誘拐
じ、自分の身に起こったことをありのまま話すぜ。
寝て起きたら誘拐されてた。一言で言うとこうなる。
僕が覚えているのは、昨日ルビアにサーターアンダギーをご馳走して貰った事。
おやつの時間はプリンアラモードだったこと。
夕食はハンバーグ定食だったこと。
そして今日、朝食はベーコンエッグだった。
昼食は力うどん。
うん、教会に勉強に行った後、帰ってないね。
それはともかく、今はどうしてるんだって?
なんか、子供がいる部屋に閉じ込められています。
僕の憶測では、教会で眠り薬を盛られて運ばれてきたと思っている。
神父のおじいちゃんは、いつも優しく勉強を教えてくれるし、違うと思うんだよなぁ。
そういえば、昨日も女神さまにお祈りしていた男性が話しかけて来たような……。
記憶が曖昧で覚えていないや。
外は薄暗く、体感的にもうすぐ夕食だ。
そこに、年長さんと思わしき男の子が近づいてきた。
「おい、新入り。夕飯を作るから手伝え」
「僕、新入りじゃないよ」
「手伝わなきゃ夕飯は無しだぞ。チビどもも働くんだからさっさと動け」
見ていると、僕よりも小さな子達が2人起きだして、野菜を刻んでいく。
僕は鍋をかき混ぜる係だ。
あと一人が外の野菜畑に行っていると言う事で、ここにいるのは全員で5名となる。
鍋をかき混ぜながら、あたりの様子を確認する。
建物はそんなに新しくもなく、明かりも少ない。大人もいなければ、監視している人間もいない。
逃げられるのではないだろうか?
僕はさっきの男の子に聞いた。
「ここは、なんていう町?」
「ルカートの町だよ。その孤児院だ」
「孤児院? なんで?」
「お前、親に捨てられたんだろう。ここはそういうやつばっかりだから、泣くんじゃねぇぞ」
正直、泣くタイミングを逃してしまっていた。
なにがなんだかわからないが、ルカートの町にはハイド男爵のタウンハウスがある。
そこまで逃げれば、なんとか家に帰れるはずだ。
「僕、親に捨てられてないよ。誘拐されてきたんだ」
一応、減らず口だろうけれど言っておいた。しかし思ったより劇的に反応があった。
「ギーザの野郎、またやったのか! 面倒くせぇ」
僕は鍋をかき混ぜながら尋ねる。
「どういうこと?」
「お前みたいな奴は初めてじゃないって事だよ。畜生、さっさと飯にするぞ。マリ、エーテ、皿を並べろ」
マリとエーテと呼ばれた子供はこくんと頷いて机に皿を並べ始めた。そこに炙ったバケットを置いてゆき、野菜スープを注ぐ。
正直、塩しか入れていないので味の良しあしがわからない。
「ジネット、新入りか?」
畑仕事をしていると言っていた子供だろう、僕と同じくらいの背丈の子供が外から入ってきた。
「イエーモ、厄介ごとだ。ギーザの野郎、また誘拐して来やがった。それで孤児院が潰れたらどうしてくれんだこの野郎」
「へぇ、お前は帰る先があるんだな。俺はイエーモ。お前は?」
「僕はカッスィー。帰れるものなら今すぐ帰りたいけど、無理かな?」
「ま、無理だ。夜はどこも鍵がかけられて出られない。まずは夕飯を食おうぜ。俺はジネット。よろしくな」
皆で席について、夕食を頂く。
パンは固いし、スープは野菜しか入っておらず塩味しかしない。しかしこんな時だからこそしっかり食べなければならない。
カッスィーは気を振るい立てて粗末な夕食を平らげた。
夕食後は、軽く身体を拭いて、就寝だ。
明日の朝は、畑仕事も手伝わせるから早く寝ろとジネットが言う。
カッスィーは、心配をかけてるであろう父さんや母さん、村のみんなの顔を思い浮かべ、不安でいっぱいであったけれど、なんとか気を持ち直してふとんに身を沈めた。薄い布団は少し寒い。だから皆で集まって眠るんだとジネットが言っていた。
「ねぇジネット。聞いていい?」
「何だよ、今日はもう寝ろ」
「わかってる。一個だけ。ここの皆って、転生者なの?」
「ああ、ギーザの奴が捜し歩いてる金になる子供の話だろ。生憎売れてないから違うんじゃねぇかな。よくは知らねぇ」
「そっか。ありがとう……おやすみ」
転生者が高く売れるなんて初耳だ。もしかして教会?
いろんな疑問が浮かび上がってきたけれど、今日の所は仕方なく、目を閉じた。
無理やり寝た割にはしっかり眠れて、朝もしゃっきり目覚めることが出来た。
「まずは顔を洗わなきゃな。こっちだ」
ジネットに連れられて、部屋を出る。
建物の裏手に井戸があり、そこから汲み上げポンプで水を汲んだ。
「魔導水道がないんだね」
「金持ちの家なのか? お前。魔石の交換が必要なやつだろ。ここじゃ魔導コンロしかねぇよ」
「そっか。お水、ありがとう」
カッスィーは冷たい井戸の水で顔を洗った。
ふと、がやがやと声が聞こえた。
「いい加減にしとくれっ! あんたに犯罪の片棒を担がされちゃこっちだってお陀仏さ。連れてきた子供だってどう見ても普通の子供だろう。あんたの言う転生者の子供なんていないんだって気づきなよ!」
「ミレーヌ、お願いだ。今回だけでいい。教会の司祭を呼びつけてある。それで転生者認定されれば大金が手に入るんだ。今回のガキは本物だよ。なんたって賢者様と同じように虚空からものを出していたからな」
「違っていたら前回と同じで罰金程度じゃ許されないんだよ?! 転生者狩りなんて危ない真似、もうやめとくれ」
「俺はここの孤児院の為を思ってだな……」
「言い訳は聞きたくないよ、さっさと連れて帰っておくれ」
僕の脳裏にみんなのお弁当を出した時のことが思い出される。
あれを見られていたんだ。
でも、それだけで転生者認定するなんて横暴だ。
しかしどうやら教会の人間ではないらしい。
教会のおじいちゃんを疑わずに済んで何よりだ。
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