襲撃
交易当日、現れた冒険者は予想より格好良かった。
エドさんが雇ったのは、"緋色の鐘"という名前のBランク冒険者パーティーだった。
リーダーは、剣士でアグニさん。26才。焦げ茶色の癖っ毛に、青い瞳。腰に剣を下げている。
次に、水魔法使いのタリさん。24才。真っ赤な髪に茶色の瞳。魔術師のローブを着て、とんがり帽子を被っている。
次に、盾持ちのメローさん。26才。金髪に茶色の瞳。大きな格好良い盾を持っている。パーティーの中で一番大柄な人だ。背中に大きな剣を下げている。
最後に、治癒師のウズさん。24才。スキンヘッドに緑色の瞳。修道士の格好をしている。
4人は集まると一礼し、リーダーのアグニさんが前に出た。
「Bランクパーティー"緋色の鐘"です。今日と明日の護衛依頼を受けました。俺はリーダーのアグニ。宜しくお願いします」
「私が村長のベンだ。盗賊が出るという噂がある。どうか宜しく頼みたい」
「任せて下さい。それで、こちらの方々は同乗者で宜しいですか?」
「ええ。家内のフアラです。この子達はカッスィーとテッサ」
「料理人のミラノです」
「5名ですね。では馬車を借りてきたので二手に別れましょう。こっちの馬車の御者はうちのメローが担当します。先導しますので、ついてきて下さい」
アグニさんの案内により、僕とテッサとミラノさんはいつもの馬車に乗り込んだ。こっちの御者はいつも通りランダさんだ。
そこへ、魔術師のタリさんと治癒師のウズさんが乗り込んでくる。
格好良い冒険者と一緒の馬車なんて、うきうきしちゃう!
父さんと母さんはアグニさんの馬車に乗ったようだ。
メローさんが御者をしていて、あの大きな盾は御者台に置いてあるのだそうだ。
「さぁ、出発だ!」
アグニさんの号令で、馬車が二台連なるように走り出す。
最初の休憩所まで2時間位。
僕達は自己紹介をしながら楽しく過ごしていた。
現在トーミ町を拠点にしているだけあって、初心者ダンジョンにも詳しかった。
「初心者ダンジョンも地下8階はそこそこ骨が折れる場所だよ。オークとミノタウロスが多いからね。ただお肉はとても美味しいんだ」
「食べてみたーい」
想像するだに美味しそうなお肉の話に、僕はすっかりその気になってしまっていた。
ステーキ、塩焼き、煮込み。どれも美味しそうだ。
「今の俺達じゃ無理だろ」
テッサが普通に止めてくる。じ、実力不足なのは分かっていたよっ。
「いつか行きたいけど、大人になったら僕、商人になって買い取ってそうだね」
「現実的で良いじゃねぇか、カッスィー。そしたらミラノさんに料理してもらおうぜ」
「それは良い夢ですね。頑張って下さいよ、坊ちゃん」
そんな風に僕達は和気あいあいとして進み、休憩所に着いたのでお茶を飲むことになった。
薪に火をつけようとするタリさんに、こういった飲み物ならあります、と紅茶や緑茶のペットボトルを見せる。
虚空からものを出したことで随分驚かれてしまったが、銅貨3枚である事、自分のスキル【ネットスーパー】で買えることを説明すると、銅貨3枚と引き換えに紅茶を受け取って貰えた。
「ああびっくりした。賢者様の卵ってとこね。護衛が必要なのもわかるわ」
「俺は父君のように珈琲を貰えるか。いやあ、スキル【物々交換】に似たスキルなんだな。会えて嬉しいよ」
父さんと母さんには珈琲を渡してある。アグニさんとメローさんは紅茶だった。それぞれ銅貨3枚を貰ってある。
ちなみに、僕とテッサとミラノさんはコーラで、ランダさんは緑茶である。
「銅貨を入れると物が出てくるなんて、珍しいわね。そのお弁当っていうのも食べてみたいわ」
休憩が終わり、馬車が出発してからも、タリさんはカッスィーのスキルに興味津々だった。
カッスィーも悪い気はしないので、お弁当を買えるスキルだと説明している。
「じゃあ、お昼ご飯の時に出しましょうか。お弁当は銅貨5枚です」
「昼餉の時刻にはもう先方に到着しているだろうが、俺達の分は自前調達だからな。干し肉は持参しているが、出来れば売って欲しい」
「わかりました。じゃあ……っ?!」
ぐらり、と馬車が揺れた気がした。
「坊ちゃん、敵襲です!」
ランダさんの大きな声。馬車は急停車し、タリさんとウズさんが急いで馬車を出て行く。
「危ないから絶対出てこないように」
言い含められ、動けない僕。
ミラノさんにテッサと二人、抱きしめられ、暫く緊迫した時間を過ごした。
心臓がどきどきしていて、ちょっと息苦しい。
剣と剣がぶつかり合う音、血のにおい、誰かの呻き声。
ざわざわとした人の気配が、少人数ではなく、多人数である事を示していた。
10分くらい経っただろうか。
恐ろしくてミラノさんにしがみついていた僕らだったけれど、剣の音がしなくなり、そっと外を眺めてみる。
総勢で、20人ほどだろうか。
血を流し、倒れている人がたくさんいた。
生きている人は、縄でしっかり縛られているようだ。
襲撃者と思わしき人たちは皆ボロボロの格好をしていて、やせ細っていた。
「あれが、盗賊……」
「カッスィー君、死体の処理をするから、もう少し待っててね」
「あ、タリさん……」
タリさんは馬車のカーテンを閉めると、また出て行った。
見ないように配慮してくれたんだろう。
ランダさんが待っている間、どんな風だったかを教えてくれた。
「格好良かったですよ。さすがBランク冒険者パーティーですね」
と、ランダさんは上機嫌だ。
まず向こうの馬車に矢がかけられ、馬車が止まったところへならず者達が押し込もうとした。しかし矢はメローさんに防がれており、馬車から出て来たのはアグニさん。
アグニさんは鮮やかな剣技でならず者を討ち取ってゆき、仲間と合流してからは、あっと言う間に制圧したんだって。
僕は少し気分が悪かったのも忘れて、聞き入っていた。
やっぱり冒険者って格好良い。
生き残りは主犯格2人。この人達はこれから向かう町の警邏に引き渡すのだそうだ。
そんなわけで、盗賊の襲撃は失敗。
馬車はまた二台連なって走り出す。
「カッスィー君、テッサちゃん。大丈夫だった?」
「お陰様で、何ともありません」
「問題ねぇよ。ただあの盗賊って、どっかの村が食い詰めた結果なのかな」
それは僕も思っていた。冬に食料がなくなるなんて、悪夢でしかない。
「同情しても良い事ないわよ。詳しくはこれから取り調べするでしょうけれど、主犯格は金貨がどうとか言ってたの。きっとギャンブルにはまったのね。その結果なんじゃないかしら」
「良い子は真似しちゃいかんぞ」
「絶対しません」
ウズさんの言葉に、僕とテッサはきれいにハモって返事をしたのでした。
お昼時を少し過ぎた頃、タウンハウスに到着した。
盗賊は町に入ったときに警邏へ引き渡している。
どうやら懸賞金が出ており、アグニさんが冒険者ギルドへ受け取りに行った。
それで少し遅くなったのである。
「それでは、今日の護衛はここまでですね。お疲れ様でした」
「アグニ君、そして"緋色の鐘"の皆さん、護衛ありがとうございました。また明日、宜しくお願いします」
父さんがアグニさんに挨拶をして、今日の依頼は終了。
僕は解散する前に、タリさんと約束していたお弁当を出すことにした。
「タリさん、どんなお弁当が良いですか?」
「やっぱりお肉がいいわね。はい、銀貨2枚。4つ頼むわ」
「じゃあ、牛焼肉弁当をどうぞ。はい、4つです」
「うわぁ、まだ温かいのね。良い匂い。早速頂くわ」
使用人用の休憩室で食べるという4人を見送り、僕達は本館へ足を踏み入れた。
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