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王妃様とホワイトチョコレート

今日は雪がちらついていて、とっても寒い。


部屋の中はとっても暖かいけれど、外の景色が雪化粧されていく様は、とても美しく、そして寒々しいものだった。


そんな今日の昼食は、天ぷらそば。


年末にテッサは食べたがっていたが、生誕祭で忙しくそれどころではなかった。


温かい蕎麦に、揚げたての海老の天ぷらが2本乗っている。


まずは温かいつゆを一口。出汁の味がじゅわっとする。食欲をかき立てられ、蕎麦を一口ずずずっとすすり込んで食べる。

蕎麦独特の弾力のある麺、深く出汁の香るつゆ、そんなつゆに浸かった海老天ぷらは、衣が出汁の旨味を吸ってえもいわれぬ美味しさだ。


「熱々で美味しい。出汁の味がいいね」


「ああ。すすり込んで食べるとまた格別だ。蕎麦の香りがいいな」


「そうだね。パスタやうどんと違う所だね」


僕の隣で海老天ぷらを大事そうに食べているのはテッサ。

灰色のツナギがトレードマークで、茶色のショートカットの髪に青い目。小柄な体。

今日も鑑定師見習いの仕事で村長宅へ来ており、カッスィーの昼食のご相伴に預かっていた。


「ああ、うまかった。早く食堂のメニューに入らないかな」


「美味しかったね。テッサの家でお米料理は食べられるようになったの?」


「ああ。俺んちで人気なのは唐揚げなんだ。それにご飯と味噌汁がついてくる。ほんと嬉しいよ」


「テッサはお米大好きだもんね。良かったね。次は麺ものかな?」


テッサは少し口ごもると、ボソボソと喋った。


「母ちゃんに我が儘ばっかり言えないし、食堂で売ってりゃ食べにいけるんだけどさ」


「食堂の新メニュー御披露目は、次は春だよね。まだ先だな」


冬の新メニュー御披露目を思い出す。

贅沢プレートを始め、そのほか各種丼ものやガトーショコラ、チョコレートパフェなどもメニュー入りした。

その後客入りも良く、繁盛しているらしい。


食堂の息子ガイと一緒に、よくメニュー入りさせたい食事の話を僕らはしているが、決定権はニラさん夫婦にある。

僕らは会議の結果、ぜんざいのメニュー入りを勧めており、お餅の普及活動を頑張っている。

蕎麦やうどんの麺類はまだまだこれからと言ったところだ。


「こうして食わせて貰ってるし、全然待てるよ」


「暖かいおつゆの麺類は冬に食べたい気もするから、家で試作しながら食べよう」


「やった。じゃあ次は鍋焼きうどん!」


「わかった。じゃあ明日レシピを教えてくれ」


そう答えたのはミラノさん。デザートを持ってきてくれたみたいだ。


今日のデザートは、あんまんとクリームまん。

肉まんやピザまんのように、食事パンにもなる蒸し料理だ。

熱々に蒸されたあんまんを手に取る。

フーフーして、ガブリと一口。


「美味しい! 甘くて餡も皮もアツアツで、寒い日にぴったり!」


「クリームまんもうめぇ。甘めのクリームがスイーツ感たっぷり」


僕らは二人で温かなスイーツを満喫した。


午後は教会に通ってお勉強。

僕も6才になったんだもの。

しっかり勉強して進学に備えないとね。


テッサは自宅に戻って鍛冶の修行だって言ってたけれど、ちゃんと勉強はしているらしい。


負けていられないよね。


おやつの時間までキッチリ勉強して、帰宅するとミラノさんがおやつを作って待っていてくれた。


今日のメニューは、ドーナッツ。粉砂糖がかけられたもの、チョコレートでコーティングされたもの、苺が練り込まれたもの。


紅茶を飲み、苺が練り込まれたものを口に入れると、中にジャムが入っていた。砂糖の甘さと苺の酸味で、少し濃いめに淹れられた紅茶ととても良く合う。

粉砂糖がかけられたものは素朴な味わいで、チョコレートがコーティングされたものは、チョコレートがとろけるような甘さで、とても美味しかった。


美味しいおやつの余韻に浸っていると、父さんに呼ばれた。

僕が応接室へ行くと、父さんと母さんがいた。

父さんは手紙を読みながら言う。


「カッスィー、冷静に聞きなさい。王都で行われたアフガンズ家のアイスクリームパーティーにお忍びで出席なさっていた王妃様が、ホワイトチョコレートをお気に召されたそうだ。アフガンズ男爵家は王妃様のご実家であられるティアージア公爵家に縁があり、今回の結果となったわけだ。そしてこの度、謁見の栄誉を賜る事になった」


「えええっ! 王妃様って王様の奥様ってことだよね。そんなえらい人の所に、僕は行くのっ?」


王宮ってティティー村から1ヶ月位かかっちゃう位遠いところにあるって聞いたことがあるよ。


「いや、さすがに幼すぎる為、後見人のハイド男爵が謁見はもとより、表に出る仕事をすべて肩代わりして下さる。そして、カッスィーは一年に一度ホワイトチョコレートを相当量、いつものタウンハウスに納品すればいいそうだ。王宮への輸送と納品は、ハイド男爵が行う」


「良かったぁー。でも、なるべく近くまで僕が行った方が、輸送費を節約できるよね?」


「カッスィーのスキル【ネットスーパー】について、王家とティアージア公爵家には明かされたが、他には開かされていない。仕入れ元の憶測を分散させる為にもあえていつものタウンハウスで良いそうだ。この件が終われば王妃様が後ろ盾になって下さる。しっかり頑張りなさい」


「はい! わかりました」


「日程はすぐ、といいたい所だが警備や人足の手配がある為、いつも通りひと月後の日程で良いそうだ。あと2週間後くらいか?」


僕は父さんに頷きを返した。


「はい。あと2週間後です。取引の日は、いつも通りミラノさんと行ってくれば良いですか?」


「いや、挨拶をしたいから俺とフアラも一緒に行く。しかしこれ以上利益の金貨が増えるとなると、護衛を頼んだ方が良いかもしれんな」


「冒険者を依頼するの?」


「カッスィーのおかげで金はある。信頼できる冒険者を雇おう」


僕は冒険者と聞いてトーミ町のダンジョンを思い浮かべていた。

血吸い蝙蝠等のモンスターと戦った思い出が蘇ってくる。


「トーミ町に依頼を出すなら、ダンジョンに行っても良い?」


「ダンジョンは春までお預けだ。冬の野宿は許可出来ない。依頼はエドさんに頼む」


「ちぇっ。残念だけど、しょうがない。わかったよ」


確かに冬の野宿は寒そうだもんね。

じゃあ冒険者はどうしてるの? と聞いたら、暖を取れる付与の付いた防具で寒さを凌ぐのが一般的だと聞いた。


「へえ~、じゃあ、エドさんも持ってる?」


「エドは元Bランク冒険者だ。そりゃあ持っとるよ」


「へえ~、カッコいい!」


「あなた、カッスィー。冒険者の件は私も雇った方が良いと思うわ。でも、それよりもまず、ホワイトチョコレートよ」


「ホワイトチョコレートがどうしたの?」


「出来うる限りのレシピも持って行くべきだわ。カレーの時も、そうだったでしょう。私達は王妃様に、ホワイトチョコレートを献上させて頂くのよ」


「俺もそう思います。ホワイトチョコレートで花を作って出来るだけ豪華にしましょう。後はケーキ、パフェ、チョコフォンデュって所ですね」


ミラノさんの返事に熱がこもっている。

今から2週間でレシピを仕上げる気まんまんだ。


「うむ。大事なことに気付かせてくれてありがとう、フアラ。では酒も料理に合わせて選ぶべきだな。エドを呼んでくるとしよう」


「じゃあ僕はまず、ミラノさんの試作用にホワイトチョコレートを出すね。厨房の控え室に出せば良い?」


「ええ。坊ちゃん。それでお願いしやすよ」


「後、テッサを呼んでくるべきじゃない? テッサは色んなレシピを知ってるから」


「緊急事態だもの、仕方ないわ。テッサを呼んで来てくれる? 後、夕飯は家で出しますってヤッコムさんの奥様に伝えて貰える?」


「わかったー」


僕は駆け出した。

まずは、厨房の控え室へホワイトチョコレートを出す。まず、100枚で良いだろうか。10枚の束を10個並べて、これでよし。


なんだか忙しくなってきたぞ?!

部屋の空気がピリッとして緊張感が漂ってくる。


次は、テッサの家だ。


お読みいただき、ありがとうございました。


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