ルビアとサーターアンダギー
翌日、広場に集まった僕ら。
約束の12時よりも若干早くルビアが来ており、次にガイ、テッサの順で集まった。
今日は皆で僕のお弁当を食べるのだ。
「じゃあ、お弁当は何にしようか」
「私、カレーライス!」
ルビアの明るい声が、あたりに響く。
「じゃあ俺、メンチカツ弁当」
「俺はカツ丼」
ガイとテッサも、お弁当を選んだようだ。
「僕は唐揚げ弁当にするよ。みんな、銅貨5枚ね」
「はーい」
皆からお金を貰い、虚空からお弁当を出して配っていく。
そして、実食だ。
「カレーライス美味しいっ! ちょっと辛いけど、また食べたくなる味なの」
「メンチカツも美味いぜ。揚げたてでじゅわっと肉汁が口の中に溢れてたまんねぇよ」
「カツ丼うめぇ。出汁の味が大好きだ」
「唐揚げも揚げたての鶏肉が美味しいよ」
皆思い思いに食事を楽しんだ。
食後のお茶に紅茶を出し、暫し寛ぐ。
そこへ、ルビアが胸を張って躍り出た。
「みんな、今日のおやつはルビアが作ったサーターアンダギーよ! 揚げ立てを食べたいから、まだ揚げてないの。ルビアの家に移動しましょう」
ルビアの家は、村の南西にある。
皆で移動しながら、ルビアとテッサの会話を聞いていた。
「じゃあ、後は揚げるだけなんだな」
「テッサに教わったレシピ通り作ったらうまくいったんだよ。砂糖と卵を混ぜて、ホットケーキミックスを入れてまた混ぜて、固まったら丸めて揚げるの。昨日作った分は美味しかったの。だから心配しないで大丈夫」
「ルビア、料理苦手だって言ってたもんな。でも揚げるだけなら大丈夫だろ」
「うん。任せといて」
しばらく歩くと、木造二階建ての家が見えてくる。
父親のギネーさんは不在だった。
今日のように晴れた日は、森に入っているらしい。
冬でもたまに獲物が取れて、良い収入源になるそうだ。
したがって僕達を迎え入れてくれたのは、ルビアの母親だった。
随分お腹が大きいな、と思ったら妊娠していて、来月は産み月なんだそうだ。
部屋に引っ込んだルビアの母親を尻目に、ルビアは複雑そうだった。
「ルビア、兄弟が出来るんだね。おめでとう」
「ありがとう、カッスィー。お母さん、お腹が重そうで大変なの。ご飯の支度とかはご近所さんが手伝いに来てくれるから大丈夫なの。ルビアが手伝える事ってあんまりなくって、落ち込んじゃう」
「ルビアはおやつを作ってくれるじゃないか。お母さんにも、差し入れするんだろう? 早速作ろう」
「うん!」
僕らは一階の食堂に着席し、ルビアは手早く油に火を入れた。油が熱されて、あらかじめ作っておいた生地を揚げていく。茶色に色付いた生地は、油のはねる音と甘い匂いに誘われてとても美味しそうに見えた。
「出来たよーっ」
カゴいっぱいに揚げ立てのサーターアンダギーが詰まっている。
僕も早速一つ頂いた。
外側がカリッとしていて、内側はほろりと柔らかい。
「甘くて美味しいよ」
「さすがルビア。美味いぜ」
「揚げ立てアツアツで美味い」
「私も……うん、美味しい! 良かったー」
ルビアは満足げにぱくぱくとサーターアンダギーを食べていく。僕らも負けじと頬張った。
「じゃあ、お母さんに差し入れしてくるね」
「行ってらっしゃい」
僕達はお腹いっぱいサーターアンダギーを食べて、食後のお茶を頂いていた。
やがて、ルビアは満点の笑顔で戻って来た。
お母さんに喜んで貰えたんだろう。
僕達はニコニコと笑うルビアにお礼を言って、解散した。
「また何か作るときは集まろうね」
「うん、わかったよ」
「また美味いおやつ期待してるぜ!」
「次はクレープなんてどうだ?」
早速次のレシピの相談をしているルビアとテッサを置いて、僕は教会に来ていた。
昼食後におやつの時間まで勉強するのは日課なのだ。
教会に入り、神父のおじいちゃんに勉強を教わる。
教会で勉強をするのは僕だけで、後は数人、女神様に祈っているだけだ。
いつもは計算や歴史だけど、今日は転生者について話を聞いてみようと思う。
「おじいちゃん、転生者ってなあに?」
「まず賢者様じゃな。異世界の知識でこの世界を豊かにしたと言われている。転生者は他の世界で生きた記憶を持ってるんじゃ。この世界にないものも異世界にはある。そのお陰で魔導コンロが誕生したと言われておる」
「他の世界で生きた記憶……」
「転生者は前世持ちとも言われる。前世の記憶に引っ張られ、この世界の食事や価値観に慣れることが出来ず、苦しむ場合が多い」
「それは、珈琲やチョコレートのこと?」
「ああ、何処からか聞いたんじゃな。実はずっと探していたのだ。今、ティティー村では普通に売っているが、今まで見つかっていない食べ物だったんじゃよ。珈琲やチョコレートは領主様の所で売っていると聞いているし、教会としても胸をなで下ろしているところなんじゃよ」
「そうなんだ……。他にも見つかっていない食べ物があるの?」
「勿論、あるとも。ただ、ティティー村では珍しくないんじゃ。味噌、醤油、米。この3つはずっと探しているんじゃよ。やっぱり食堂にあるだろう? 儂も混乱しているんじゃ」
「へえ。じゃあ領主様の所で売ってますね」
僕はとっさにそう言った。領主様との交易で仕入れている。そんな風に聞いている。
そう言うことにしてみたのだ。出所が全部僕だなんて冗談じゃない。
「じゃあ領主様から買えばいいから、転生者の人達も少しは気が楽になったのではないですか」
「そうだといいんじゃがのう。まだうまくいっとらんと聞いておる。司教様にも連絡を取っておるんじゃが、まだ返事がないわい」
どうやら見つかった珈琲やチョコレートを独占しようとする人達がいるらしい。
しかもそれは、教会の偉い人なんだそうだ。
それで争いがあり、肝心の転生者へ食べ物は行き渡っていない現状だと、神父様は残念そうに語った。
今日の勉強はここまで。
僕はおやつの時間になり、家に帰り、食堂へ行った。
ミラノさんが用意してくれたおやつは、プリンアラモード。プリンとバニラアイスに飾り切りのフルーツ。そしてたっぷりのホイップクリームでデコレーションされた一品である。
スプーンを差し入れて食べると、プリンは滑らかな卵の風味で美味しい。ホイップクリームと一緒に食べるとクリームの味わいがもっと深く感じられた。
完食し、食後のお茶を飲む。今日は珈琲を淹れて貰った。ミルクと砂糖ありなら、美味しいからね。
僕は、神父様が話してくれた内容を思い浮かべていた。
転生者は、僕のスキル【ネットスーパー】で買うことの出来る食品を探している。
ハイド男爵が諸々引き受けてくれて助かった。
僕はどこでボロを出すかわからないもの。
それにしても、食べ物を独占しようとする人に取って、僕って格好の獲物だよね。
絶対に見つからないようにしなくちゃ。
そんな風に決意を新たにする僕をあざ笑うかのように、悪意はすぐ側まで歩み寄っていたのでした。
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