貯めるか回すか
それから5日後、とうとう食堂の新メニュー御披露目の会が行われることになった。
ティティー村は小さな村だから、村人みんなが楽しみにしてる娯楽でもある。
ご飯メニューやスイーツだけでなく、カッスィーから仕入れたウィスキーも売りに出すのだそうだ。
そんなウキウキな空気の中、どんよりしているのが一人。
【ログインボーナス・7日目】
【緑茶を手に入れました】
【ガチャ回数券7枚を手に入れました】
【1回ガチャを回しますか? Yes or No】
スキルウィンドウを見つつ、カッスィーは途方に暮れていた。
ガチャという見た事のないメッセージが増えていたからだ。
ここ5日程は毎日緑茶を受け取っていて、例外は昨日珈琲が出たこと位だ。
それだけでも少し慌ててしまったのに、ガチャを回しますか? という質問に、何も考えずYesを押す気にはなれなかった。
テッサを呼び、メッセージの内容を説明する。
「へぇ、ガチャか」なんて訳知り顔で頷いていたけれど、「10枚貯めたいけどどうするか……」と勝手に悩み始めてしまった。
父さんと母さんはカッスィーの好きにしていい、と言ってくれた。
しかし大前提としてガチャが何かわからないのである。困ったときのテッサ様。始めから聞いていくよ!
「テッサ。ガチャって何?」
「んー。ランダムで何か貰える遊戯ってとこかな。危険はないと思う」
「ないと思うって……。じゃあ、何が貰えるかわかる?」
「いや、わからない。やっぱり1回やってみようか」
「うん。やってみないとわからないよね。じゃあYesを押してみるね」
【1回ガチャを回しますか? Yes or No】
これのYesに指を合わせて押す。
すると、メッセージが切り替わった。
【ガチャを回します】
丸い絵が出てきてぐるぐると回り、3枚のカードがやがて表示された。
白いカードが3枚で、順番にほのかに光っている。
カッスィーは真ん中のカードを選んだ。
横でしっかりテッサがアシストしている。
カードは裏返り、何やら石のような絵が書いてある。
【ファウト鋼を手に入れました】
僕はファウト鋼に指を合わせ、虚空から出てきた石のようなものを受け取った。それをテッサに渡す。
「出来たよ。……テッサ?」
「す、すげえじゃん、カッスィー! ファウト鋼は鍛冶でも使うけど魔具作成で使うこともあるんだ。そんなに高値がつく鉱石じゃないけど、俺からしたら間違いなく当たりだよ」
「じゃあ、良いものなんだ。良かったぁー」
「品質もいいし、俺に買い取らせてくれよ。魔具の材料はいくつあってもいいからさ」
「いいよ。じゃあ、もう一回やってみようか」
「多分10枚貯めると良いやつが出るかもしれない。どうする?」
「じゃあ、もう一回だけ。後5枚残るから、次は10枚貯めてみるよ」
「わかった。いいの当たれよ~」
カッスィーを拝み始めたテッサを尻目に、僕はガチャを回した。
【ログインボーナス・7日目】
【緑茶を手に入れました】
【ガチャ回数券が6枚あります】
【1回ガチャを回しますか? Yes or No】
Yesを押して、ぐるぐると回る丸い絵を眺める。
やがて白いカードが3枚表示された。
今度は左のカードを選んでみた。
カードはくるっと裏返り、枝のような絵が表示された。
【魔導コイルを手に入れました】
魔導コイルに指を合わせて、虚空から出て来たものを受け取る。
木の枝のような金属の塊をテッサに渡すと、早速鑑定していた。
「魔導コイル、品質・良。これは魔具職人必携の素材なんだ。ていうかカッスィーって賢者様なの?」
「使える素材なんだね。良かった。って、賢者様ってなんで?」
「賢者様が魔具職人に捧げた素材で魔導コンロが出来たって有名だろ。その素材が魔導コイルなんだ」
「ええーっ! それってスキル【物々交換】の賢者様じゃん! 魔導コイルってそんなにすごい素材なの?!」
あんまりにもびっくりしたので、魔導コイルをそっと床に置き、距離をとる。
「いや、貴重だったのは当時で、今は普通に出回ってるよ。平民の家にも魔導コンロはあるんだしさ、値段は安いけど……」
「はーっ、びっくりした。昔話の話なんだね」
「俺はカッスィーが賢者様でもいいけどな。これ、売ってくれるんだろう?」
「勿論いいよ。一応父さんに聞いてみるけど。賢者様はやめてよね。なんか目がキラキラしてるよ」
「そりゃあダチから魔具素材を仕入れられるようになったんだ。嬉しくてたまんないよ」
「それだけ嬉しいんだね。わかった。好きにしてよ、もう」
テッサを放置し、スキルウィンドウの文字に向き直る。
【ログインボーナス・7日目】
【緑茶を手に入れました】
【ガチャ回数券が5枚あります】
【1回ガチャを回しますか? Yes or No】
Noを押して、緑茶を受け取る。
その後は、いつものスキル【ネットスーパー】の画面に戻っていた。
今まで表示されたメッセージをメモして、出た素材を持って父さんの執務室へ行く。
内容を説明すると、何とかわかって貰えて、素材もテッサに売って良い事になった。
詳細はカッペラード様に相談するらしい。
いつも面倒をかけて申し訳ない。
気を取り直して、今日は食堂の新メニュー御披露目の日だ。早速広場へ行こう。
広場に行くと、ルビアがひとりでベンチに座っていた。ガイは見当たらない。店の手伝いをしているんだろう。
「ルビアーっ」
「遅いよ、二人とも。もう御披露目始まっちゃうよ」
「ごめん、ちょっと野暮用で。もうすぐお昼時だし、中に入ろうか」
「うんっ」
ルビアの弾む声と会話しながら、食堂の入口をくぐると、ほとんど満席だった。
ガイが飛んできて、予約席に案内してくれる。
すると暫くして、中央にニネさん夫婦が出て来た。
「お集まりの皆さん。常連の皆様も含め、お陰様で新メニューを開発する事が出来ました。誠にありがとうございました。今日新しく御披露目させていただくのは、12種類あります。好きなものを頼んでください」
「特にデザートのガトーショコラはうちのガイが焼いています。ぜひ賞味してみて下さいね」
パチパチパチ。
拍手と共にニネさんは厨房に引っ込んでいき、女将さんがオーダーを取り始める。
「贅沢プレートは先着5名だよ! はい、毎度あり。デザートは何にする?」
聞かれているのはギネーさん。ルビアの父親だ。今日は夫婦揃って来ていたらしい。
「私は中華飯セットで。デザートは二人ともチョコレートパフェでお願いしますよ」
「はい、毎度あり!」
「こっちはコロッケとウィスキーを頼む」
「俺も贅沢プレートお願い!」
店内は熱気を増してギラギラしている。
早速ウィスキーの注文が入ったみたいだし、幸先は良さそうだ。
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