納品と面倒事
タウンハウスへ到着した。
アグニさん達と別れた僕達はまず旅装を解き、客室で少々寛いだ後、昼食に呼ばれた。
食堂へ着席すると、見慣れない男性が上座に座っていた。隣に、カッペラード様、ミクシーヌ様、シェリー様。
そばに控えているのがキジさんとミラノさん。
こちら側に、父さんと母さん、僕とテッサ。
「まず、盗賊の襲撃に遭われたこと、申し訳なく思っている。私は領主のケリオス・ハイドだ。詳しいことは後にして、まずは昼食を楽しもう」
ハイド男爵の指示に合わせて、料理が運ばれてくる。
まずはクルトンの浮いたコーンスープだ。粒のままのコーンが入っており、しゃくしゃくと噛んで食感を楽しむことが出来る。濃厚なコーンスープをこくり、こくりとゆったり飲み込んで楽しんだ。
次の皿はメインのステーキだ。付け合わせに、甘く味付けをした人参と、塩ゆでしたブロッコリー。そしてたっぷりのフライドポテト。
ステーキはまだ若い子牛のお肉を、玉ねぎを基調としたソースが鮮やかに彩っていた。
ぱくりと噛んで、噛み心地を楽しむ。子牛の肉は柔らかく、どことなくミルクの風味がする。
肉のうま味を余すことなく楽しみつつ、バケットも美味しく頂いた。
メインを楽しんだ後は、デザートだ。
メニューは、ホワイトチョコレートアイスのミルクパフェ。
底にヨーグルト、コーンフレークを詰め込み、その上にホワイトチョコレートアイスが乗っている。ミルク風味のホワイトチョコレートクリームでデコレーションした姿は、とても美味しそうだ。
スプーンを差し入れて食べてみると、ホワイトチョコレートアイスが物凄く美味しかった。ミルク風味のホワイトチョコレートクリームは濃厚で、チーズケーキのように甘く柔らかい味わいだ。
ちらりと見たら、シェリー様はやはり5段アイスの特大パフェを食べていた。
幸せそうで何よりである。
食後に温かい紅茶を頂きながら、今後の話をする。
話題は勿論、王妃様へ献上するホワイトチョコレートについてだ。
「では、カカオから作れるのは間違いないわけですな」
「はい。時間はかかりますが、製法は確立出来ました。ティアージア公爵家にチョコレートと珈琲の製法を売るとお伺いしましたが……」
「まず、うちのキジに叩き込んで貰う。そして謁見に合わせて王都へ行き、ティアージア公爵家の料理人に伝授してくる。王妃様への献上品に製法も入れるが、そちらは王家だからな」
王家には、手紙で製法をカカオと一緒に献上するそうだ。
納品はこのタウンハウスで、僕は今回相当数のカカオと、各種チョコレート、お酒やコーヒー豆なども数を揃えて出しておけば良いそうだ。
後はハイド男爵が持って行ってくれる。
一時はどうなる事かと思ったけれど、一年に一回、納品すればいいのなら、そんなに難しくないね。
「しかし、名前が出ないとはいえ、カッスィー君は王家御用達の商人となる。護衛をつけるのは正解でしょうな」
「ええっ!? それはハイド男爵家じゃないんですか? 輸送も謁見も代わって貰ってるのに」
「後見人として、成人までは肩代わり出来る。しかしその後は、カッスィー君が一人で受けることが出来る栄誉だよ」
「そうなんですか……でも僕、師匠もいないし、どんな立ち居振る舞いをしたら良いかも分からないです」
「自信がないんだね。君の師匠には、レアスキル持ちの商人が良いと思うんだが、生憎伝手がない。ティアージア公爵家へ行ったときにそれとなく聞いてみるよ」
「ありがとうございます!」
後は大人達で話すとのことで、僕とテッサは倉庫に納品に来ていた。
手元の伝票は3枚。ハイド男爵家とアフガンズ男爵家。そして王妃様へ献上する分だ。
まずは、王妃様の献上品から。
「テッサ、カカオを出していくよ」
「おう! じゃあ受け取って積んでくから出して良いぜ」
「うん!」
僕とテッサは、積んで並べて、また積んでいた。
カカオを出し終わったのは、3の鐘が鳴ってすぐの頃だった。
「いったん休憩だな。おやつ食いに行こうぜ」
「うん。そうしよう」
僕達が食堂へ着くと、皆勢揃いしていた。
ハイド男爵の隣にカッペラード様、ミクシーヌ様、シェリー様。
こちら側に、父さんと母さん。そして僕とテッサ。
「成人済みの皆様にはチョコレートボンボンをお出しします。お子様達には、2種のタルトです」
チョコレートボンボンは、小さめのウィスキーの瓶のような形に整形されており、ホワイトチョコレートと茶色いチョコレートの2種が5つずつ並べられている。
食べると薄いチョコの下に隠されたお酒が舌の上に溢れ出す細工となっており、お酒とチョコの味を存分に味わえる。
「このチョコレートボンボンは、とても美味しいね。この細工も楽しいし、色んな味を楽しめる。私はウィスキーが気に入ったよ」
「父様と同じで、私もウィスキーが気に入りました。ホワイトチョコレートと合っていますね」
「私は梅酒が気に入ったわ。シェリーはどう?」
「私はワインが気に入ったわ。ホワイトチョコレートアイスクリームにも合いますわ」
ふと見ると、シェリー様はチョコレートボンボンのお皿とは別に、ホワイトチョコレートアイスクリーム5段重ねのお皿をしっかり平らげていたよ。いつもながら流石です。
僕達のおやつは、2種のタルト。
キャラメルナッツチョコタルトは甘いキャラメルにローストしたアーモンド、ほろ苦いブラックチョコを加えたケーキだ。
そして、ホワイトクリームチョコタルトは、濃厚なカスタードクリームの上に、柔らかなホワイトチョコクリームをたっぷり絞ったケーキである。
「キャラメルが甘くて美味しい」
「ホワイトチョコクリーム、すげえ美味い」
食後のお茶を飲みながら、暫し美味しいおやつの余韻に浸る。
大人になったら、僕達もチョコレートボンボンを食べてみたいね。
休憩が終わり、倉庫で納品の続きである。
ホワイトチョコレートを始め、各種チョコレートと各種お酒とコーヒー豆。そして各種フルーツを出した。
よし、王妃様への分はこれで終わり。
次はハイド男爵家。まずは、カレールゥからスタート。
次にホットケーキミックス、珈琲、コーヒー豆、お酒、各種食材。それとカカオ。
ふう。これでアイス以外は大体終わったかな。
気付いたら夕刻になっており、慌てて食堂へ向かった。
心なし急いで夕飯を食べて、上着をしっかり着込んでから氷室へ向かった。
アイスクリームを2000程納品して今日は終わり。
客室へ向かい、暖をとる。
翌朝。
朝食後、また僕達はしっかり着込んで氷室にいた。
僕はとにかく数を出し、テッサが数えて積んでいく。
従僕の人にも来てもらい、アイスクリームの塔を積み上げていく。
3時間程かかって、やっとすべて納品する事が出来た。
もうすぐお昼時だということで、お昼ご飯を頂いてから帰ることになった。
護衛を頼んでいる冒険者パーティー"緋色の鐘"にも連絡してもらい、僕はほっとして昼食の席に着くことが出来た。
昼食のメニューは、お揚げの乗ったお蕎麦だった。それと、各種天ぷらである。
お揚げは出汁をよく吸っており、噛むとじゅわっと出汁の味がする。
天ぷらは、海老、いか、インゲン、アマイモ、玉ねぎ。
蕎麦をずずずっとすすり込んで、鼻に抜けていく蕎麦の風味を楽しむ。
弾力のある麺は、蕎麦の味を十全に引き出しており、とても美味しかった。
「お揚げのお蕎麦、美味しいね」
「身体が暖まるな。天ぷらも美味い」
皆が食べ終わった頃、デザートが運ばれてきた。
「うわぁ、ぜんざいだ」
「うまそう」
出てきたものは、ぜんざいだった。
甘く煮た小豆の上に、焼き餅が乗っている。
お餅は噛むとミヨーンと伸びて、アツアツだ。
スプーンで小豆をすくって食べていく。
甘くて柔らかい小豆が美味しい。
「このルカートの町で、和食の店を出しているんだが、ぜんざいは人気のスイーツなんだよ」
「麺類のお店も今作っている最中でね。父様にも蕎麦やうどんを食べて貰っているんだ」
「カッペラードが強く勧める蕎麦やうどん。これらは本当に美味しいからね。そのうちハイド町にも店を出すかもしれないな」
「まあ。領都にお店が出来るほどなんて、素晴らしいですわね」
「フアラさん。実際凄いのはカッスィー君ですよ。今はまだ珍しい食べ物に目が眩んでる状態かもしれません。しかし、これからどうなっていくか楽しみではありませんか」
ハイド男爵は、優しい目をして母さんと父さんと話をしていた。
雰囲気が変わったのは、教会の話が出たからだ。
「やはり、教会はカッスィーにとって面倒事のようですな」
「転生者の好物と言うだけで、チョコレートと珈琲を随分安く仕入れようとして来ました。これからはティアージア公爵家が間に入る為、危惧するような事はないでしょうが、強硬派は何をするか分かりません。一応ご注意をお願いします」
「わかりました。取引は、ハイド男爵家を通すと言えば良いですかな?」
「ええ。単独での取引は、お弁当のみでお願いします。もし売る場合は仕入れ値の2倍の売り値を提示して下さい」
「わかりました。覚えておきます」
僕はしっかり頷いた。
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