5段はちょっと
5段盛りのアイスクリームをパクパク平らげていくシェリー様を見ながら、一応僕は他の人たちを見てみた。メニューはプリンアラモードで、僕と同じでアイスも一個。芸術的なフルーツの飾り切りが美しい一品である。
やっぱり、5段盛りのアイスクリームのプリンパフェは、シェリー様だけの特別メニューみたい。
「5段はちょっと、食べすぎだよね」
僕は紅茶を飲みつつ、プリンアラモードを頂いた。
プリンと生クリームがマッチしていて、震える程美味しい。それと、りんごの果肉の混ざったアイスクリームが乗っている。りんごの酸味とアイスの甘さが合わさって、すっきり爽やかな美味しさが広がった。
「りんごアイス美味しい」
「紅茶と合ってるな」
ああ美味しかった。完食して食後のお茶を飲んでいると、シェリー様と目が合った。どうやらとっくに食べ終えていたようだ。
「時にあなた。お弁当をスキルで出すそうね。何かスタミナが付くようなお弁当を出してくれない? 私のアイスを運ばせる部下達に、差し入れをしておきたいの。出来れば珍しくて暖かいものが良いわ」
「僕の鑑定師に相談してもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
「どう思う? テッサ」
「じゃあ、うな重弁当が良いんじゃねぇかな。値段は高くても構わないですか?」
「ええ。カッスィー、おいくら?」
「カッスィー、国産のほうだ。そっちのが高いが美味い」
「では一つ銀貨4枚です」
「買うわ。とりあえず50個程出してくれる? それで、どんなお弁当なの?」
シェリー様は金貨の詰まった袋をドンと出しつつ、身を乗り出して聞いてくる。
「うなぎという魚を蒲焼きにして、特製のソースで味付けした料理です。うなぎはスタミナが付くと言われているから、選びました」
「そう。運んで頂戴」
シェリー様の合図で、従僕がうな重弁当を運び出していく。
別室にいるシェリー様の部下の方達に届けるのだそうだ。
テッサがお茶は緑茶が合うと思う、と助言している。
「ふうん。カッスィーは出てくるものがいまいちわからないんじゃなくて?」
「はい。僕は鑑定師のテッサ頼りです」
「じゃあ、せっかくのお弁当を出すスキルも魅力が半減してしまうわね」
「その通りなんです。出したことがあるものはある程度わかるようになるので、日々勉強しています」
そう。ミラノさんに毎日1個づつ出してるのも、自分のスキル【ネットスーパー】の勉強の為でもあるんだよね。
するとテッサが、席を立って言い募った。
「俺は少なくとも王立学園を卒業するまでは、ずっとカッスィーの専属鑑定師をやります。それまでにはカッスィーも独り立ち出来るくらいに知識を覚えるだろうから、問題ありません。俺も一生懸命教えます!」
「……そう。ならいいわ。卒業後はハイド家とアフガンズ家で働いて貰うんだから、しっかりしてよね」
「はい。精進します」
「今、いいだろうか? カッスィー君、商人の師匠だけれど、君には必要がない。なぜならスキルで仕入れが出来てしまうからなんだ。そんな商人は聞いたことも見たこともない。君以外はね。だから、必要なことは王立学園で学びなさい。勿論、良い人材がいたら師匠につく事も考える。あとはテッサと勉強しなさい」
「はい、わかりました。ありがとうございます、カッペラード様」
「ベンさんとフアラさんも、それで宜しいですか?」
「はい。息子を、宜しくお願い致します」
「私からも、どうぞよろしくお願い致します」
父さんと母さんが頭を下げたので、慌てて僕とテッサも倣って頭を下げた。
コンコン
「どうぞ」
入ってきたのは先程お弁当を運んでいった従僕だった。
「テリア、どうだった?」
「はい。うな重弁当は大変皆に好評でございます。魚の身はふわりと厚く、特製のソースが甘やかで大変おいしゅうございました。出来立てで暖かく、見たことのない料理と言うことで、部下達は大変喜んでおりましたよ」
「それは良かったわ。うちの人間は珍しいものに目がないの。よくやったわね、カッスィー、テッサ。次も宜しくね」
「はい。頑張ります」
「お任せ下さい」
「じゃあ、次はまたひと月後だね。今日はゆっくり休んでくれ」
カッペラード様の号令で解散となった。
カッスィー達が客室で寛いでいる頃、警備室へ招かざる客がまたひとり、到着した。
ドサリ。
意識を失っている男の風貌は、どこにでもいるような平凡な顔つきで、特徴がない。
持ち物も特になく、泥棒にしては小綺麗な格好をしている。
「また、商人か」
捕まえてきた騎士はそうひとりごちた。
しかし誰であれ、城壁をよじり登り、私有地に不法侵入を果たす輩は賊である。
いずれ罰金を支払って釈放されるとしても、それまでは牢屋行きだ。
カッペラードは報告を聞き、またか、と思った。
このタウンハウスは取引用の別邸だが、本邸にもこの手の輩は入り込んでくる。
無論捕まえて牢屋行きなのだが、ただの泥棒ではなく、最近は商人が多い。しかも、大抵が貴族の次男か三男だ。
後に取り調べを行うと、供述自体は速やかに得られる。
彼らはカレールゥや珈琲、または質の良い酒の仕入先を探りに来ているのだ。
仕入れ元の独占を咎める手紙が届いたこともある。
それもあって、アフガンズ家と手を組んだ。
今まではハイド家からお伺いを立てた際、捕まった子息の解放を望んで金貨の山で手打ちにしてきた。
しかし公爵家にも縁持つアフガンズ家と連名であったなら、息子を切り捨てる家も出てくるだろう。
「しかし、また数が増えそうだな」
アフガンズ家が大々的なパーティーでアイスクリームを御披露目したから、アイスクリーム目当ての泥棒も増えそうだ。
カッペラードは警備の増員を視野に入れながら、ため息をついた。
「本当は、良さそうな商人がいたらカッスィー君の師匠になってあげて欲しかったんだ。しかし見つからないばかりか、泥棒の商人ばっかりだ。これでは悪影響を与えてしまいかねない。カッスィー君には、秘密だね」
まだ幼い子供であるという噂は消してある。
後はどんな手が打てるだろうかと、カッペラードはペンを手に取った。
翌日、少し霧雨が降る中、カッスィー達は帰路についた。
ティティー村に到着したのは、お昼時だった為、みんなの分のお弁当を出すことになった。
僕が出したお弁当は、幕の内弁当。
唐揚げと海老フライと煮物。それと天ぷらが入っている。ご飯は俵型に小さく丸められているものが並んでおり、上からごま塩がかけられていた。
「天ぷらのアマイモがうまい」
「海老フライも海老がプリプリしてて美味しいわ」
「唐揚げも揚げたてで美味しい」
「煮物も味がじっくり染みててうまい」
父さんと母さんも気に入ってくれて良かった。
テッサは煮物をしみじみと食べている。
煮物のレンコンや人参って美味しいよね。僕も好き。
ミラノさんは……。
「出汁巻き卵もうまいな」
と言って、ご飯をかっこんで食べていた。
彩りが綺麗なのが気に入ったんだって。
さて、次はデザートだ。
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