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納品とナッツのタルト

「今日は、カッペラードが別件で遅れているの。なので取引の立ち合いはわたくし、ミクシーヌが行います。よろしいかしら?」


深い紫のドレスを着たミクシーヌ様が、着席する。

キジさんがテキパキと動いて、お茶を淹れた。ミラノさんがロールケーキをカットして、皆に配膳してくれる。


「美味しいロールケーキね。楽にして頂戴。まずはお茶を飲みましょう」


「はい、ミクシーヌ様」


ミクシーヌ様は艶やかな長い髪をなびかせて、手元に手紙を持ち上げて話し始めた。


「あなたのお父さんから報告は受けています。希少な鉱石が出るようになったそうね。スキルの進化と呼んで差し支えないわ。何か前兆はあった?」


「特にありません。強いて言うなら、レベルアップした事です」


「またレベルアップするかもしれない事を考えると、また何かあるかもしれないわね。ちゃんと報告をしなさい。あと宝石の類はね、盗もうと言う人がいっぱいいるからね、しっかり隠しておきなさいね」


「今は母さんが隠してくれています。数が貯まったら、ハイド男爵家で買って下さると聞いたのですが、宜しいでしょうか?」


「勿論よ。他の行商人に渡しては駄目よ。仕入れ元を限定しにくる人ってどこにでもいるから。前回来た時、ジャークス男爵に見つかって肝を冷やしたでしょう」


「はい。すごく怖かったです」


あのいきなり怒鳴りこまれる感じ、びっくりしちゃったもんね。それにしても僕ってしっかり隠れないといけないんだなぁ。

それとなく今までも言われてたけど、やっと実感してきたっていうか。そんな感じがする。


「カレールゥや珈琲だけでもね、カッスィーはひと財産築けるわ。だからね、なるべく見つからないようにするのよ。ただね、もうひとつだけお願いできるとするならば、アイスクリームをね、売ってあげて欲しいお家があるの。女性を味方につけると強いわよ。ねぇ、テッサ?」


「おっしゃる通りかと思います」


「でしょう。というわけで、シェリー・アフガンズ男爵令嬢を紹介します。取引用のタウンハウスは今用意中だから、ひとまずここで構いません。シェリーのお家の為に、軽く1000は欲しいのよ。大丈夫?」


「僕は大丈夫ですが、倉庫だと溶けてしまいます。ハイド男爵家の氷室へ入れて構いませんか?」


「今回は構いません。うちはパーティ用に広々としているし、氷室も広いからね。もしかしたらアフガンズ家と共同でここを使うかもしれないから、覚えておいて頂戴な」


「わかりました。では、この名簿の商品をまず倉庫に出して、その後氷室でアイスを出します」


「そうして頂戴。じゃあ、解散しましょう。そうね、3時のおやつは一緒に食べましょう」


「わかりました。楽しみにしています」


退室の礼をして、倉庫へ向かう。量は多いが、慣れた作業だ。金貨の分、商品を出す。利益の金貨はミラノさんが預かってくれるから安心だ。


「カッスィー。次、これの中辛を500ー!」


「はーい!」


テッサとふたりで役割分担しながら、最後にお酒を出して終わり。次はアイスだ。


「氷室へ行こう」


「寒いから上着着て行っていい?」


「あ、僕もそうする。客室に取りに行こう」


上着を取りに行って、氷室でアイスクリームを出す。

数がとにかく多いので、僕は出すだけ出してテッサに積んでいってもらう。

それでも手が足りないので、従僕の人に一人来てもらって、アイスの棚を整えて貰った。

積んでも積んでも終わらず、最後の1個を積んだ時にはすっかり体が冷えてしまっていた。

上着をちゃんと着込んでて良かったよ。テッサ、ナイス!


3の鐘が鳴り響き、おやつの時間だと知る。

慌てて上着を脱いで客室へ置いていき、応接室へ向かう。


ミクシーヌ様はもう来ていて、ゆっくり紅茶を飲んで寛いでいた。

僕とテッサが席に着いた後、ナッツのタルトが運ばれてきた。


「私のお気に入りのケーキなの。ぜひご賞味なさって」


ミラノさんが紅茶を入れて、配膳してくれる。ふんわりと、茶葉の良い香りが広がった。


「ナッツが香ばしくて、キャラメルが入ってる! サクサクしてて美味しい!」


「カスタードクリームが濃くてめちゃうまいです」


「気に入ってくれて嬉しいわ。シェリー・アフガンズ男爵令嬢との顔合わせは、カッスィー君のお父様とお母様がいらっしゃる時にしましょう。日程は手紙で確認するから、待っていて頂戴」


「わかりました」


「勿論、アイスをまた納品して貰うから、テッサも来て頂戴ね」


「おう。任せといて下さい」


「数が多い中、お疲れ様でした。気を付けて帰ってね。売り上げはミラノに渡したから宜しくね」


「はい。こちらこそ、ありがとうございました」


あっ。商人になるために師匠が必要なのか聞こうと思ってたんだった。


「ひとつお伺いしてよろしいですか?」


「どうぞ」


「僕のレアスキルは他の人とちょっと違っています。商人になりたいけれど、商人の師匠は必要なのでしょうか」


「私はいらないと思うわ。今も将来の為の実績として納品に来ているし、今とおんなじことを将来もすればいいだけよ。ただ、お兄様は違う事を仰るかもしれなから、聞いておいてあげるわ」


「ありがとうございます」


「では、またね」


お別れの挨拶をして、馬車に乗り込む。しっかり上着は着込んでいるし、忘れ物もない。


「テッサ?」


「これで取引先がどんどん増えるのがカッスィーの夢なんだろうなって思ってさ。取引の時に鑑定師は必須だろ? 大きいところはお抱えの鑑定師がいるから俺はいらないんだけどさ。今は練習の為もあって、俺を雇用してくれてるから、ありがたいと思ってさ」


「そっか。じゃあこの先は夢に繋がってるんだね。テッサは魔具職人の夢があるけどさ、時間が許す限り僕の鑑定師として雇われて欲しいな」


「何言ってんだよ。こっちからよろしく頼むよ。鑑定師で稼いどかないと魔具の素材が買えないからさ」


「あはは。じゃあ僕たち運命共同体だね。一緒に頑張ろう!」


「おう!」


僕たちは顔を見合わせて笑いあった。


「ミラノさんは、いいかんじにロールケーキ焼けたんですか?」


「誰に言ってるんだ。勿論だとも。キジもいいところいってるんだが、今頃また焼き直してそうだな」


「キジさんは完璧主義っぽい人だよね。おやつに食べたナッツのタルト美味しかった!」


「あれはうまかったな。俺も帰ったら試作してみるよ」


「サクっと軽い感じだったから、母さんはキャラメルをもっと濃くして甘くしたのを好みそう」


そう。最近知ったのだけれど、母さんは超甘党で、甘さの濃いケーキを愛しているのだとか。ミラノさんの焼くチョコレートケーキが超濃厚なのはそんな理由があったんだね。


「おっ、よく気づいたな。食べる人間に合わせて作るのも料理人の腕にかかってるな」


「新しいケーキ、母さん、喜びそう」


「食べる人に喜んで貰うのが一番嬉しいさ」


ミラノさんはにっこりと微笑んでいた。


僕も人を笑顔に出来るようなお仕事がしたいな。


そんな風に考えていたんだけれど。


──しくしくしく。

美しいブロンドの髪を結い上げた貴婦人は、シェリー・アフガンズ男爵令嬢。

白い肌に深緑色のドレスを身に纏った彼女は、一心不乱に涙を流している。


なんでー?! と僕は思わずにいられなかった。

お読みいただき、ありがとうございました。


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