フアラとチョコレートケーキ
子供たちのダンジョン行き計画は、おおむね好意的に大人たちに受け入れられた。
何故なら、引率に薬師エドがつくことになったからだ。
彼は元Bランク冒険者で、護衛の仕事も慣れている。何より危険を良く知る彼が了承したことが大きな判断材料となっていた。
「でも、危ないんでしょう?」
というフアラに、
「危なくないダンジョンはありませんよ。しかし、自分が一緒に行くから大丈夫です。子供じゃなくても、一攫千金の夢を見てダンジョンに潜る奴は後を絶ちません。むしろ、良い経験になりますよ」
ベンも迷っていたが、カッスィーを含めて村の子供に良い経験になるのならと頷いた。
打ち合わせのために村長宅にやってきたエドは、ダンジョンの怖さを教えるためにも初心者ダンジョンはちょうどいいと、笑っていた。
フアラはデザートのチョコレートケーキを食べながら、ひといきついていた。
フアラはカレーは辛党だが、甘味は濃厚な甘さのものを好んでいた。
カッスィーがスキル【ネットスーパー】を授かるまでは、濃厚なチーズケーキが一番好きだったが、現在はブランデーの香りを効かせたチョコレートケーキが一番好きである。
濃厚なチョコレートケーキが舌の上でゆっくりと溶けていくのを楽しみながら、客人であるエドに向き直った。
「どうやらカッスィーは自分のスキルに自信がもてないらしい。ダンジョンで補給係をやって、しっかり役に立つところを実感したいんだろう」
「このチョコレートケーキもそうだし、ハイド男爵家との取引もそう。カッスィーがいなければ成立していないっていうのに、自信がないものなのね……」
「フアラは本当にチョコレートケーキを気に入っているな。優しいあの子ならば、それだけで満足しそうなものだが……」
ベンもケーキを食べながら、そういえばと思い出す。
「エド、カッスィーがスキルでウィスキーを出してな。自分は飲めないからと私にくれたんだ。ハイド男爵家にいずれは献上せねばならんから、味見をしておる。一緒にやらんか?」
「おおぜひ。気に入った酒は買えるんだろう?」
「もちろんだとも。銀貨が必要になるが、問題ない。ただどれがうまいのかわからないと言っていたんだ」
「良い酒はすぐなくなっちまうからな。カッスィーには感謝するしかないな。将来は商人を考えてるって言ってたぜ。それなら早いうちに旅を経験させておかないとな」
晩酌の約束をしたエドは夕飯にえび炒飯と焼き餃子、中華スープとポテトサラダを相伴頂いた。
「う、うまい。エビがたっぷり入った炒飯と肉汁たっぷりのカリッとした食感の餃子がピッタリだ。中華スープも奥行きのある味わいで最高だ」
一緒に食べたベンとフラウも米になれてきており、おいしい、と食べていた。
そこでミラノは箸の話をすると、ベンは深い青色、フアラは落ち着いた赤、エドは茶色をオーダーする事になった。
炒飯を気に入ったエドは、米も買っていくと言い出した。これでティティー村では5軒目である。
今のところ食堂を筆頭に米はよく売れているが、個人宅ではまだまだ普及していない。
米の良さをお勧めする料理が今のところカレーライスである為、食堂で十分済んでしまうのだ。
食堂は規模を大きくしたところなので、ガイを連れて行くと問題があるだろうか。
エドはそう思っていたが、ニネさん夫婦に尋ねると、いつも手伝いばっかりやらせているから行きたがっているならぜひ連れて行ってくれと頼まれてしまった。
食堂は元祖カレーライスの店として、新装開店している。冬支度が始まるこの時期に、馴染みの商人以外でたくさん人が訪れるなんて今までなかったことだ。
それに併せてゲン宅だけじゃ宿が足りないだろうと、トモロの家も宿屋を始めた。
売上も上々と聞いているので、ベンもほっとしている。
カッスィーのスキル【ネットスーパー】は間違いなくレアスキルである。
そして有用であるからこそ、弁当交換のような誤解を受けさせようとハイド男爵家の嫡男は言っていた。
スキル【物々交換】に似て非なるスキル。
自信がないカッスィーに、ダンジョン探検が良い影響を及ぼしてくれればいいと、ベンとフラウは願わずにいられなかった。
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