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顔合わせとアイスクリーム

僕たちは無事に交易を済ませ、ティティー村へ戻って来た。

ミクシーヌ様が言っていたシェリー・アフガンズ男爵令嬢との顔合わせは、一週間後に決まった。


先方はアイスクリームをいたく気に入って下さったらしい。父さんはそう言って苦笑していた。

なんでも、納品のお礼の文面がえらく長く、さながらラブレターのようだったとか。

母さんをちらっと見たけど、怒ってないから大丈夫だね!


一週間後ではタウンハウスを用意できない為、場所はハイド男爵家のタウンハウスに決まった。


そして今日が顔合わせの日なので、タウンハウスへお邪魔しているんだけど、出迎えてくれた女性はぽろぽろと涙をこぼしている。

扇子で隠してはいるが、しくしくと泣いている女性を放置することも出来ない。

深い緑のドレスに涙の粒が沈み込んでいくのを見てられず、恐る恐る父さんが声をかけた。

美しいドレスのレースひとつ取っても、平民では有り得ない。

鼻筋はすっきりと通っていて、金髪の髪はハーフアップに結い上げられている。美しい女性だ。


「すみません、ティティー村の者ですが。どうかなさいましたか」


父さんの問い掛けに、こちらへ向き直ると、女性は大声で叫んだ。


「待ってたわっ! 私のアイスクリーム!!」


えっ、僕を見て言ってるの?!

……どうやらちょっと個性的な人らしい。



中に通され、客室へ案内される。

父さんと母さん、僕とテッサが相部屋だ。

旅装を解き、寛いでいると、ノックの音がした。


どうやら皆集まっているらしい。

すぐ向かいます、と返事をしてテッサとふたり、応接室へと向かう。


重厚な深い赤で彩られた応接室は、子供には敷居が高い。しかし今日はドアが開いていて、中に入ると背中でパタンと閉まった。


中は勢揃いしていた。

ハイド男爵家のカッペラード様とミクシーヌ様。

それと先程泣いていた女性。

そして父さんと母さんとミラノさん。


「遅れたようで、申し訳ありません」


「すんごく待ったわ。1000じゃ足りなかった……」


「それは後になさいよ」


「改めて紹介しよう。シェリー・アフガンズ男爵令嬢だ」


「シェリー・アフガンズです。シェリーと呼んでね、アイスクリームちゃん達」


「ええと、カッスィーです」


「俺は鑑定師のテッサです」


「父親のベンです」


「母親のフアラです」


「料理人のミラノです」


「良く来てくれたね。カッスィー君のスキルは値千金なものになりつつある。危険な目に合わないように、味方を増やすことにした。それが、シェリー嬢なんだが……」


「まず、アイスクリームを出しなさい。金貨と宝石はどっちがいいの?」


「金貨でお願いします。おいくつ必要でしょうか?」


「後でいっぱい頼むけど、まずは30個でいいわ」


シェリー様は金貨が溢れそうな大きな袋をドンと置き、そう仰った。


「はい……出しました。ってあれ? また泣いてる?」


僕が虚空からアイスを出しているのを食い入るように見つめていたシェリー様は、アイスを手に取るとしくしくと泣き始めてしまった。


「ミクシーヌぅ……アイスクリームが……いっぱいあるわ」


「良かったわね。1000個もあったのに、毎日アイスクリームパーティをしてたら5日でなくなったのはびっくりしたわね」


「浮かれて客人を呼びすぎたわ……」


「とにかくね、シェリーは悪い子じゃないから、味方として頼りになるわよ。ただちょーっとアイスクリーム愛が強いだけなの」


「ぐすっ……こんなに美味しい食べ物がこの世にあったなんて、大発見よ! 私、アイスクリームが大好きなの。出来れば毎日食べたいけれど、冬季しか買い付けが出来ないと聞いたわ」


「夏は溶けちゃいますので……」


「カッスィー君がいれば夏でも食べられるんでしょう。誘拐犯の気持ちが分かるわ」


「シェリー嬢、それは……」


「そんな目に合わないように、キッチリ手助けします。だからあなたは、夏でも私にアイスクリームを売りなさい」


「わかりました。宜しくお願いします」


僕は父さんと母さんと一緒に頭を下げた。


「宜しい。じゃああとは大人同士で話しましょうか。カッスィー君は大変だけど5000個お願いね」


「頑張ってきます!」


客室に戻り、上着をきっちり着込んで氷室へ向かう。

テッサもマフラーまでして、重装備だ。


アイスクリーム5000個は、かなりの重労働だった。

僕はとにかく出す。テッサは数えて積む。

従僕と侍女に手伝って貰いながらも、終わったのは3の鐘が鳴ってからしばらくたってのことだった。


「やっと終わったぁー」


「お疲れ様。俺達、やり切ったな……」


僕たちは部屋に戻り、ベッドで暖を取っていた。

集中し過ぎておやつを食べ損ねてしまったのは痛恨のミスだったけれど、やり切った充足感が空腹を忘れさせてくれた。


暖かさに誘われて、僕たちはよく眠ってしまっていた。


コンコン


固いノックの音に意識が覚醒する。


「はい」


「夕食の準備が整いました」


「今行きます」


テッサも目が覚めたようで、二人で身支度を整える。

案内についていくと、広い食堂へ着いた。


中に入ると、皆勢揃いしていた。

カッペラード様とミクシーヌ様。それとシェリー様。

父さんと母さん。

ミラノさんはキジさんと横に控えている。


父さんと母さんの横に着席すると、カッペラード様が迎えてくれた。


「やあ、待っていたよ。今日はお疲れ様だったね。もう遅いし今日はご両親と一緒に泊まっていくと良い。では晩餐を始めよう」


前菜は豆とほうれん草のキッシュ。

次いで、かぼちゃのポタージュが出された。


「キッシュはパイ生地がサクサクして美味しい」


「ポタージュはかぼちゃが濃厚でうめぇ」


メインはステーキで、お腹がすいてた僕はぱくぱく食べてしまった。


「お肉が柔らかくて美味しい」


「醤油ベースのステーキソースが肉に合ってる」


焼きたてのパンもおかわりして食べちゃった。パンでソースを拭って食べるのが良いんだよね。


食後のお茶を飲みつつ、デザートを待つ。


ふと見ると、シェリー様のデザートはアイスクリーム5段盛りのプリンパフェだった。

どん引きである。


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