商会?
自室に戻った僕は、さっそく鞄にものを入れてみた。
オルゴール、枕、ボール、絵本。厚みがあるものも、簡単に入っていく。
そして取り出してみる。バッグの中身は手を入れると頭に思い浮かんで、選んで取り出せるようになっていた。
どれくらい入るのかと思ったけれど、ベッドは入らなかった。そのかわり、洋服が入っているチェストは入った。
鞄に入れても重さが変わらないのは凄いと思った。容量まで入れ放題だからだ。
同じように鞄を開けるようにして、ログインボーナスの緑茶を取り出してみる。
うん、虚空から取り出すのはもうやめて鞄から出すようにしよう。
そして緑茶を鞄の中へ入れる。うん、うまくいった。
誘拐された時、砂時計を倒すこともログインボーナスを受け取る事も出来なかったからね。
もし旅に出るなら、ガチャも暫くおあずけだな、と思う。
旅先で素材を売るんじゃなくて、ティティー村で使って欲しいからね。
お昼時になり、外に出る。
広場に行くと、ルビアとガイとテッサが待っていた。
ルビアは最早号泣である。
「カッスィー、良かった……っ、昨日お父さん怖い顔してたんだよ、ホント良かったっ」
「俺達もめいっぱい探したんだぞ、カッスィー。無事見つかって本当に良かった」
「ふたりとも、心配かけてごめんね。探してくれてありがとう」
「ホントに無事で良かったよ。村はえらい騒ぎだったんだぜ」
「僕も無事に帰って来れて良かった。皆ありがとう」
怖かった事を思い出して、ちょっと涙ぐんでしまったけれど、おおむね元気なことはわかって貰えたらしい。
「今日のお昼は、ミラノさんが作ってくれるって。みんなで家で食べよう」
まだルビアはぐずっていたけれど、了承を貰い、皆で村長宅へ。
食堂へ行き、席に着いた。
「ミラノさん、お願いします」
「よーし。今日はオムライススペシャルだ。皆、遠慮せず食えよ」
ほどなくして、美味しそうなオムライスが運ばれてきた。
バターの香りが鼻腔をくすぐる。
オムライスの上に唐揚げとベーコンが乗っており、ボリューム満点だ。
「わぁ、美味しいっ」
「卵がトロトロだ」
「唐揚げも肉汁がたまんねぇ」
「オムライスうめぇ」
皆、あっという間に食べてしまった。
食後は、デザートである。
メニューは、アップルパイにバニラアイスを添えて。
アツアツのアップルパイはシナモンがきいていてとてもいい匂いだ。
「りんごが美味しいね」
「アイスが冷たくて美味しい」
「パイがザクザクでうまい」
「アップルパイうめぇ」
皆、大満足なデザートだった。
食後のお茶を飲みつつ、マジックバッグの説明をする。
「そんなわけで、これからは鞄から取り出すようにするからね」
「虚空から取り出してただけで誘拐とか、わけわかんねぇ」
「すごい鞄だね、カッスィー。見た目小さいけど、重くないの?」
「試してみたけど、鞄の重さしか感じないんだ。沢山ものを入れられて軽いなんて最高だよね」
「鞄目当てに誘拐されないようにしないとな」
「もう、テッサ。冗談になってないよ」
一瞬固まってしまったけれど、最悪鞄を取られても命が助かるなら鞄を奪われても良いってことでそこは了承済みなのだ。
「父さんも言ってたけど、いざと言う時は鞄より自分の身を守りなさいって」
「やっぱり、そうだよね」
「カッスィーの身には代えられないもんな」
皆が納得してくれて良かった。
それじゃ、これで解散だ。
皆と別れ、教会へ行く。
神父のおじいちゃんも涙ながらに無事を祝ってくれて大変だったよ。
今日も日課の勉強を終えて、家に帰る。
この短い時間に誘拐されたのかと思うとゾッとするが、ギーザは捕まったのだ。もう恐れる必要はない。
食堂へ行き、おやつを食べる。
今日のメニューは、チョコレートケーキ。
チョコとキャラメルの二層になっており、トップにはナッツが乗っている。
ぱくりと食べると、強いチョコの味が口いっぱいに広がった。
甘くほろ苦いチョコが甘いキャラメルと一緒に口で溶けて最高に美味しい。
食後に珈琲を淹れて貰い、ミルクと砂糖を入れて飲んだ。
珈琲の匂いって香ばしくてほんといい匂い。
父さんに呼ばれて、応接室へ行く。
カミーラさんのことはハイド男爵に相談するが、カッスィーの気持ちはどうなのかという事だった。
「正直、旅に出たいと思ったことはないです。ただ、商人になる為には色んな場所に行く必要があるでしょうし、いい機会なのでは、と思っています」
「カッスィーは次期村長でもある。無理はしなくていいんだよ」
「村長になるんだったら、もっと見に行った方がいいんじゃないでしょうか。僕はティティー村が大好きなので、もっと良い村になって欲しいです」
「カッスィーの言う通りだ。きっと良い勉強になるだろう。ただまだ6才だからな……」
「僕が幼いからですよね。僕もそう思います。ただ、お弁当を出すだけでいいって言われたんです。それなら、僕にも出来るかなって」
「そうか。カッスィーが行くつもりなら私たちも腹をくくるとしよう。ハイド男爵とも話し合う必要があるし、出発は春になるだろう。それまではゆっくり過ごしなさい」
「うん。ありがとう、父さん」
僕は心からお礼を言って、自室に戻った。
ハイド男爵家から返事が来たのは二日後だった。
ハイド男爵は謁見の為不在だが、かわりにカッペラード様が対応してくれるとの事だった。
一度、カミーラさんと一緒に話し合うから集まろう、そう書かれていた。
父さんは日程に合わせてまた冒険者に依頼を出した。運よく“緋色の鐘”のパーティと契約出来た為、スムーズに事は運んだ。
そして三日後の、ルカートの町のタウンハウス内。
先ほど到着したばかりの僕らは、昼食に招かれていた。
上座にはカッペラード様とシェリー様。そしてカミーラさん。
こちら側には、父さんと母さん、そして僕とテッサだ。
ミラノさんは側に控えており、昼食を配膳してくれた。
メニューはカツ丼。
ご飯の上に煮たトンカツを卵でとじたものが乗っている。
出汁の味が美味しくて、一気に食べてしまった。
デザートは羊羹だった。
こしあんの柔らかな甘さが心地よい。
食事が終わり、食後のお茶を飲みながら誘拐された時の事を話して聞かせた。
「まずは、無事でなによりだ。この町の孤児院にいたなんて、わかりようがない。うちもベンさんから連絡を貰って、色々動いている矢先にカミーラ司祭から連絡が入ったんだ」
カッペラード様は少し憔悴して見えた。余程探してくれたんだろう。近くにいたのに連絡する手段がなかったのが悔やまれる。
「そうだったんですね。お騒がせしました」
「いいんだよ。それでカミーラ司祭。旅に出るとお聞きしましたが、具体的にどうするおつもりですか」
「あのね、商会を作ろうと思うんだ」
「商会?!」
全く考えていなかった事を言われて、目が点になる。
「カッスィー君はもう商材を山ほど抱えてるじゃないか。私が表に立つから、どんどん売っていこう」
「しかし、彼は年齢が……」
「成人まではハイド男爵の名前を借りて、あとは人材を集めればいいだけだね」
「人材を集める為の旅でもあると?」
「いや、人材には心当たりがあるんだ。王都だから、やっぱり旅になっちゃうかな。期待していいよ」
「わかりました。よろしくお願いします」
「カッスィー君?!」
「僕の事なので、僕の意思が大事だと思います。僕はカミーラさんと旅に出たいと思います」
「わかった。ではその方向で話を進めよう」
カッペラード様の判断は早かった。
旅に出るとは言っても、肝心のルカート町のタウンハウスへ納品して貰う必要がある。
最初は三か月に一回、戻ってきて貰うという話に落ち着いた。
シェリー様のアイスクリームはどうなるかと思ったら、ルカート町と王都のタウンハウス、両方に納品して貰えれば大丈夫とお返事を頂いた。
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