生誕祭のはじまり
デザートには、ザッハトルテを出した。
チョコレートケーキと迷ったけれど、母さんがいるなら濃厚なケーキの方が好まれそうだと思ったからだ。
「ブランデーが鼻に抜けて良い香りだ」
「チョコが濃厚でとっても美味しいわ」
「チョコがうめぇ」
「上のチョコがパリパリして美味しいね」
皆で大満足な昼食でした。
ミラノさんからは、食べる人に合わせてケーキを決めたことを褒められた。
これからも勉強を重ねていこうと思う。
テッサを伴って自室に戻り、僕はガチャを回すことにした。昨日は取引があって、ガチャを回せなかったからね。
ちなみに、今日の分の砂時計は今朝倒してある。
【ログインボーナス・31日目】
【緑茶を手に入れました】
【ガチャ回数券が14枚あります】
【1回ガチャを回しますか? Yes or No】
【10回ガチャを回しますか? Yes or No】
10回ガチャを回しますか? Yesを押して、丸い絵がぐるぐる回るのを眺める。
10枚のカードが上段と下段に別れ、順番に並んでいき、ほのかに光っている。
白いカードが8枚、青いカードが1枚、赤いカードが1枚だった。
カードに触れるとカードがくるりと回転し、中に描かれた絵が露わになる。岩のような絵だ。それに指を合わせて触れると、虚空からファウト鋼が現れた。
それをテッサに渡し、次のカードに触れる。
今回のガチャの成果は、ファウト鋼が6個と、魔導コイルが2個、ルビーが1個、ミスリルが1個という結果だった。
「今回も素材がたくさん出て嬉しいぜ」
「テッサが嬉しそうでよかったよ」
「宝石が出るようになったけど、カッスィーに良い事ってあったか?」
「実は、お小遣いが増額されたんだ」
えへへ。ついニコニコしちゃう位増えたんだ。
何と月に金貨1枚も貰えちゃうのだ。
「へえー、良かったじゃん」
「うん。今は貯金しといて、欲しいものが出来た時に買うつもり」
「俺はファウト鋼でガンガンレベル上げしてるからさ。安価で買えて嬉しいよ」
「そう言って貰えると頑張って砂時計を倒している甲斐があるよ。ありがとう」
「こっちこそありがとな。じゃあ、これも買い取りで頼むよ」
「うん。僕も母さんに宝石を預けに行くよ」
テッサは買い取った鉱石を抱えて持ち帰った。
テッサが家に帰ると、兄のイクトが剣を打っていた。
ややあって、一息を着いたタイミングでテッサに顔を向けた。
「お帰り、テッサ。交易はうまくいったかい?」
「ああ。問題なく済んだよ。これ、追加のファウト鋼な」
「……こんなに! 鎚をふるう腕が武者震いしているよ。大切に使おうな、テッサ」
イクトは嬉しそうに微笑んだ。
「おう! 兄貴はミスリルも扱えるの?」
「いや、まだまだ無理だ。この間、ちょっとコッコ銀を触らせて貰った位だよ」
「いいなぁー。俺はまだまだファウト鋼で十分だって言われてるんだ」
「テッサはまだ5才なんだから、急がなくったっていいさ。魔導コイルは修行に使うのか?」
「うん! 魔具職人の雑誌に載ってた繋ぎ方を修行してるんだ」
「ああ、頑張れ」
応援しながらも、イクトの胸中は複雑だった。
テッサがダンジョンまで行って取ってきたタナイトで打った短剣は、惚れ惚れする出来映えだった。品質もランクA。文句なしだ。
親父とテッサが、進路のことで何度も話し合いをしているのを知っている。
鍛冶職人になれという親父と、魔具職人になるというテッサ。
今現在は一応、親父が折れた形になったらしい。
テッサは剣を打つ一方で、魔具素材を捻り回している。
ただ、「惜しいな……」と一言漏らした親父を知っているだけに、僅かな嫉妬とともに、テッサが鍛冶職人になればいいのに、と思う心もある。
ただ、ファウト鋼をほぼ制限なしで使える今の環境は夢のようで、有り難くて堪らない。
どうやらカッスィーのスキル【ネットスーパー】が関連しているようで、テッサが買い取ってくる。
親父がミスリルの買い取りの件で、村長宅を訪れた事があったそうだが、俺はカッスィーとちゃんと話した事がないので、機会があったら声を掛けたいものだ。
スキル授与の儀で暗い顔をしていたカッスィーを覚えている。
追放なんて事がなくても、不遇スキルだと思っていたが、そうではないらしい。
テッサがあんなに楽しそうにしているんだし、今ではもうそんな暗い顔なんてしてはいないんだろうと、そう思えた。
カッスィーはおやつの時間になり、食堂でおやつを食べていた。
今日のおやつは、チョコレート味のロールケーキ。チョコレート味の生地にたっぷりの生クリームと、苺とバナナが封じ込められている。
チョコレート味の生地はふんわりと軽く、甘いホイップクリームが丁度良い。
挟み込まれた果物はさっぱりとした酸味で食べやすい。
デコレーションのチョコソースの甘さが引き立つロールケーキである。
デコレーションの苺とバナナを食べた後、ロールケーキにナイフを入れる。
ぱくりと食べるとふんわりとした生地からチョコレートの風味が伝わった。ホイップクリームが甘く、中の苺は酸味があり、バナナは甘い。
「チョコソースが甘くて美味しい」
全体にかかったチョコソースが、甘く美味しいハーモニーを作り出している。
完食し、食後の紅茶を飲みながら、明日のおやつはなんだろうと夢想する。
おやつを食べたばかりなのに、お煎餅と大福が食べたくなってしまって、困ってしまった。
それからしばらく経って、年越しの日がやってきた。
年越しの日は、特別な意味を持つ。
このあたりの村人は皆年越しで年を重ねるのだ。
僕達4人はみんな揃って6才になった。
「ルビア、待ってよ」
「カッスィー、こっちこっち。キャンプファイヤー始まっちゃうよ」
すでに日は落ち始めていて、広場に設置されたキャンプファイヤーだけが煌々とあたりに明かりを撒き散らしていた。
やがて日が落ちきり、木材が追加されて火をつける。
「ファイヤーアロー!」
ルビアが積極的に手伝っている。
するとどこからか、笛の音が聞こえてきた。
村長のベンが進み出て、挨拶をする。
「今年の生誕祭を執り行う! 今日は無礼講だ! 酒と食い物は食堂のニネさん夫婦から受け取ってくれ。金は村長宅から出す。踊る奴は前に出てくれ」
数名の男女が躍り出る。
ベンが合図をすると、複数の笛の音が重なっていく。
ガイも懸命に吹いていた。
夜明けが来たぞ 歓喜の夜明けだ
寒さなんぞ はねのけて 歌え 歌えよ
麦の穂を追いかけて 走れ 若人よ
明日は新たな 朝が来る
生誕の夜明けだ ああ 君に会いに行こう
リュースクットの旅立ちだ さぁ見送っておくれ
カッスィーも主旋律だけ笛で吹いている。
ルビアはカスタネットで拍子を取りながら歌っていた。
よく見たら向こう側で、テッサも歌いながら踊っていた。
さぁ生誕の夜明けだ ああ 君に会えた
リュースクットの旅立ちだ さぁ共に行こう
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