もっとおいしくなぁれ
ミラノさんとキジさんが作ったチョコレートパフェは、見た目も美しく飾り切りされたフルーツが見事で、食べるのが勿体ない仕上がりだった。
打ち合わせの時はバナナだけだったが、リンゴとブドウも載っている。アイスはチョコナッツアイスとバニラで、コーンフレークの下にヨーグルトが入っていた。
「すごく美味しいっ! チョコナッツアイスが美味しい」
「うまい! アイスも果物もうまいし、コーンフレークがサクサクしてて、ヨーグルトでさっぱり食べられる」
お昼寝から起きた僕とテッサは、3時のおやつに出して貰ったデラックスチョコレートパフェに舌鼓を打っていた。
「ん~~っ! 幸せ~~っ!」
クリームがたっぷり絞ってあって、そこにチョコレートソースがかかってるんだよ。
これは美味しいに決まってるじゃない!
ホイップクリームって見てるだけで幸せになれる位、おいしそうだよね。
デザートといえば、ルビアが思い浮かぶ。
紫の髪にツインテールが可愛い僕らの幼なじみ。
彼女は甘味が大の好物なのだ。
こんな素敵なスイーツを、僕とテッサで独り占めしてるみたいでちょっとだけ後ろめたい。
このデラックスチョコレートパフェを是非ルビアにも食べさせてあげたいな、と思いつつ、僕はスプーンを進めた。
考え事をしていたせいか、ほっぺたにクリームがついちゃった。ナプキンで拭き取りつつ、テッサの様子をうかがった。
テッサは、バナナを最後まで残しておいて、底までいったら一気に食べ、完食していた。
嫌いな食材は使ってないはずだけど……。
「テッサ、どうしてバナナを残していたの?」
「好物だから、かな。苺のショートケーキも苺を残しておく方なんだ。カッスィーはすぐ食べちゃうだろ?」
「うん。僕は先に食べちゃうタイプだね」
テッサはショートカットの髪にくるりと指を回すと、真面目な顔で「これポッキー挿すといいかもしれない」と、のたまった。
「ポッキーってなに?」
「カッスィーのスキル【ネットスーパー】で買えるお菓子だよ」
そんなテッサのアイディアを聞き咎めたのは、控えていた料理人のキジさんだった。
「ぜひ出していただけますか? お代はこれでどうでしょう?」
そう言ったキジさんの手に握られていたのは、銀食器のカラトリーだった。
スキル【物々交換】と間違われている。カッスィーはちょっとむっとしてしまったが、努めて冷静に言葉を紡いだ。
「キジさん……そのカラトリーをしまってください」
「ではやはり宝石の方が良いでしょうか?」
「いいえ、銅貨3枚です。僕はスキル【ネットスーパー】なので、宝石ではなく、お金が必要になるんです」
「なんと。虚空からものを出すと聞いたもので、すっかりスキル【物々交換】だと思ってしまいました。銅貨3枚ですね。ではこれで良いでしょうか」
「はい。確かに頂きました」
「では、この素晴らしいスイーツを考え出したお子様達です。ぜひ次善の案をお聞かせください」
「まず、出しますね。ポッキー……はい、これです」
「完成形に2、3本差してみてくれ。勿論食べられる」
「承りました。では失礼します」
退室の礼を取り、キジさんはポッキーを大事そうに抱えていった。
「ルビアに御披露目する頃には、とんでもなく豪勢なデザートになってそうだな」
「テッサもそう思った?」
「勿論ガイも忘れてないけど、デザートに目がないのはルビアだからな」
「そうだね。御披露目が楽しみだよ」
そんな事を話していたら、カッペラード様に呼ばれた。案内の人についていき、応接室に入る。
重厚な格式高い室内には、真ん中の机を挟むように、4人掛けのソファがある。
向かい側に座ったカッペラード様に対し、僕達はふたり並んで席に着いた。
横に控えていたミラノさんが、お茶を入れてくれる。
「やあ。呼び出してすまない。うちの料理人が失礼したね。カッスィー君のスキル【ネットスーパー】への説明は、あえてぼかしてあるんだ」
納品したての美味しい珈琲の匂いを嗅ぎながら、僕達は説明に耳を傾けた。
どうやらスキル【ネットスーパー】だけでも、有権者にとってはとても使い勝手が良く有用なスキルであるらしい。
余りにも注目されると、誘拐等もありえる為、スキル【ネットスーパー】は、スキル【弁当交換】として説明しているとのこと。
この辺は父さんと母さんにも聞いていた話だ。
そしてケーキも出せるようになり、ますます需要は高まるばかりである。
スキルが進化することはままある為、ケーキが出せることも誤魔化せる。
なぜ誤魔化すかというと、使い勝手の良い倉庫扱いや、悪くすると奴隷のような待遇で捕まってしまうことも考えられる。
そのため、ハイド男爵家で庇護しているスキル【弁当交換】としてただ、お弁当を出すだけのスキルとして、埋没していて欲しい。
カッペラード様の言い分は真っ当で、文句の付け所がなかった。
僕は在庫を抱えていない商人というものが、どれだけ利ざやを生むのかをまだわかっていない。
それにしても捕まるなんて真っ平御免なので、ハイド男爵家の方針に異論はない。
ただ、虚空からものを出すところを多数の人間が見ているため、スキル【物々交換】という噂も立ってしまっている、とのことだ。
さっきのキジさんもその一人で、不快な思いをさせて申し訳ない、と謝罪してくれた。
「僕は大丈夫です。スキル【物々交換】と間違われるのにも慣れています」
「これからもその手の人間は増える一方になるだろう。しかし、身柄の安全第一でやっていこう」
「はいっ。宜しくお願いします」
「難しい話はここまでだ。チョコレートパフェはどうだったかな?」
「すっごく豪華で、美味しかったです! 特にチョコナッツアイスが絶品でしたっ」
「俺は飾り切りのフルーツが綺麗で、感動しました。透明の器も美麗で、ティティー村でも良い器を用意したいと思いました」
「喜んで貰えて良かった。美麗な器に似合うスイーツだったね。それと何かを追加したんだって?」
「細長い焼き菓子にチョコレートがかかったお菓子です。2、3本差しておくと、見た目も味も良くなりそうだったから」
「ミラノはどうだった?」
「見栄えも良く、より美味しくなったように思います」
「ではその菓子も交易品に入れてくれるかい? 今度のパーティで出そうと思ってるんだが、華やかな方が喜ばれるからね」
カッペラード様はその端正な顔で微笑みながら、楽しげにそう言った。
僕は珈琲にミルクと砂糖を入れて、ちびちびと飲みながら、貴族のパーティを思い浮かべてみた。
きっと美味しいものがいっぱい出るのだろう。
それぐらいしか思い付くことはなかった。
カッペラード様の経営するケーキ屋さんでもチョコレートパフェは販売するそうで、違うフレーバーのパフェを、考案中らしい。
僕は苺のショートケーキが好きだから、苺のパフェを希望しておいた。スポンジとバニラアイスに沢山の苺。生クリームもたっぷり絞ってね。
テッサはマロンパフェを希望で、栗をペースト状にして、ぎゅっと絞るんだって。これは僕のスキル【ネットスーパー】で、マロンケーキを出して、食べながら解説していたよ。
ミラノさんも一緒に作るらしくって、張り切っていたよ。
その後、キジさんも加わり、苺パフェは苺アイスを使うことになったり、チーズケーキの乗ったチーズケーキパフェも出来上がった。
出来たレシピは買い取って貰えたのでホクホクだ。
つい時間を忘れて熱中してしまったけど、夜ご飯の回鍋肉定食は、たいへん美味しかったです。
キジさんへレシピの伝授も順調らしい。
キジさん自身がミラノさんを誉めまくっていて、このお屋敷に残って欲しいとまで言われていた。ミラノさんは丁重にお断りをしていたので、僕はほっと息を吐く事が出来た。
ミラノさんがいないなんて、考えられないからね。
有能な人材は求められる。
これってそういうことだよね。
僕もそう言った意味で、人に求められているのだ。
貴族の言葉は、平民にとって命令だと聞いていた。
ハイド男爵家の人は、こちらの意図を組んでくれるから、困ったことがない。
そうじゃない場所に捕まったら怖いよね。
どうしたらいいのかと思ったけれど、不用意にサインをしたりしなければ大丈夫らしい。
何かあったらすぐ連絡が欲しいとも言われた。
先々不安が募るけれど、これ以上の策を用意するとすれば、ハイド男爵家に養子入りする事になるそうだ。
それはちょっと困っちゃうな。
テッサだって有名なスキル【鑑定】持ちだから、危険なんじゃないだろうか。
それをテッサに言ったら、今更だと言われた。
危ないことは危ないけれど、知名度がある分強硬に誘拐などを行う人間は少ないらしい。
平民だと無料奉仕させられる事があるらしいが、ハイド男爵家はしっかり報酬を支払っている。
テッサと僕はハイド男爵家が後見人となる。
貴族の庇護に入っているからこそ、安全なんだと聞いた。
元々心配症な僕のことだから、考え過ぎたんだと思う。
夜は疲れ切って、すぐ寝てしまった。
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