納品とケーキ
昨日も早朝から呼んだテッサを、今日も早々と呼んでしまった。
メモを見せて、不可思議なメッセージの現状を訴える。
【ログインボーナス・1日目】
【緑茶を手に入れました】
このメッセージも同じで、表示中は取引をすることが出来ない。昨日と同じだ。
「テッサ、どう思う? 昨日の対処に不備があったのかな……」
「違うと思う。昨日、進化しましたって表示されてたじゃん。だから、これも進化の一部だと思うよ。緑茶受け取った?」
「いや、まだ……」
「たぶん1日目ってことはこれから毎日出て来るメッセージになるだろうから、慌てず騒がず貰えた物を受け取って終わりだよ。大丈夫、おかしくない」
「毎日?!」
「ログインボーナスってそういう事だと思うよ。毎日スキルを起動してね」
テッサは真面目な顔をしてそう言う。
「それはわかったけど……。教会の人に聞かなくて大丈夫かな? 二日続けてこんな表示が出るなんて、おかしくない?」
「昨日進化して今日1日目ってだけだと思うよ。カッスィーは教会に見て貰いたい? どうせ王立学園に入る時に、教会の人も来るしその時で良くない?」
「わかった……そうする。受け取ってみるね」
ログインボーナス、と書かれている文字の下、緑茶という文字に触れると、500mlのペットボトルのお茶が1本、虚空から現れた。それをキャッチしてみると、文字は消えており、ネットスーパーもいつも通り使えるようになっていた。
「文字、消えたよ」
「ほら、大丈夫だったでしょ。毎日何か貰えるスキルだと思えばいいじゃない。毎日お茶じゃなくって違う物が出るかもしれないけど、そういうものだと思うしかないよ、カッスィー」
「うん……。テッサは、楽しそうだね?」
「毎日何か貰えるなんてお得じゃん。何が貰えるか毎日楽しみじゃね?」
「そっか。そういう考え方もあるんだね。毎日憂鬱だな、なんておかしいもんね」
「そうだよ。せっかくのレアスキルなんだからさ、前向きに行こうぜ」
「そうする。じゃあ、今日はハイド男爵との取引だね。早速向かおうか。ミラノさん呼んでくる!」
父さんと母さんにログインボーナスの件も無事に解決した事を報告し、取引の場所であるハイド男爵のタウンハウスへ向かった。
道中、納品するレシピに合う飲み物をミラノさんと考えながら過ごした。
到着したのは丁度お昼時だった。
「ようこそ、ハイド男爵領へ。カッペラード様がお待ちです。どうぞ中へ」
客室に通され、旅装を解いて身支度を整え、昼食に招かれた為、食堂へ向かう。
「お招きいただきありがとうございます」
「ミラノも楽にしてくれ。今日は唐揚げ定食を作らせたんだ。客人として味わって欲しい」
「はっ。かしこまりました」
「カッスィーのスキルに変化があったそうだね。君のお父さんから手紙を貰っている。とても興味深いけれど、体調に異変はないかい?」
「はい。体調は元気です。あと唐揚げ定食、すごく美味しいです」
「それは良かった。ミラノはどうだい?」
「俺とは揚げ時間が違うくらいしか思いつきません。悪い意味じゃなく、良い意味です。とても美味しいです」
カッペラード様は長い髪をたなびかせ、眼鏡をきらりと光らせた。
「それは良かった。最近カレーの店だけじゃなく唐揚げの店も作ったんだが、客入りも上々で売り上げも伸びている。今日も色々とレシピを買い上げさせて貰いたいのだが、ここの料理人、そうキジという料理人なんだが、彼に教えてやってくれないか。レシピだけではなかなか習得が進まないそうでね」
「キジといいます。料理人になって五年目です。どうぞ新米だと思って厳しいご指導、宜しくお願いいたします!」
「威勢がいいな。わかったキジ、レシピはかなりあるがデザートも教えていいのか?」
「俺は元々菓子職人を目指していたんです。今は料理全般を受注できる料理人を目指して修業してます。望むところです」
退室の許可が出ると、ミラノさんはキジさんと一緒に食堂を出て行った。これから料理のレシピを作るんだろう。
食後のデザートはプリンアラモードだった。ミラノさんの味で、とても美味しかった。
応接間で打ち合わせをした後、倉庫へ行き、購入された数だけカレールゥ、ホットケーキミックス、珈琲、緑茶、食材と数えきれない程出していく。
最後に小豆をあと数袋、出している時に、またあの音がした。
リリン♪
【レベルアップ!】
【スキル ネットスーパーは進化しました】
【テナントを選んで下さい】
【ケーキ屋 or 宝飾店】
「ええーっ、レベルアップしたばっかりなのに、なんでーっ」
「カッスィー、その様子だとレベルアップしたんだな。おめでとう。テナント何が選べるって?」
「ケーキ屋か宝飾店……」
「将来宝飾店は欲しいけど、今すぐはケーキ屋のほうか?」
「テッサは冷静だねぇ。父さんに相談出来ないけど、ケーキ屋にするよ」
「選ばないとネットスーパー使えないもんな。カッペラード様と俺、面談だから伝えておくよ」
「よろしく。うわーっ、ケーキがいっぱい選べる!」
「何個か出してくれるか。持って行った方が早いだろ」
「わかった。じゃあ、フルーツタルトとチーズケーキと、デラックス苺のショートケーキをどうぞ」
「じゃあ、いってくる」
取引内容を全部出し終わって、お茶を出して貰っていると、カッペラード様に呼ばれた。
応接室に行くと、テッサが泣いていた。
「ひっく……っ、ってなんだよカッスィー、俺だってたまには泣くよ」
「泣かされたの? 大丈夫?」
「喧嘩じゃあるまいし違うよ。王立学園で師匠を探すにしても、魔具職人って素材の確保が難しいんだ。そしたらカッペラード様が後見人になってくれるって言ってくれたからさ、嬉しくて」
「嬉しかったから泣いてたんだ。良かったーほっとしたよっ」
「親父とはまだまだ話し合いしていくけど、俺、諦めないよ」
「うん。でも安易に家出するのはやめてね。ちゃんと話し合うんだよ」
「ちぇ。さっきまで狼狽しきってたくせに」
「そうだ、カッスィー君、またレベルアップしたんだって? おめでとう。さっそくケーキを頂いたよ。ミクシーヌが泣いて喜びそうなスキルだね」
「ありがとうございます。でも僕には何が何だか……」
「テッサ君も言っていた通り、良いことだと僕も思うよ。それで、明日のログインボーナスに変化があるかもしれないだろう? だから今夜は泊っていきなさい。あと、明日でいいんだが、今日と同じか二倍くらいの量を出して貰いたいんだ。特に今回初めて取引する珈琲がいいね。付き合いのある家に少量ずつだが売りに出すことになったんだ。頼めるかい? それと、この件も含めてちゃんとお父さんのところに手紙を送ったから安心しなさい」
「わかりました、カッペラード様」
「よろしい。おやつの時間にはミラノとキジが作ったチョコレートパフェが出るからね。少し部屋で休んでいなさい」
「はい。失礼します……」
バタバタバタ……バタン。
「なんだね。騒々しい」
「キジです。失礼します。カッスィー様がお帰りになる前にぜひ全種類のケーキをお出し頂ければと思い、進言に参りました!」
キジさんはブルーグレーの瞳に金髪で、すらりとした体躯をしている。
「カッスィー君、気にしなくていい。勿論ミラノが先に試作したがるだろう。キジはその後だ。わきまえなさい」
「そういえばそうでした……。すいません、俺ケーキがめちゃくちゃうまかったから感動しちまって……っ」
「気にしないでください。おいしかったのなら良かったです。ケーキの試作は、ミラノさんと相談して頂ければと思います」
それにお昼寝をしたらおやつの時間なのだ。新しいケーキはそれからでもいいだろう。
「では、失礼します」
退室の礼をして客室へ下がる。ベッドに沈み込むと、赤い目で笑っていたテッサの顔が思い浮かんだ。
テッサはカッスィーより先に下がっているので、もう寝ているだろう。
魔具職人への道はたいへんなものなのだろう。でも、泣くほど夢中になれる事があるんだもの。そっちの方がきっと良いことだと結論付けて、カッスィーも目を閉じた。
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