ行こうと誘われていた。
「商業ギルドって何をするところですか?」
「商人同士、助け合いをするところだね。品物の買い取りもやってるよ。そして、商会を名乗るなら必ず登録する必要があるんだ。登録すると、その町に店を出すことが出来る」
「じゃあ僕は、ルカート町にお店を出すことになるんでしょうか」
「その通りだ。君の商会は異世界の食材が多い。実際、この世界では見つからない商品を扱っている。その悪目立ちする性質も踏まえ、どんどん売っていこうと思っている。商会名の案はあるかい?」
「では、異世界市場はどうでしょう?」
「いいね、気に入った。良い名前じゃないか。じゃあ、異世界市場の申請に行こうか」
気の早いカミーラさんはもう席を立っている。
しかし、そこをカッペラード様が慌てて止めた。
「待ちたまえ。このルカート町に店を構えるなら、人員はこちらで出せる。うちも異世界市場には一枚噛ませて貰いたいからな。今、カッスィー君から買い付けた品を捌いている担当者をつけよう。今、呼びに行かせるから待ちたまえ」
カッペラード様は従僕に合図を出した。
それを見ながら、カミーラさんはお店のプランを朗々と語った。
「基本的に売りたいものは、米、醤油、味噌だ。ルカート町には和食の店があるから、小売りも期待できる。それに加えて、魚介類や各種フルーツや野菜、生ケーキも冷蔵の魔導具を使って売りに出す。在庫は時間停止機能付き魔法鞄で管理するようになるね」
「何だって?! 冷蔵の魔導具はとんでもない値段だろう。時間停止機能付き魔法鞄も商会用なら最大容量のものが欲しい。白金貨1枚はするだろう。現実的な値段ではないな」
「こんな時こそ、後ろ盾になったティアージア公爵家を頼ろうよ。必ず子飼いの付与師や魔具職人がいるからさ。勿論、うちのシシュタイン家でもいいよっ」
会議が白熱してきた時、ノックの音がした。
「カッペラード様、お呼びでしょうか」
入ってきたのはスラリとした男性で、青い短髪に緑の目をした20台前半、キッチリと従僕服を着込んでいる。すっきりと通った鼻筋に薄い唇、なかなか華やかな容貌をしていた。
「ミンバ、君に頼みたい仕事があるんだ」
と言って、カッペラード様は現在決まっている事を話して聞かせた。
「という事は、私は異世界市場の支店長のような役割でしょうか。店頭の小売り業もあるのでしたら、マイクとツェーネ、護衛用に詰め所からハンスを連れて宜しいですか」
「勿論いいとも。じゃあ、決まりだね。皆、異世界市場のルカート町支店の店長を務めるミンバだ。宜しく頼む。そしてオーナー兼仕入れ元のカッスィー君。指南役のカミーラ司祭だ」
「宜しくお願いします」
「宜しくね~」
「どうぞ、宜しくお願い致します」
なんだかどんどん話が進んで行ってる。
僕はオーナー兼仕入れ元なんだって。
そして人材を貰う代わりに、ハイド男爵家には二割のっけで商品を卸すことになった。
今までは商品によって1割から3割のっけの仕入れ値だったけれど、一律2割のっけで統一するんだって。
「例えば米、一キロは異世界市場では銀貨1枚の仕入れ値だが、ハイド男爵家にはいくらで卸すか分かるかい、カッスィー君」
「2割のっけなら、銀貨1枚と銅貨2枚でしょうか」
「正解。そして売り値だが、王都の異世界市場では2倍の銀貨2枚だ。つまり、差額が商会の利益になるわけだね。ルカート町支店での売り値は、ミンバ店長に一任させて頂くよ」
「かしこまりました。冷蔵の魔導具を使ってまで生鮮食品を売るなら、中心街のルカート通りに店を構えるべきかと存じます。早速商業ギルドへ登録に参りましょう」
ミンバ店長に促され、カミーラさんと僕は席を立った。このタウンハウスは町の南に面しており、商業ギルドまでは馬車で行く必要があるそうだ。
父さんと母さん、そしてテッサに行ってきますの挨拶をして、僕とカミーラさん、そして、ミンバ店長と護衛のハンスさんが乗り込んだ。
馬車の中では、主にハンスさんの自己紹介から行われた。
ハンスさんはガッチリとした逞しい体つきで、茶色の髪に茶色の目で、いわゆる強面の顔をしており、ちょっと怖い。23才で、ハイド男爵家の警備隊で、小隊長を務めていたそうだ。
異世界市場への転職は寝耳に水だったろうと水を向けると、意外な事に商人の家の次男で、客商売に携わる事が出来て嬉しいと語ってくれた。持ち前の強面は接客に向かないが、人好きする性格なんだそうだ。
「じゃあ、改めて宜しくお願いします」
「ああ、宜しく頼む」
僕とハンスさんはガッチリ握手を交わした。見た目は怖いけど、優しい人のようだ。
しばらく走って、ざわざわと人通りの多い道沿いに馬車は止まった。
「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」
と、カミーラさんが僕を連れだした。
「いってらっしゃいませ」
ミンバ店長にも見送られてしまい、どうしてかと思っていると、目の前の服飾店に連れて行かれた。
店は一階が硝子張りのショーウィンドウになっており、格好良い燕尾服やレースの素晴らしいドレスがマネキンに着せられている。
商業ギルドへ向かっていた筈なのに、何故服飾店なのかといぶかしんでいると、カミーラさんが正解を教えてくれた。
「曲がりなりにもオーナーなんだ。一等良い格好で向かうのが礼儀ってもんさ。カッスィーは平民にしては綺麗にしてる方だけど、古着だろう。こう言うときは礼服を仕立てるのが当たり前なのさ」
「そうなんですか。でも僕、持ち合わせがありません」
「そこは師匠に甘えなさい。私が出すから気にしなくて良い」
そう言うと、カミーラ師匠は店員を呼んで、僕の礼服を一式オーダーメイドしてしまった。
僕はあちこち計られて、メジャーでぐるぐる巻きにされている気がした。
仕立てが仕上がるのは三日後とのことで、今日は小売りされている礼服の丈を詰めてもらい、間に合わせる事になった。
着替えた服はマジックバッグに仕舞い、僕は改めて鏡を見てみた。鏡というものは家にはない。水面ではなく、自分の姿をハッキリ写す鏡というものが、珍しくて仕方なかった。
改めて自分の姿を見てみる。
母さんと同じ真っ赤な髪に緑色の目。幼い顔立ちにぴったりとした濃紺の礼服で、少々大人びて見える。
ループタイに使われているエメラルドが、目の色と同じで似合っているとカミーラ師匠はご機嫌だ。
それと普段着も数着オーダーメイドしている。
先行投資だよ、と言われ、僕は大人しく口をつぐんだ。
実は、履きやすい革靴は気に入ったので、自分用にもう一足買おうかと思ったのだけれど、金貨3枚と聞いてびっくりした。
お小遣いを貯めて、いつか買いに来ようと胸に刻む。
お買い物が終わり、馬車へ戻る。
「ああ、見違えましたね」
戻るなり褒めてくれたのはミンバ店長だ。
「えへへ。カミーラ師匠が買ってくれました」
真新しいジャケットを見ながらそう言うと、大変良くお似合いですよ、と言って貰えた。
「良い取引には良い戦闘服が必要ですからね。オーダーメイドで作った分は、後日私が取りに来ましょう。では、商業ギルドへ向かいましょうか」
「はい!」
そして今度こそ、商業ギルドについた。
赤い屋根の建物が立ち並ぶ中、オレンジ色の屋根の建物は目を引いた。
まだ真新しい建物に見える。
中に入り、受付の女性に商会の登録と土地を買いたい旨伝えると、応接室へ通された。
「ようこそいらっしゃいました。私は商業ギルド長のガイザー・ミットワームと申します。さて、商会の登録とお伺いしましたが、シシュタイン家で何か新しい事業を興すのですかな?」
「ああ。実は転生者の口に合う食材を見つけてね。これから売り歩く予定なんだよ」
「そうでございますか。ではこちらをご記入下さい」
カミーラ師匠はサラサラと書類を書いて渡していた。オーナーの欄は、カッスィーと書いてある。
「それとルカート通りに店を出したいんだが良さそうな物件はあるかな」
「勿論ございます。数件物件がございますので、実際に見て頂きましょう……おや? 商会長はカッスィー様なのですね」
「はい、僕です。宜しくお願いします」
僕は出来るだけお行儀良く見えるようにぺこりと頭を下げて、挨拶をした。
「そうですか。未成年の場合後見人が必要ですが……なるほど、領主様が後見人ですね。かしこまりました。手配致しましょう」
ガイザーさんは幼い僕を見てほんの少し不安そうにしていたけれど、ミンバ店長の出したボタンのようなものを見て納得していた。
「では、物件を見ていただきましょう。皆様馬車へお乗り下さい」
馬車に乗って二件の物件を見ることが出来た。
ルカート通りのやや南側にある元料理店の物件と、ルカート通りの真ん中にある集合住宅の物件だ。
ミンバ店長は両方購入する事を勧めた。
確かに従業員の住む場所は必要だったので、カミーラ師匠も納得して購入を決めていた。
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