寒い日にすき焼き鍋
今日は雪がちらほら降っている。
こんな日は、暖かいお弁当がいいよね。
そんなわけで、選んだお弁当はすき焼き弁当。
テッサのレシピ伝授により、お昼はすき焼き鍋をすることになったんだ。
「坊ちゃん、こりゃあうまい料理ですね。弁当でもうまいのに鍋にするなんて良い考えだ」
「美味しく作れそう?」
「任せといて下さいよ」
「じゃあ、材料はこれね」
僕は牛肉他、野菜も長ネギや春菊、豆腐に椎茸、しらたきをどんどん渡していく。牛脂も忘れずにね。
「こんな所かな」
「あと卵。溶き卵に煮えた具をつけて食べるんだ」
「へえー。変わった食べ方をするんだね。はい、卵」
「絶対うまいから楽しみにしてようぜ」
「うん!」
ミラノさんが大変そうだったので、僕はスキル【ネットスーパー】のテナントのケーキ屋からプチケーキの詰め合わせを選び、差し入れしておいた。
ミラノさんは甘味も大好きとのことで、大変喜んでくれた。
そんなわけで、昼食はすき焼き鍋。
ぐつぐつと熱い鍋が、僕らの前に置かれた。
割り下のいい匂いがして、肉も野菜も凄く美味しそうだ。
溶き卵を用意して、お肉を選んで卵につけて食べる。
「美味しいっ。何だか味に深みが増すね」
「あっつっつ。ねぎもうまい」
「二人とも、火傷しないように気をつけて下さいよ。肉を追加しとくんで、腹いっぱい食べて下さい」
「わーいっ。ありがとう、ミラノさん」
「いっぱい食うぞーっ」
お肉はテッサと奪い合いになるぐらい、美味しかった。野菜も美味しかったけど、やっぱりお肉だよね。ミラノさんが追加してくれて、喧嘩にならずに済んだよ。
「すき焼き、美味しかったーっ」
「じゃあそろそろ、締めのうどんいくか」
「うどん入れますよ。煮えるまで、少し待って下さい」
もう具は残っていないのに、そこにミラノさんは白いうどんを入れた。
「シメノウドンって何?」
「食べ終わった鍋の残ったスープを吸った最高にうまいうどんだよ」
よくわからないが、テッサの謎の自信に背中を押され、煮えたうどんを吸い込むように食べてみる。
確かに締めのうどんだ。
最後だからこそ色んな味を吸い込んだうどんがそこにあった。
僕は一心不乱にうどんを平らげ、食後のお茶でやっとひと息ついた。
「美味しかった」
「俺もうまかったーっ」
二人して大満足で、わけもなくニコニコしてしまう。
そこへ、ミラノさんがデザートのあんころ餅を持って現れた。
ころんとしたお餅をこしあんが包んでいる。
「あんことお餅が合ってる」
「うめぇ」
言うまでもなく最高に美味しくって、僕たちは大満足でした。
「テッサ。お前の親父さんが来てるぞ」
ヒヤッとした。
別に叱られてるってわけでもないのに、ちょっと背筋が伸びた。
テッサを見ると、眉間にしわを寄せていた。
「親父が、なんで……」
「ミスリルの件だそうだ。俺は詳しいことはわからないが、三人は応接室だ。特に呼ばれてないが、一応関係者だろう? 一声かけるくらいいいだろうさ」
「ありがとう、ミラノさん。俺、行くよ」
「僕も行くよ。僕のミスリルのせいかもしれないしね」
僕たちは二人で応接室へ向かった。
応接室の中では、ベンとフアラとテッサの父、ヤッコムが食後のお茶を楽しんでいた。
ヤッコムは年は30程だが、長くのばしたひげとたてがみのような髪型、がっちりした大柄な体系にブルーグレーのツナギ。貫禄のある見た目をしている。
「まだ幼いのに鑑定師として雇って貰えているだけでなく、貴重な鉱石まで売りに出して頂き、本当にありがとうございます」
「ヤッコムさん、頭を上げて頂戴。テッサは本当に頑張っていますよ。うちのカッスィーのスキルはわからないことだらけで、テッサがいてくれて本当に助かっているの」
フアラはこちらこそお世話になっています、と頭を下げた。
「そうだぞ、ヤッコムさん。ミスリルだって俺達には無用の長物だからな。あんたが打つのに使ってくれるなら万々歳さ」
「しかし、テッサがいうにはこれからもミスリルが買えるかもしれないと……。数があるなら、王都へ売った方が金になります」
「あのね、ミスリルはカッスィーのスキルから得られるんです。王都へ売ってしまうと、仕入れ元が問題になるでしょう? だから、ティティー村で消費してしまいたいの」
「貴金属が得られるスキルなど、火種にしかならない。わたしはそれを秘密にしたいんだ。無論、後見人のハイド男爵家には伝えているが、出来る限り内密に事を進めるように言われている」
ベンとヤッコムは、目を合わせて頷いた。
「そう言うことなら、買えるだけ買わせて貰います。冬の間なら後10、春に行商人が来てからならまた10ってところです」
「良い剣が出来ると、高値で売れるものね。楽しみだわ」
「ええ。頑張らせて貰います。あとファウト鋼は練習に使えるんで、いくらあっても買い取ります」
「魔導コイルも多いけれど、大丈夫?」
「そっちは主に、テッサが買い取ります。俺も魔導コンロの修理位は出来るが、他はさっぱりで。魔具職人の修練をどうしてもするんだって、聞かないんですよ」
「魔具職人になることを許したの?」
「いいえ。まだですが、なかなかいいナイフを打ってましてね。ちゃんと修行をサボらずやってるし、夢を見ることは許す事にしたんです」
「テッサは頑張り屋さんだもの。夢を叶えてしまうかもしれないわよ?」
「その時はその時です。今日はありがとうございました」
コンコン
「どうぞ」
「カッスィーです。失礼します」
「あら、テッサもいるのね。丁度ヤッコムさんも帰るところだったの。あなたも帰る?」
「ええと、話は終わったんですか」
「カッスィー、お前のミスリルを買い取って下さるヤッコムさんだ。ご挨拶をしなさい」
「カッスィーです。僕のミスリルを買い取って下さり、ありがとうございます」
「俺は良い剣を打つしか出来んが、カッスィーのスキルは色んな物が出て凄いな。かのスキル【物々交換】のようだ。子供なのに立派なものだ」
「親父が誉めてる……珍しい」
「お前は自分に必要なものを売って貰いなさい。帰るぞ」
「はい。魔具に必要な素材は全部買い取るので、宜しくお願いします。失礼します」
ヤッコムさんに連れられて、テッサは帰って行った。
テッサの後ろ姿は誇らしげで、父親を慕っている姿が見て取れた。
「テッサはヤッコムさんに認めて貰えたのかな?」
「良いナイフを打つと誉めていらっしゃいましたよ」
「良かった……! テッサ、凄く頑張っていたから。認めて貰えて良かった!」
「まだ夢を見ることを許すだけだそうだ」
「家出してくるより全然マシ! テッサは夢を叶えると思う」
「未来はわからんがな。ハイド男爵家への納品は明日だっただろう。カッスィーも頑張りなさい」
「はい、父さん」
僕にも、夢がある。商人になる夢だ。
僕は普通の商人と違うけれど、何処かへ弟子入りするんだろうか。
明日、カッペラード様に聞いてみよう。
お読みいただき、ありがとうございました。
もし面白い! 応援してるよ! と思ったら、
↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!




