リュースクットの夜明け
ルビアの伸びやかな歌声が響き渡る。
『アルミナの勇壮曲』だ。曲調がぐっと勇ましいものに変わり、笛をかき鳴らす人数が増えていく。
ガイとカッスィーは笛で参加し、テッサは歌と踊りで参加だ。
次は『サイラスの夕べ』。大人っぽい曲調に、恋人同士の切ない心情が歌い上げられていく。これには皆で歌で参加した。背伸びをしたい年頃なのだ。
ひとしきり歌って踊って、笛を吹いて。
ものすごく楽しくて、皆の顔から笑顔が絶えない。
一年に一度の生誕祭を楽しみつくす勢いで、カッスィーは夜ご飯を食べようとガイに声をかけた。
「ガイ、食堂は満席みたいだから、どうする?」
「そろそろ振る舞いのカツサンドとおにぎりの配布が始まるから、どっちか受け取ってくれるか? 俺はちょっと見てくるよ」
食堂の裏口に飛んでいったガイは、手伝いをしているようだ。
そして大きなお盆を持った女将さんがカツサンドの配布を始めた。
「これはカツサンド、一人1個でお願いしますよ」
「ルビアとテッサはどうする?」
「私、受け取ってくる」
「俺はおにぎりにする」
「じゃあ、行ってくるね。おばさーん!ガイのぶんと2つ下さい」
「あいよ。来年もどうぞガイをよろしくね」
「はい! 私にも1個下さい!」
「ルビアちゃんも宜しくねぇ。テッサは良いのかい?」
「俺はおにぎりにするから」
「あいよ。これを配り終えたらおにぎりの振る舞いを始めるから、ちょっと待っててね」
「おう!」
女将さんは広場をぐるりと回り、カツサンドを配って回っていた。
すぐに数ははけてしまったらしく、食堂へ戻っていく。
そしてガイと一緒に、大きなお盆を持って、
おにぎりの振る舞いを始めた。
「唐揚げ入りのおむすびですよ。はい、どうぞ。振る舞いは一人1個まででお願いしますよ」
唐揚げ入りが良かったのか、行列になっている。
ガイがおにぎりの乗ったお盆を持ってひょこりと来てくれた。
「俺に1個くれるか?」
「はい。どうぞ。配って来ちゃうから少し待っててくれ」
「ああ、わかった」
「振る舞いのおにぎり、唐揚げ入りです! 一人1個でお願いします!」
ガイが叫ぶと、あっという間に人が集っておにぎりは配布し終わったようだった。
「お待たせ!」
ガイが来たので、夕食にする。
ガイのぶんの包みを渡し、カツサンドにかぶりつく。
「うまーい」
「カツとソースがめちゃくちゃ合ってる」
「お肉が柔らかくて美味しいね」
「テッサのおにぎりはどう?」
「唐揚げとマヨネーズが最高にうまい」
美味しい夕食でお腹を満たした後は、デザートである。
「何にしよっか」
「カッスィー、マシュマロ出して。焼いてたべようぜ」
「わかった」
小枝の先にマシュマロを刺して、キャンプファイヤーの火であぶっていく。
「ファイヤーアロー!」
ルビアの小声のおふざけは不発だった。
マシュマロが炭になっちゃうよ。
「ふわっふわで甘いね」
「そのまま食べるより美味しい!」
「口に入れるとすぐ溶けちまう」
「焼きマシュマロ、うめぇ」
僕達が美味しそうに食べていると、村人達も寄ってきたので、マシュマロを配った。
焼き方を教えると、我先にと皆でキャンプファイヤーを囲んでマシュマロを焼いていく。
「甘くて美味しいわ」
「ふわふわでうまい」
テッサは焼きマシュマロを皆で楽しむことが出来て満足そうにしていた。
次はどうしようか、といったタイミングで声をかけて来たのは、テッサの兄イクトだった。
広場の端っこに移動し、話を聞く。
「改めて、俺はイクト。テッサの兄だ。ファウト鋼を俺も使ってるから、感謝を込めて一度挨拶しときたかったんだ」
聞くと、テッサの3つ上で今日で9才だと言う。
髪は金髪で、ターコイズブルーの瞳をしている。
「僕のスキル【ネットスーパー】が役に立ってるようで嬉しいよ。ありがとう」
「これからも是非宜しく頼むよ。俺も頼めば買えるのか?」
「ちゃんと買えるのはお弁当かな。鉱石の場合、種類も数も保証出来ないんだ」
「そうなんだ。じゃあテッサ、使えそうな鉱石が出たら買い取ってきてくれよ」
「おう、まかしとけ」
「わざわざありがとう」
「こっちこそいつもありがとう。じゃあな」
イクトさんは喧噪の中、すいすいと歩いて見えなくなった。家に帰ったんだろうとはテッサの言だ。
「じゃあ、僕達も解散しようか。明日のおやつは僕の家の村長宅で食べよう。ミラノさんがお餅のスイーツを作ってくれるって」
「わぁい。楽しみだね」
「3時に集合な!」
「じゃあ、また明日」
解散した後、家に帰る。
キャンプファイヤーはまだまだ燃え盛っているけれど、後は大人達が楽しむのだろう。
また『リュースクットの夜明け』が聞こえてくる。
楽しげに輪になって歌い踊る村人達を、月明かりが見つめていた。
おにぎりを食べて休憩していたニネも、ふと思い立って妻アマネを誘い、一曲だけ、と踊りに来た。
「生誕祭で踊るなんて、久方ぶりですねぇ」
「お互い、6年ぶりか?」
「もうそんなに経つんですね」
「おっ、『アルミナの勇壮曲』だ。歌いながら戻ろう」
「ああ懐かしい。来年も良い年になりそうですね」
「違いない」
店に戻ると、ガイが奮闘していた。
「父ちゃん、おにぎりとカツサンド、注文入ったよ」
「ああ。今作る」
夫がいて、子供も元気だ。
アマネはこんな幸せが続きますように、と空の星に願いを馳せた。
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