ようこそ、トーミ町へ
人、人、人。どこを見ても人がたくさんいる。
ハイド男爵の家に訪問したときもそう思ったものだが、トーミ町で特徴的なのは冒険者と思わしき格好の人間がとても多いことに気がついた。
「エドさん。皆武器を持っているね」
「ああ。ダンジョンの町だからな、冒険者がたくさん来るんだ」
「へえー。僕たちもそう見えるかな?」
「見えるとも。さあ宿屋を決めるぞ。どっちに行きたい?」
「あっち! いい匂いがする」
「ガイ、走らないで!」
「むっ、じゃああの串焼きが食べたい」
「まず宿屋を決めてからね」
「デザートは、あんまりなさそう……」
「あそこにクレープがあるから、後で行ってみよう」
あっちこっちからおいしい匂いがしているのに、僕らを先導するガイの足取りはしっかりしてる。
さすがスキル【料理人】って所だろうか。
「おっと、ここでいいか、ガイ?」
「うん!」
「5人だが、部屋は空いてるか?」
「3部屋で良いかい。丁度空いてるよ。夕飯はオークの煮込みだよ。グリズリーの塩焼きも付けるが、夕飯付きでいいかい」
「そりゃうまそうだ。5人分頼むよ」
「毎度あり」
テッサとルビア、ガイとカッスィー、エドさんの組み分けで部屋に入る。
部屋は建物の2階で、ベッドと机が2つずつあるだけの簡素な部屋だ。壁紙はクリーム色、カーテンは薄緑色で落ち着いた色調だ。
大人では少々窮屈な部屋も、子供達にはちょうど良く、さっそくベッドにダイブしたりしていた。
「みんな、集まってくれ」
廊下からエドさんの声がして、子供達はドアを開けた。
「4人で固まって動くなら問題ない。俺は後ろをついて行く。ダンジョンの前に、町を見に行こう」
「行くー!」
「やったぁ」
「クレープ……」
「じゃあガイ先頭でいい? よろしくね」
「任せとけ!」
真新しい盾をガンと鳴らして、ガイは先頭きって階段を下りていった。
まず向かったのは肉串の屋台だ。
たくさんある出店に、カッスィーは目移りしてしまっていたが、ガイは目当ての屋台にまっすぐ歩いていく。意外な才能だな、と思った。
目当ての串焼きは銅貨5枚だった。味の濃いタレと塩が効いていて、おなかが減って疲れているときにぴったりだ。
肉はダンジョン産の猪を使っているそうだ。
「思ったより柔らかくて美味しい」
「ダンジョンのお肉って美味しいのね」
「タレが美味しくて香ばしい匂いが最高!」
「塩気が効いててうまい!」
美味しいお肉を食べて、5人は満足した。
「次はクレープがいい」
「ああ、行こう」
またガイの先導で甘い香りのクレープの屋台までやってきた。
甘い生地でバターと蜂蜜を包んだクレープ。これも銅貨5枚。
「甘くて美味しい」
「蜂蜜がうまい! これもダンジョン産?」
聞くと、やはりダンジョン産で特別美味しいものらしい。
ガイは是非仕入れたかったが、地下5階と聞いて諦めた。今回は地下3階までと決めているからだ。
「美味しかったね」
「地下5階は遠いな……」
「もぅ、ガイってばシャッキリしてよ」
「わかってる~」
「じゃあ、そろそろダンジョンに行ってみるか」
「賛成!」
「ガイも大丈夫か?」
「おう!」
「じゃあダンジョンに向かうぞ。ついて来てくれ」
「はーい」
エドさんについて暫く歩くと、ダンジョンの入り口に着いた。
入り口は大きな洞窟のようで、ぽっかりとその口をあけている。
中にはいるとまず階段があり、降りていくとぽつぽつと明かりが着いていた。
「さて、ここからは血吸い蝙蝠が出るぞ。弱いがくっつかれると血を吸われる。冷静に一匹ずつ倒していけ」
「はい」
ガイを先頭にルビア、テッサ、カッスィーが並び、一匹目がガイを襲うと、テッサが援護として切りかかる。
後衛も負けてはいない。
2匹目がテッサに飛びつく前にカッスィーの弓が命中し、3匹目はルビアのファイヤーアローで黒焦げになった。
「よし、戦えてるな。じゃあ、魔石を取り出そう。心臓のあたりにあるから、ナイフでえぐり取るといい」
「一匹につき1個だけ?」
「ああ、そうだ。魔石は一体につき1個だけで、大きさが大きいほど強いとされている」
「魔石、取れたよーっ」
「こっちもいいよ、次に行こう」
「その意気だ。じゃあガイ、進んでくれ」
「血吸い蝙蝠のほかには、ゴブリンだっけ?」
「そうだ。たまに一匹でふらついてるだろうから気を付けてな」
「はい!」
しばらく進んでいると、血吸い蝙蝠にガイが血を吸われてしまった。
勿論すぐに倒したが、血を吸われた場所が気になるので止まり、ポーションで回復した。
「エドさんのポーション、すげえ効く。もう傷跡もない。すげえー」
「ありがとうガイ。ガイは前衛だから怪我をしやすい。ポーションはまだあるからどんどん使ってくれ」
「はい!」
しばらく進むと、ゴブリンを一匹見つけた。遠くからカッスィーが矢を放ってみたが外れてしまい、ガイが盾でゴブリンを押さえ込む。そのまま剣でトドメを刺すと、ほっとひといきついた。
「今のゴブリン、カッスィーの方に行こうとしてたな」
「僕が先に攻撃したからだと思う」
「じゃあ、まず俺が敵を釣ってから攻撃したらどうだ?」
「そうだね。そうするよ」
「魔石取れたよ。次に行こう」
そして血吸い蝙蝠の魔石がジャラジャラ貯まってきた頃、地下2階の階段を見つけた。
階段を下りると、ボーンアンデッドがいた。
ガイが突っ込んでいき、剣で思い切り打撃を加えると、体の骨がバラバラに崩れて落ちた。
魔石を拾いながら、周りを見渡す。
地下1階とそう変わりはなさそうだった。
「このフロアはボーンアンデッドばっかりだけど、たまに血吸い蝙蝠も出る。気をつけて行けよ」
「はい!」
ボーンアンデッドはそこそこ数がいて、魔石もゴブリンより大きい。
打撃が有効なせいか、みんなでたこ殴りしていると倒せる為、なかなかおいしいモンスターとなっている。
「ファイヤーアロー!」
血吸い蝙蝠を焼き焦がし、ルビアがナイフを持ってボーンアンデッドを叩く。
「追加!」
追加のボーンアンデッドを釣ってきたガイも、剣で叩く。テッサとカッスィーは補助に回っている。
10体ほど倒し、道の端で休憩をとる。
ゼリー飲料を人数分出したカッスィーは、疲れに染み込んでいくような美味しさに頬を緩めた。
「美味しい」
「疲れたね~」
「初めてにしては上出来だ。これもうまくて疲れが取れる。ありがとうな、カッスィー」
「どういたしまして。今日は、このくらいで戻ったらどうでしょう」
「テッサはどうだ?」
「了解。もうすぐ3時間だし、帰ろう」
「目標のゴーレムは明日頑張ろう」
「よーし、じゃあ戻るぞ。ガイ、また先導を頼めるか? それとも交代するか?」
「せっかく慣れてきたとこなんでこのままで。みんな、いくぞ」
「おお!」
ガイを先頭に、僕たちは帰り道も十分に注意して戦闘をこなしつつ帰っていった。
ダンジョンの入り口に着くと、全員無事か確認をして、宿屋まで帰った。
宿屋について人心地着いた後は、待ちに待った夕食である。
「夕暮れ亭のオーク煮込みは一味違うよ。さぁ、食べておくれ」
おかみさんに促され、スプーンで一口。
「うまーい」
「おいしい。お肉がすごく柔らかくてトロトロ」
「これはうまいな」
「流石だな、ガイ。良い店見つけたな」
「えへへ」
「グリズリーの塩焼きもうまい。おーい、俺にエールくれ」
「はい、只今」
子供達は果実水で乾杯だ。
「初めての冒険の成功を祝って」
「かんぱーい」
「乾杯!」
「乾杯」
「かんぱい。エドさん、私デザートも食べたい」
「木苺の焼き菓子があるけど、これでどうだい?」
「じゃあ、5人分くれ」
「毎度!」
「中にジャムが入ってる」
「うまーい」
「ふわふわで美味しい」
「おいしいね」
「うまい」
「ごちそうさまでしたー!」
「はいよ、おやすみ」
「みんな、明日は1日ダンジョンでいいな? 朝9時に出発だ。朝食は8時に頼んである」
「わかりました。じゃあまた明日」
「おやすみー」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
疲れていたからか、夢も見ずに眠ってしまった。
翌朝。
朝食は卵と野菜のサンドイッチとスープだった。
美味しかったけれど、案の定ルビアがデザートを受け取りにきた。
チョコレートケーキを人数分出して、配膳する。
自分もひとくち。
「チョコがフワッとしてて苦味もあるけど甘くて美味しい」
「うまいなコレ。うちで作れないかな」
「ミラノさんが美味しいチョコレートケーキを焼いてたよ。これより甘いやつ」
「えっ。帰ったら1個丸ごと買って良い?」
「いいよ。ミラノさん次第だけどね」
「わかってるって。うちで焼ければ売れるんだけどな~」
「ガイが作ればいいじゃん。私、ホットケーキも好きだけど、チョコレートケーキも好き」
「チョコ味のホットケーキなら作れそう。ルビア、試食しに来いよ」
「絶対行く!」
「僕も行って良い?」
「もちろん。そんでまた何かうまいおやつ、出してくれ」
「じゃあ俺も行く。ガイのケーキもカッスィーのおやつも楽しみだ。」
「皆で集まろうぜ。楽しみだな」
また皆で集まることを約束し、暫し美味しいおやつの話で盛り上がるのだった。
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