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旅の誘い

「とにかく誘拐っていうのはどういう事だ?」


僕はカミーラさんに、ここに到着してからのことを話して聞かせた。


「眠って起きたらここの孤児院にいただって? 私は保護を希望して逃げ出してきた子供だって聞いているんだけど、それは嘘っぱちなのかい」


「僕は希望してここにいるわけじゃありません」


僕はその点だけは譲れず、毅然として言い放った。


「何てこった、これじゃ転生者狩りじゃないか。災難だったな、君、もう一度名前を聞いて良いかい」


「カッスィーです。ティティー村のカッスィーです。家に帰して頂けますか?」


「ちょっと待ってくれ。警邏を呼ぶ。そこの、ああ君でいい。事情は聞いているかい?」


「僕はイエーモ。はい、聞いています。うちの孤児院出身のギーザという男が連れて来ました」


「よし、手配した。じゃあカッスィー。君を家に帰さないといけない。あれ、カッスィー……、君って魔具素材も出せるカッスィーかい?」


「多分そのカッスィーです」


「ああ、キサラから聞いているよ。将来有望な子だってね。どうしても転生者認定が出来ずに悔しがっていたから覚えていたんだ。じゃあ、普通の子なんだね」


はい、と答えると、カミーラさんは頭を抱えた。


「いやー、別件で君に会いに行くところだったのに、とんだ出会いになってしまったね。ティティー村の家にはちゃんと送り届けるから安心しなさい。後見人は、ハイド男爵だったよね?」


「はい、そうです」


「そっか、じゃあまずハイド男爵家にも連絡入れて、その後帰ろうか」


はい、と頷く僕の横に、カミーラさんの部下と思われる修道服の男性が声をかけてきた。


「カミーラ司祭、警邏が到着しました」


「よしよし、オッケー。じゃあ話してこよっか。カッスィー君は少しここにいてね」


そう言うと、シスターと一緒にカミーラさんも退室していった。



入れ替わりで、ジネットが入ってくる。


「ギーザが捕まった」


「うん、そうだよね。シスターは?」


「これから取り調べだ。場合によってはまた罰金かもしれない」


「また貧乏になるな……」


「ギーザみたいな奴は他にいないからな。これで心配の種もなくなるってもんだ」


晴れやかな声音なのに、ちょっと寂しそうなのはやはり元家族だったからなんだろう。


「カッスィー、家に帰れるって、良かったな」


「ありがとう、イエーモ。短い間だったけれど、お世話になりました」


「お前、ちゃんと働くからまた来てもいいぜ」


「ジネット……。そうだ、孤児院って寄付を募るんじゃなかったっけ?」


「そうだよ。なんか寄付してくれんのか?」


いぶかし気なジネットに、僕はひと固まりの塩漬け肉を出した。


「たまにはお肉をおなかいっぱい食べたいでしょ。これティティー村からの寄付ってことで宜しく」


「ええー?! お前、賢者様だったのか?!」


「違うよ、お肉いらないの?」


「いる!!」


がっちりと抱きしめて離さないイエーモに、マリとエーテが近寄って来る。


「お肉、ありがと」


「また、来てね」


二人が初めて口を聞いてくれた。

僕はうるっときてしまって、今さらながらに随分怖い思いをしてたんだと思い知った。

ジネット、イエーモ、マリ、エーテがいてくれたから、普通にしていられたんだ。

涙は後からどんどん溢れてきて、暫く泣き止まなかった。



ひと息ついて。

顔を洗った僕はしゃっきりとして4人に向き直る。


「じゃあ、僕は行くよ。僕にも事情聴取があるんだって」


「ああ。気を付けてな」


「またな、カッスィー。お肉待ってるぜ」


「じゃあね、みんな。元気で!」


僕は部屋を出ると、事情聴取の為にしばし警邏の人たちと話をした。



十五分ほどで事情聴取は終わり、カミーラさんがやってきた。


「やぁ、カッスィー君。お疲れ様。じゃあ、帰ろうか」


「はい」


そうして僕たちは孤児院を後にした。



「丁度お昼時だし、ご飯食べてからティティー村へ向かうよ。お昼、お蕎麦でいい?」


「勿論です。お蕎麦、知ってるんですね」


「そりゃあ、私は本物の転生者の相手もしてるしねぇ。慣れてるんだよ。この町は転生者の好物が多くて実に魅力的だ」


「はぁ……」


「ここだ。入るよ」


「へい、らっしゃい!」


「きつねそばでいい? きつねそば2つね!」


店構えはそんなに大きくないのに、中はお客さんでぎゅうぎゅうだった。


カッペラード様の作ったお店かな。大繁盛してるね。


「はい、お待ち!」


お店の大将が出してくれた一杯のお蕎麦は、出汁の味が濃くて、帰って来たんだなという気がした。

お揚げが噛むとじゅわーっと出汁が染み出して、最高に美味しかった。

一気に食べてしまったよ。


「ご馳走様でした」


店を出て、お礼を言う。


「いやー、気にしないでよ。じゃあ、帰ろうか。ついでに話を聞いて欲しいんだ」


僕たちは馬車に乗り、ティティー村を目指して出発した。


「それでね、カッスィー君。食事が舌に合わない転生者達の為に、君には食料を売って貰いたいんだ」


「取引なら、ハイド男爵家を通して貰えば、お売りできます」


「それがねぇ、欲しいと言っている家が山ほどあるのさ。実際王都に多く住んでいるんだが、そこまで運ぶと値段は約2倍だ。転生者の支援を命題にしているのは教会だけではなく、王家もだからね。王妃様も駄目とはおっしゃらないだろう。君の後ろ盾については理解している。ティアージア公爵家もだろう。それにシシュタイン侯爵家を加える気はないかい。要するにね、各領地を回って売りに行こう、というわけさ。初回だけでいい」


「初回だけというのは、無理があるんじゃないでしょうか。食品は食べるとなくなります。次を求められるのは必然かと思いますが」


「まぁ、その通りだね。だからね、次からは仕入れ元のハイド男爵領から買ってもらうわけさ。それなら2倍の値段がついても買うだろうからね」


僕はちょっと考え込んで、考えていることを言ってみた。


「時間停止のマジックバッグに食料を詰め込んで持っていけば結果は同じではありませんか。僕が行かなくちゃいけない理由はどこにありますか」


「そりゃーもう、教会に恩を売れちゃうし、うちのシシュタイン侯爵家も後ろ盾につくし、いいことずくめだよ。後はね、将来商人になりたいんでしょう? 私に着いてきたらいいじゃない。私、教会の仕入れ担当やってるんだ」


「ええ?! じゃあ僕の師匠になって頂けるんですか?」


「そーいう事だよ。後はご両親にもお話するからよーく考えて。多分3年位の旅になると思うからさ」


ごくり。僕は唾を飲み込んだ。


「僕は、お弁当を出すことしか出来ないんですが……」


「スキルの詳細を聞いてるよ。魔具素材は意識して出せないんでしょう。そしてお金と引き換えでないとものが出せない」


「はい、その通りです」


「道中、私の仕事を横で見ながら、お弁当を出してくれたらいいよ。それで大丈夫だから」


「少し、考えさせて下さい」


すぐに断ることが出来なかったのは、やはり師匠になってくれるというのが大きかった。


「それでもまあ、誘拐されて転生者に良い感情を持ってなさそうだから言うけどさ、ずっと探してた食べ物が見つかって、本当に嬉しそうに喜んでるんだよ、転生者の子たち。だからさ、かわりにありがとうって、言わせてね」


「はい……」


僕の側に特に言いたいことはなかった。転生者は前世持ちで、こちらの世界にうまく馴染めず苦しんでいると言う。

だから僕が旅に出る必要があるのだろうか。

どちらかというと、このままだとまた誘拐されるかもしれないから、出来ることはしておきたい。そっちの意識の方が大きかった。


お読みいただき、ありがとうございました。


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