ダンジョンとかき揚げ丼
「そろそろ時間だぞ~」
「はーい」
朝9時に集合し、ガイを先頭にダンジョンへ出発。ダンジョンに着くと、昨日と同じように敵を倒していく。
「順調だな」
「うん」
地下2階に入り、戦闘をこなしつつ、地下3階への階段を見つけた。
地下3階は開けた山のようだった。
そこに、砂の固まりのようなサンドゴーレムがいた。
打撃をくらうと痛いので、しっかりガイが前衛をこなす。そこにルビア、テッサ、カッスィーの攻撃が合わさり、サンドゴーレムはなすすべなく崩れていった。
「テッサが欲しいのって、この魔石?」
「いや、たまに落とす鉱石があるんだ。それ狙い」
「じゃあ、数倒して行こう」
「うん。頑張ろうね」
テッサの希望は4人で力を合わせて戦った結果、叶えられた。
1時間ほど戦い続けて、やっと1つ出たのだ。
「やったぁ!」
「出て良かった」
「良かったね」
「ありがとう、みんな」
「目的も達成したことだし、一度宿に戻って昼飯を食おう。それでいいか?」
「はーい」
エドさんの号令でサンドゴーレム狩りは一旦休憩。ガイを先頭にして帰路についた。
宿屋に戻り、部屋で一息着くとカッスィーがお弁当を持ってきた。
今日のお弁当はかき揚げ丼。ごはんの上に豪快なかき揚げが乗っており、ソースがかかっている。
「うまーい! 玉ねぎが甘くて、海老もプリプリ!」
「あまじょっぱいタレがかき揚げとご飯を食べやすく纏めているな」
「テッサが作ってくれた箸も使いやすい」
「一気に食べちゃった……デザートが楽しみ……」
「デザートは黒糖饅頭だよ」
「うまいな、これ」
「皮が薄くてあんこをしっかり楽しめるのがいいね」
「カッスィー、もういっこ食べたい」
「はい、どうぞ」
「うまかった。ありがとうな、カッスィー」
「どういたしまして」
食事を終えた僕等は、午前中と同じようにダンジョンに向かった。
地下1階の血吸い蝙蝠にもだいぶ慣れており、怪我を負うことなく通り抜けられた。
地下2階ではテッサが打撃を受けてしまったが、エドさんのポーションで即時回復する事ができた。
地下3階に着いて、またサンドゴーレム狩りを始める。
ルビアの伸びやかな詠唱と、カッスィーの弓が風を切る音がダンジョン内に木霊する。
その後1時間もせずに、テッサの目標である鉱石が出たため大変盛り上がった。
ゼリー飲料で休憩し、もう少しサンドゴーレムを倒した後、時間なので戻ることになった。
ガイを先頭にして、滑るように階段へと歩いていく。
その途中で、怪我をしてぐったりしている冒険者を見つけた。年の頃は15、6。壁を背にして座り込んでおり、女性がふたりに男性がひとり。よく見るとここはボス部屋で、カッスィー達は挑まなかった扉があった。血のにおいと薬草の強いにおいに、つい顔をしかめてしまう。
「……なんで、ポーションを飲まないの?」
ついルビアが尋ねてしまったが、気持ちはわかる。
カッスィーも此方を見た女性冒険者に視線を合わせた。
「見りゃわかるでしょ。使い切っちゃったのよ。今、仲間が外に買いに行ってるわ」
「ギガントグリズリーにやられたのか?」
「そうよ。サンドゴーレムだけじゃなく、ギガントグリズリーまで出ると思ってなくて。初心者ダンジョンだからって甘く見てた罰が当たったわ。あんた達はせいぜい注意する事ね」
「忠告、有り難く。さぁ、みんな行くぞ」
冒険者は自己責任。ダンジョンに入る前にエドさんに言い聞かされた事だ。安易に人に頼ってはいけない。悪い人だっている。だからエドさんはポーションを売ってあげないんだろう。
こんなとき、スキル【物々交換】ならば、何かと引き替えにポーションを出してあげれたんだろうか。
その後はスムーズに宿屋までたどり着き、各自部屋で夕食まで休憩になった。
カッスィーは、人の血のにおいで気分が悪そうだったルビアを見舞うと、いちごみるく味の飴を袋ごと手渡した。
「カッスィー、美味しいよ。ありがとう」
「どういたしまして。気分は良くなった?」
「もう大丈夫。私たちってあんまり怪我してなかったでしょう? だからビックリしちゃって。ボス部屋って怖いんだね」
「そうだね。エドさんがいなかったら、僕等もああなってたかもしれないね」
「言うこときいといて良かったね」
「僕のスキル【ネットスーパー】に、ポーションがあれば売ってあげれたのにな。僕、あんまり役に立ってない気がする。もちろん、補給係りとしてだよ」
「どうしてそう思うの? 私たちはカッスィーだから、安心してお水も飲めるし、お菓子も美味しいんだよ」
「俺のスキル【鑑定】のせいじゃなくって、もうカッスィーだから大丈夫って安心感があるんだよな」
「ふたりとも……ありがとう。具合悪いとこ、愚痴っちゃってごめんね、ルビア。テッサもありがとう」
「気にすんなよ。ついでに炭酸のコーラ出してくれるか? 2本頼む」
「なあに?それ」
「1本どうぞ」
「うわぁ、シュワシュワしてる……ごくごく。ぷはーっ、おいしい!」
「ごくごく。うん、うまい」
「良かった」
美味しいと語る笑顔、そうか。ダンジョンの中で商売をするわけじゃなく、こういう笑顔を守りたいんだ。ダンジョンの外で出来ることをもっと大切にしよう。カッスィーは胸に刻んだ。
気を取り直して、宿屋の夕食はオークの煮込みを堪能し、パンを平らげた。
デザートはおかみさんの焼き菓子で、特にルビアが喜んでいた。
皆疲れていたようで、そのまま就寝し、翌朝。
「おはよう、みんな。帰り支度は済んでいるな? 行こう」
エドさんの号令で宿を引き払い、町の外へ向かう。
「エドさん、私お土産買いたい」
「いいぞ、まだ時間はある」
「俺、串焼き食いたいーっ」
「みんな、ちゃんと朝飯は食ったろ?」
「食べたけど、肉串の旨いやつは別腹だよ」
「じゃあ順番に回ろう」
「はーい」
ルビアは木工細工と焼き菓子を買ったみたいだ。
美味しい肉串はみんなで食べて、魔石換金した後、町の出口へ向かう。ランダさんとの待ち合わせ時間にちょうど良かったらしく、難なく合流出来た。
馬車に乗って進むことしばし、昼休憩になった。
馬車から降りて、食事の準備をする。
今日のお弁当は、ハンバーグ弁当。
皆に配膳すると、カッスィーもハンバーグにかぶりついた。
「うまい!」
「お肉が柔らかくて、ソースが美味しい」
「おいしい」
「米に合うけど、パンでもうまそう」
「ハンバーグもうまいが、付け合わせのパスタもうまいぞ」
「これも唐揚げみたいに食堂で出したいな~」
カッスィーはハンバーグのソースをペロリとなめて、ミラノさんに絶対再現して貰うんだ、と夢想する。3段重ねなんていいじゃない? パスタも山盛りにしてその上に唐揚げも乗っけたい! あとコロッケも忘れちゃいけない。
……ふと見ると不機嫌そうなルビアの顔。ああ、ハンバーグの夢に夢中でデザートを出していなかったよ。
「今日はちょっと肌寒いけど、アイスクリームなんてどう?」
「テッサ、それなあに?」
「冷たくて甘い菓子。俺は好きだよ」
「むむ……うわぁ! すぐ溶けちゃった! 甘くてスッゴくおいしい!」
「これぐらいの寒さなら氷菓もうまいよね。カッスィーわかってるぅー」
「これもうまい! カッスィーのスキル【ネットスーパー】ってうまいもんしか出て来ないんだな」
なかなかグルメなガイに褒められ、まんざらでもないカッスィーは、とっておきの甘い珈琲を出してあげた。
「珈琲っていうのか? すげぇいい匂い! そんでうまい! 苦いけど甘いモンの後だから、余計うまく感じる」
ガイが大喜びだったから、ルビアとエドさんも気になったみたいだ。
「いい匂い。香ばしくっておいしそう。私も飲みたいな」
「甘いやつで良い? 苦いのもあるよ」
「私は甘いやつで!」
「俺は苦いのを貰えるか」
「はい、どうぞ」
「あまーい。ちょっと苦いけど、おいしいね」
「これは……うまい。苦味がスッキリしてる」
「おいしいよね。僕は甘い珈琲が好きなんだ。苦いのは、コーヒーゼリーっていうデザートにしてもらって、甘いホイップクリームと一緒に食べると美味しかったよ」
「腹はいっぱいだけど、聞くと食いたくなるな」
「珈琲は飲み物として、食堂でどう? ホットケーキやチョコケーキとも合うと思うよ」
「おおー、良い考えだぜ! 戻ったら少し売ってくれよ」
「勿論いいよ。楽しみだね」
「おう!」
新たな好物の予感に僕たちは色めき立った。
珈琲と一緒に、さっき考えたハンバーグ3段重ねも作って貰えないだろうかと、ちょこっと思い付いたので、帰りの馬車でなにを乗せるのかを論じ合った。
そう、第1回特別なメニューを作ろうの会(仮)、勃発である。
無論のこと、デザートに余念が尽きないルビアによって、新たなデザートも考え抜く事になったが、これにはエドさんも加わり、チョコレートを使ったスイーツとなった。
結果、大ボリュームな贅沢プレート(小さめなハンバーグ3段重ね、ソーセージ、ベーコン、唐揚げ、パスタ、コロッケ)と、チョコレートパフェ(コーンフレーク、アイスクリーム、バナナ、ホイップクリーム、チョコレートソース)の案が固まった。
贅沢プレートはピラフを付けるかどうかで悩んでいる。
チョコレートパフェは冬季限定で氷室を使えば、アイスクリームを仕入れられる。
テッサも張り切って案を出していたし、間違いなくおいしそうなので、帰宅したらまず村長宅で試作することに決まった。
あんまりにも熱中したせいで、贅沢プレートの案から漏れた餃子を夕食に出したけれど、好意的に受け取って貰えた。
なるべく新しいメニューを選んでるんだけど、また食べたいものってあるよね。
ご飯はお肉が欲しいとのことだったので、カルビ弁当にした。
「お肉がおいしーい」
「ご飯と合うね」
「柔らかいお肉で、味の濃いソースがおいしい」
「餃子も美味しいね」
「カッスィー、餃子おかわり貰えるか。おまえ達の話を聞いてたら腹が減ってな……」
「もちろんです。どうぞ」
「ふふっ。贅沢プレート、楽しみだね」
「ルビアはチョコレートパフェだろ?」
「絶対おいしいもの。ね、テッサ」
「ああ。間違いない」
「スキル【鑑定】持ちのテッサがいうと、そうなんだなって気がしちゃうね」
今日のデザートはミルクレープにしようと思ったんだけど、また話し合いに火がつきそうだったから、シュークリームにしたよ。片手で食べれるのがいいよね。
「小さいシュークリーム、いっぱい乗せたかったなぁ」
「それもおいしそうだよね」
「試作はこれからなんだし、落ち込まなくて良いと思うけど」
「うん、そうだよね。楽しみにしてる!」
「ああ、よかった。ルビアがシュークリーム食べながら落ち込んでるとこなんて見たくないもんね」
「言えてる」
「もうー、何よみんなして。シュークリーム、美味しかったよ。ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
食後の片づけをして、テントに潜り込んで就寝した。
また話し合いが始まると寝るのが遅くなっちゃうからね。
翌朝、良く晴れた日に朝食に選んだのは、ポテトサラダのサンドイッチと、卵のサンドイッチだ。
デザートはキウイのヨーグルト。
「うまい。ポテトサラダってパンと合うんだな」
「卵とマヨネーズを合えたサンドイッチって、いつ食べても美味しいね」
「両方おいしい。ポテトサラダにもマヨネーズを使ってるんでしょ。これはもうマヨネーズの大勝利……」
「みんな気に入ったんだね、良かったよ」
「お前たち、まだメニュー決めやってるのか? 朝からギラギラしてるぞ」
「ヨーグルトってさっぱりして美味しいね。メニュー決め、まだまだ頑張りますっ」
「考えてみたら2つきりじゃなくていいもんな。付き合うよ、ルビア」
「テッサ~~!」
意気投合したテッサとルビアの勢いに負け、第2回おいしいメニューを考えよう(仮)はデザート中心に、大変熱く燃え上がった。
帰路の馬車の中、ガイとカッスィーは少しだけげんなりしてしまったけれど、ガイが「母ちゃんに逆らうなって、父ちゃんが言うのはこういうとき」と、流れに任せて議論していた。なるほどとカッスィーも加わったのを見て、大人達は苦笑していたらしい。
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